学ぶべきこと
――そして、三十七度目。
ハルピュイアのクエスト等級が他二匹と同じC級であることを確認した明は、どのモンスターを相手にクエストを行うのかを考えた。
三匹のボスモンスターの特徴を上げれば、ハイオークは他二匹の中でも最も筋力値が高く、リザードマンはどのボスよりも耐久値が高い。ハルピュイアは速度が高く、さらには魔法を使ってくるモンスターであることが分かっている。
等級はどれも同じ。
レベルに関しては、リザードマンが他二匹と比べるとややレベルが高いが、このレベルになればそれも誤差の範疇だろう。リザードマンを相手にしようが、ハイオークを相手にしようが、どのモンスターを選んでも最終的なレベルは変わらないに違いない。
(……どうするかな)
心で呟き、考える。
どのボスモンスターを相手にしようが、今の魔力値ならば『剛力』と『疾走』を使えばまず間違いなくこの三匹は討伐することは出来る。
それだけの力は、もうすでに身に付けている。
(けど、それじゃあダメだ。今までと同じだ)
タイプの違うそれぞれのボスモンスターを立て続けに相手して、分かったことがある。
それは、自分で思っていたよりもずっと、ステータス補助のスキルに頼り切っていたということ。
元は『魔力回路』のスキルレベルアップのために始めたクエストだったが、どうせ死に戻るなら、と『剛力』と『疾走』をあえて使わずにボスへと挑んだことで、自分自身に足りないものが多く見えてきた。
まず、自分よりも筋力値が高いモンスターを相手にした時、その攻撃を正面から受け止めずに、あえて力を流す技術。
それは、俗に言えば〈受け流し〉とも言える、スキルとはまた違う戦闘技術の一種で、『剛力』という圧倒的なステータス補助の力を身に付けてしまったがゆえに、一条明がこれまで身に付けることの無かった技だった。
『剛力』に頼れば、その技を身に付ける必要がないのは分かってる。
だがこれから先、たとえギガントを倒すことが出来たとして、ギガント以上の筋力を持つモンスターが出てきた場合、今までと同じように『剛力』に頼っていくのか?
ステータスが足りなければ、ステータス補助の力を伸ばすためにまた、魔力へとポイントを割り振っていくのか?
……クエストは、格上のモンスターを相手にしか発生しないものだ。
レベルアップを繰り返せば必然的に、クエストが発生するモンスターは限られてくる。
レベルアップとはすなわち、明自身の成長だ。
明自身が成長していけば、そこらのボスもいつかは〝格下〟になってしまうのは間違いない。
そうなれば、今この瞬間のように。強力なボスが出現し、その討伐に行き詰ったからといって安易にクエストを頼りにすることも出来なくなる。
この世界にレベルやスキルが現れてから、与えられるポイントは常に貴重で、有限だ。
一条明はただ、与えられるポイントの上限が人よりも高いだけにすぎない。
有限が、無限になったわけではないのだ。
(剛力や疾走抜きで戦える手段を、今のうちから身に付けておいたほうがいいな)
今はまだ、クエストに頼ればいい。
けれど近い未来にきっと、クエストを発生させること自体が困難になってくる。
その来るべき時に備えて、この固定化された『黄泉帰り』を使って研鑽を積むことは悪いことではないように思えた。
(つっても、今のままのステータスだったら受け流しも満足に出来やしない。せめて、筋力と速度が同じにはならないと)
そこまで考えて、明はため息を吐き出す。
「そうなると、身体強化のスキルレベルを上げるべきだな」
現在、明の取得している身体強化はLv3。次のレベルに必要なポイントは40と少々――いやかなり、ポイントが必要になってくる。
それでも、身体強化のスキルレベルアップで得られる恩恵は大きい。
Lv3の時点で、筋力、耐久、速度がそれぞれ50上昇した。
Lv4ともなれば、得られる恩恵はその時以上。もしかすれば、各ステータスが100は上昇するかもしれない。
(あと、今の俺に必要な技術は……)
と、明はさらに思考を重ねる。
(そうだな。あとは、攻撃を見切る力と、攻撃の正確性か?)
見切りの技術と、攻撃の正確性。
それは、リザードマンを相手に戦っていて痛感した技術だ。
リザードマンのように、急所を突く的確な攻撃が出来るようになれば僅かな筋力でも致命傷を与えることが出来るのは間違いない。そして同時に、こちらの急所を狙う攻撃だけを見切り、躱し、もしくは受け流すことさえ出来れば、どんな攻撃を受けたとしても戦闘は続けられる。あっけなく死に戻ることはなくなる。
(ハルピュイアが、魔法を使ってくるのもありがたい。これから先、魔法を使うモンスターを相手にする練習にはなるな)
モンスターが強化されてからというもの、ボスモンスターはそれぞれの個性に応じたスキルを使うようになった。
自分のステータスを強化させるものだけならまだいいが、ウェアウルフのように決まった動きでその威力を発揮するスキルや、魔法を使うモンスターは他にも存在しているはずだ。
三匹ともに、学ぶべきところが多くある。
「よし、決めた」
と明は呟き、動き出す。
クエストを、どの順番で回るのかは決まった。
まずはハルピュイアを相手に発生しているクエストを、『剛力』や『疾走』を用いてすぐに終わらせる。
そうして、報酬で得たポイントを使って身体強化のスキルレベルを上げてから、他二匹へと『剛力』と『疾走』を使わずに挑み、勝利する。
そして最後に、再びハルピュイアへと『疾走』も『剛力』も使わず挑み、勝利することで、このクエスト周回を終えることにしよう。