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奇襲



 進路を北へと変えて、二キロほど進んだあたりだろうか。

 これまでに感じた揺れの中でもひと際大きな、衝撃を伴うかのような激しい揺れが明達を襲った。


「っ!」

「きゃあっ!」


 息を飲む音と、短い叫びが同時に重なる。

 地響きを伴う大きな揺れは十数秒ほど続くとようやく収まった。

 全員が互いの顔を見渡して、それぞれの無事に深い安堵の息を吐き出すと、今度は柏葉が固い顔のまま呟いた。



「あの。私たち、ギガントから離れるためにこっちに進んでるんですよね?」

「…………ああ、そうだな」

「ですよね。すみません、なんだか全然離れてるような気がしなくて……。ありえない、ですよね」


 そう言って、柏葉は取り繕うように笑った。

 けれど、その笑顔に笑い返す者は誰も居なかった。

 その場に居た全員が、柏葉の言った言葉をその身で感じ取っていたからだ。


 ルートを変えて進んでいるはずなのに。

 揺れは次第に大きくなり、背後から迫るべったりとした殺気が重く圧し掛かってくる。

 それはまるで、あの巨人がしかと狙いをつけて追いかけてきているかのような。

 そんな、息が詰まるかのような錯覚。



「とにかく」


 ――急いで前に進もう。



 そう口にしようとした言葉は、軽部の発した言葉によって遮られた。




「ッ、全員伏せろッ!!」




 激しい口調によって叫ばれたその言葉は、明の身体を反射的に動かした。



「ッ!」

「なッ」

「ぎゃっ」


 弾かれたバネのように動き出した身体は、軽部の言葉に反応することが出来ていなかった奈緒と彩夏の頭を掴み、無理やりに地面へと押さえ込んだ。あまりにもそれが乱暴だったからか、奈緒の口から驚きの声が漏れて、彩夏の口からは潰れた蛙のような悲鳴が聞こえた。


「ちょっと!!」


 すぐに彩夏から非難の声が上がった。

 けれど、その声に反応している暇はなかった。

 明はすぐさま周囲の状況を把握するために目を向ける。すると、すぐ傍では軽部が柏葉の身体を押さえつけるようにして地面へとしゃがみ込んだところだった。


「いったい何なの!?」


 と、彩夏が再び文句の言葉を口にする。

 その、瞬間だった。




「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」




 空に轟く雄叫びが、空気をビリビリと震わせた。

 直後、明の全身の毛が一気に逆立つ。それが、何の感覚であるかなんて考えるまでもなかった。


(―――――ッ)


