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森の中

後半戦スタートです。よろしくお願いします。

また、後半戦開始に合わせて『報酬の差』の内容を修正しています。




「はっ、はっ、はっ、はっ!」



 幾重にも木の葉が重なる草深い森の中を、五人の男女が一心不乱に駆けていた。

 先頭に立つのは、身の丈以上の巨大な斧を肩に担いだ男――一条明だ。

 明は、その手に持つ巨大な斧で行く手を遮るように枝葉を伸ばす木々を一振りのもと斬り落とすと、続く背後に向けて叫びを上げた。


「奈緒さん、本当にこっちで合ってるんですか!?」

「多分ッ! あたりが急に森へと変わって、以前とは地形がまるで違うけど! 隣街があった方角までは変わらないだろ?!」


 そう言って、明のその言葉に答えたのは黒髪を頭の後ろで束ねた女性だった。

 奈緒の周囲にはふわふわとした光球が浮かんでいて、その光が――木々の隙間からときおり降り注ぐ真っ赤な月光を除けば――鬱蒼とした森の中では唯一の光源となっている。


「というか、そのあたりの感覚はお前の『第六感』で分からないのか!?」


 ときおり、その視線が周囲の木々へと注がれているのを見るに、彼女自身もこの状況に不安を覚えているのだろう。奈緒は、手にした拳銃を固く握りしめたまま声を上げた。


「スキルレベルが低いからか、『第六感』による直観が働くのはまだムラがあるんですよ! 分かるんだったら、もうすでに言ってますって!!」

「だからって、もし私が間違ってたらどうするつもりだ!」

「その時は覚悟を決めるしかないですね」

「覚悟って――お前なぁ! そんな簡単に」

「七瀬さん! 一条さん!! 言い争いしている場合じゃないですよ! 来ます!!」


 そう、二人の声を遮るように。五人の中では一番年上であろう迷彩服を身に付けた坊主頭の男性が、二人の後ろから叫んだその瞬間のことだった。




「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」




 地面を揺るがすかのような低く轟くような叫び声が聞こえた。

 ついで、バキバキと木々をなぎ倒すような音が響いて、立っていることさえも出来ないような凄まじい衝撃と揺れが明達を襲う。


「ッ!!」


 その揺れに耐えるように、明達は必死の形相となってその場へとしゃがみ込んだ。

 誰も言葉は発しなかった。いや、発せなかった。

 下手に口を開けば舌を噛み千切るほどの衝撃だ。男性の言葉にいち早く反応して、口を閉ざすことしかみんな出来なかった。

 そうして必死に、激しい揺れが収まるのを待ち続ける中。

 ふいに全身の毛が一気に逆立つような、チリチリとした殺意を感じて一条明はゆっくりと背後を振り返った。



「――――――――ぁ」



 そして、明は見てしまう。

 木々の隙間から、こちらを見下ろすその巨大な瞳を。

 明確な殺意を持って、背後から迫る巨人がゆったりとした動作でその巨岩の如き拳を振り上げるのを。



(どうして)


 と、巨大な拳がゆっくりと眼前へと迫るのを見つめながら、明は心の声を漏らす。



(どうして、こうなった)



 何がいけなかったのか。

 どうすれば良かったのか。

 走馬灯のように脳裏に巡るこれまでの自分の行動を振り返り、一条明はそう心の中で言葉を溢す。

 けれど、いくら考えたところで解決策が浮かばない。

 始まりは、あの画面にある。

 ――世界反転率4%。

 この勝ち目のない逃走劇は、あの瞬間から全てが始まった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、改めてこの世界の終わり具合を見ると、アーサーとかも逃げ延びた先でワンチャン死んでそうだなと。 てか、アーサーくらい強い奴多分他にもいるでしょ。 流石に主人公の周りだけに強い奴がい…
[良い点] 回を追うごとに表現力とその多様性に磨きがかかっていきますね。努力の跡が窺えます [一言] 遅ればせながら、書籍化おめでとうございます。 一読者としてお祝い申し上げます
[良い点] なぜこんなにも絶望的な状況になったのか… [一言] 更新感謝 これからの展開が気になりすぎて夜しか眠れない
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