効率的な命の使い方
Twitterでもお知らせしてましたが、『失態、敗北』に追加描写(ギガントに再遭遇した際にクエストが発生していなかった)してます。
ステータス項目の魔力値へと、ポイントが急に割り振れなくなった原因は分かった。
ギガントとの戦いのことを思えば、今すぐにでも『魔力回路』のスキルレベルを上げるべきなのだろうが、肝心のポイントが足りない。
それを解決する手段はレベルアップによるポイント獲得が一般的だが、一条明に限ってはそうではなかった。
(このレベルにまでくると、そうそうレベルなんて上がらないからな。久しぶりに、アレをやるとしよう)
――アレ。つまりは、クエストだ。
一度格上のモンスターに敗北することを条件に、死に戻った先の世界でのみ挑戦することが出来るそのシステムは、敗北したモンスターを倒した場合にのみポイントという報酬を貰える。
今の明が1つレベルを上げようと思えば、雑魚モンスターを丸一日狩り続けてようやく、レベルが上がるのか上がらないのかといった具合だろう。
しかしそのクエストさえ終わらせれば、自身の死と引き換えにはなるが大量のポイントが一度に手に入る。
問題は、どのモンスターを相手にクエストを発生させるのかということだ。
クエスト発生の条件が〝格上〟である以上、今さらゴブリンやブラックウルフなどといったモンスターを相手にクエストを発生させることは出来ない。
このクエストはその性質上、常に格上モンスターとの戦いを余儀なくされる。そのため、クエスト達成と同時に明にはレベルアップが生じてしまい、同じ雑魚モンスターを相手に同じクエストを発生させることが出来なくなる。
ゆえに、レベルアップを繰り返す明が受けることの出来るクエストといえば、明自身とのレベル差があるボスモンスターに限られてしまう。
とはいえ、ボスモンスターを相手に何度も同じクエストを受けることなんて出来やしない。
ボスモンスターを倒せば、必ずと言っていいほど『黄泉帰り』地点が更新されるからだ。
明の『黄泉帰り』は、例えるなら一つのセーブデータファイルに上書きでオートセーブが行われているようなものだ。もう一度ミノタウロスと戦いたいと思っても、ボスを倒した時点でそのオートセーブが発生する以上、その願いが叶うことは無かった。
(――――けどそれも、今だけは違う)
明は、ゆっくりと息を吐いた。
幸運にも、今は柏葉のシナリオによって『黄泉帰り』地点は固定化されている。
いつものようにボスを倒したとしても死に戻る場所が移動することがない以上、同じボスモンスターを相手に同じクエストを受け続けることも理論上は可能になっていた。
(となれば、どのボスを相手にクエストを発生させていくのかだけど……)
現在、明の総合レベルは68。
これまでのレベルアップ速度を考えても、そのボスモンスターのレベルによるだろうが、生じるレベルアップは一度に10レベル前後だ。
そう考えると、この方法を取ることが出来るのもよくて五回。いや、もしかすれば三回も繰り返せば周囲の街に残るボスモンスターを相手に、クエストが発生しなくなるのかもしれない。
周囲の街に残るボスは、ギガントを除くとハイオーク、リザードマン、ハルピュイアの三匹。
ハイオークに関しては一度、そのステータスは確認済み。残る二匹に関しては、強化前の情報はあるものの、今時点での強さは未知数だ。
限られたクエスト回数で最大の報酬と成長を得られるのがベストである以上、どのモンスターを相手にクエストを発生させるのかは慎重に決めなければならなかった。
(クソッ、しまったな……。ギガントに殺される前に、ハイオークのクエストだけでも見ておくべきだった)
ハイオークのステータスを確認したのは良かったものの、次の人生ではハイオークに再戦することなくギガントに敗れた明だ。クエスト発生条件を一度は満たしてはいながらも、ハイオークに与えられたクエスト等級は未確認だった。
(ギガントのレベルが112で、ハイオークのレベルが確か……104だったか? どちらも同じレベル100越え。クエストの等級分けが何を基準に分けられているのかはっきりとしていない以上、もしかすればハイオークもギガントと同じB級クエストかもしれない)
もしも、クエストの等級がレベルで分けられているのならば、ハイオークもギガントと同じB級にあたるだろう。
しかし、レベル以外の要因――例えばステータスやそのモンスターが持つ危険度なんかで分けられていれば、ハイオークが持つクエスト等級はギガントと同じではない可能性が高い。
(もしもハイオークがB級なら、クエストを繰り返す相手はハイオーク一択だ。なにせ、ハイオークのステータスはギガントよりも低いからな。ギガントを倒した時に貰える報酬と同じで、ギガントよりも弱いモンスターなら迷う余地はない)
それを確かめるにはもう一度、ハイオークに挑み敗れる他に方法はない。
そしてこの考えは、残された二匹のモンスターにも同じように通ずる。
「……仕方ないな」
明は諦めにも似たため息を吐いた。
「一度、すべてのボスモンスターと戦うしかないか」
周辺のボスを相手に三度敗れて、その等級を全て確認する。
周囲に残るボスモンスターの中で、どのモンスターを相手にクエストを繰り返すのが一番効率的なのかが分からない以上これから、一条明が取るべき行動は一つしかなかった。
とはいえ、ただ身を晒して殺されるだけなのが癪なのも事実だ。
悩みに悩んだ結果、明は剛力や疾走といった補助スキルを使うことなく戦ってみることにした。
これまで、疾走や剛力といったステータス補助に助けられてきた。
モンスターが現れる以前は、斧や剣など手にしたことなどあるはずもない。これまでの繰り返しの中で、多少その扱いにも慣れたとはいえモンスターとの戦闘だって未だに戸惑うことも多い。
ならばいっそ、この際に戦闘の経験を積んでおこう。
補助スキル無しでも、ある程度戦うことが出来るようにしておこう、と。
明は、この人生での命の使い方をそう決めた。