 咄嗟に、奈緒と彩夏を庇うように明は二人に覆いかぶさった。

 それと同時にバキバキと木々がなぎ倒される音が聞こえて、巨大な何かが明達の頭上を通り過ぎていく。


「なッ!?」


 視線を上げて、明は頭上を通り過ぎたソレを見た。

 明達を襲ったモノ。それは、樹木に半ば飲み込まれていた家屋の残骸とも言うべき瓦礫の塊だった。

 ギガントの手によって幾本もの樹木が一斉に引き抜かれて、投げ飛ばされたその内の一本が明達を襲ったのだ。

 瓦礫は、周囲の木々をなぎ倒しながら転がりやがて止まる。

 その光景に明達が呆然としていると、再び軽部の声が鼓膜を叩いた。


「走って!! また来ますよ!!」


 その言葉の直後。再び、明達の頭上を何かが覆った。

 ビルだ。樹木と一体化していた高層ビルの残骸が、空高く宙を舞っていた。

 それは大きさにして数十メートルに及ぶ巨大な残骸で、宙へと浮かんでいたその残骸は真っすぐに、明達の元へと落ちてきていた。



「くッ!」



 奥歯を噛みしめて、明は動き出す。

 彼女たちの上から立ち上がり、すぐさま両足へと力を込めて。

 取り落としていた斧を拾い上げると同時に地面を蹴って、明は空中へと躍り出た。


「っぁあああああああ!!」


 叫び、腰元に構えていた斧を振り払う。


 ――一閃。


 赤い月光が降り注ぐ夜を切り裂くように、真っ直ぐに引かれた銀閃がその巨大な瓦礫を切り崩した。



「ッ、ショックアロー!!」



 ついで、状況を把握した奈緒が頭上へとむけて拳銃を構えるとその魔法の名前を叫んだ。

 直後、銃口から飛び出した光の矢は、明によって切り崩された瓦礫の破片へとぶつかりその衝撃をもってさらに細かく打ち砕く。


「っ、まずい!」


 細かく砕けた瓦礫片が数十もの塊へと変わり、地上に降り注ぐのを見て明が声を上げた。

 その声に応じるように、動き出したのは彩夏だった。



聖楯(シールド)ッ!!」



 彩夏は宙へと向けて両手を向けるとそのスキルの名前を告げる。

 刹那、その声に反応して彩夏の正面に半透明状の青白い膜が広がった。

 膜は地上に残った奈緒たち四人を覆う。降り注ぐ瓦礫は展開された膜に直撃し、硬い音を響かせながら地面に転がった。


「みんな、無事か!?」


 ひとり離れた場所に着地をした明はすぐさま振り返り、奈緒達へと声を掛けた。


「なんとかな! 一条、お前は!?」

「こっちも平気です!! それよりも、今のは――――」

「ギガントです! あのモンスターに、見つかったんですよ!!」


 いち早く、この危機を察していた軽部が大きな声を上げた。


「ッ、アイツか」


 明は軽部の言葉に舌打ちを漏らした。

 どうして、あのモンスターに見つかったのかは分からない。けれどその理由を考えるよりも先に、今はやるべきことがあった。



「逃げましょう! 俺が道を拓きます! 奈緒さんは俺の後ろで、トーチライトを使いながらみんなの足元を照らしてくださいッ!!」



 明は斧を手に駆け出すと、傍にあった藪へと向けて斧を振るった。

 振るわれた刃はまるで溶けたバターを切り裂くように、行く手を遮る枝葉をあっさりと斬り落とす。そうして、ぽっかりと出来上がった洞のような隙間へと向けて明は迷いなく足を踏み込んだ。

 明が動き出したのを見て、奈緒もまた明の後ろを追いかけ始めた。それを見て、柏葉、彩夏、軽部と順に身を投げ出すように藪の中へと足を踏み入れていく。


「っ、また来ます!」


 再び、軽部が叫んだ。

 その声に反応して、明はすかさず足を止めて振り返った。


「ッ!」


 次の瞬間。明の頭上を黒い影が通り過ぎた。

 車だった。車体の半分を樹木に取り込まれてはいるが、辛うじてその形を保っている。ボンネットとフロントガラスを突き破るように伸びた樹木は半ばからへし折られていて、狙いすましたかのように落ちたその位置は、直前まで明が進んでいた方角の先だった。


 もう、間違いようがない。

 あの巨人は確実にこちらを狙い、攻撃を仕掛けてきている。



「チッ、くっそ!!」



 明は短く舌打ちをして、すぐさま方向を変えて走り出す。そして、背後に続く軽部へとちらりと視線を向けると叫ぶようにして言った。


「軽部さん! さっき、事前に攻撃が来ることを分かってたみたいですけど、どうしてですか!?」

「危機察知のスキルです! スキルの影響で、私自身が把握していない奇襲を含む攻撃は全て、直前に察することが出来るんですよ!」

「なるほど、それで」


 危機察知は自分に差し迫った危険があれば知らせてくれるスキルだ。

 以前、軽部のステータスを覗き見た際に軽部はそのスキルを取得していた。その影響で、こうした奇襲のような攻撃を事前に察することが出来ているのだろう。


「軽部さん、引き続き事前に攻撃を察することって出来ますか?!」

「多分、大丈夫です! ですが、先程のように察知できるのはせいぜい一、二秒前が限度ですよ!?」

「十分です!!」


 言いながら、明は斧を振るって前を遮る枝葉を切り捨てた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 2秒前に問答無用で危機を察知できるなら、物凄く有用なスキルな気が。 相手とのステータスがどんなに離れていても、危機察知スキルさえあれば、少なくとも「致命的な攻撃をされる」ことを認識できるっ…
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