報酬の差
「にしても……。それだけ毎日クエストを受けることが出来るなら、製作スキルも解体スキルも取得すればいいじゃねぇか。どうしてさっき、ポイントが厳しいみたいな言い方をしたんだ?」
明は、首を傾げながら言った。
クエストさえあれば、その報酬でポイントが貰える。毎朝、クエストが発生しているのであればポイントに困るなんてそうそうないはずだ。
そう思って口にした言葉だったが、彩夏には上手く意味が伝わらなかったようだ。
彩夏は、怪訝な表情となるとすぐに言い返してくる。
「なに言ってんの? クエストをクリアしたところで、すぐにポイントなんて貯まるわけないじゃん」
「ん? 貯まるだろ?」
「はぁ? あの報酬じゃあポイントなんてすぐには貯まらないでしょ」
「……クエストの報酬の話、だよな?」
「……だから、クエストの報酬の話でしょ?」
――――何かがおかしい。会話がすれ違っているような気がする。
明は、眉根に皺を刻みながら片手を突き出し彩夏を見つめると、その違和感を問いかけた。
「花柳、お前……。クエストの報酬で何を貰ってるんだ?」
「何ってそりゃ経験値でしょ。違うの?」
その言葉に思わず、明は微かな唸りをあげて考え込んだ。
報酬で経験値が貰えるのは決して悪いことではない。むしろ、レベルというシステムがある以上、報酬として貰えるならば嬉しい分類にはなるだろう。
しかし、ポイントというスキルやステータスに変えられるものを報酬として貰えたほうがまだ、即戦力に繋がるという意味では遥かにマシだ。
(経験値か……。だったら、今の花柳のスキルの数も納得だな)
固有スキルを持っているにも関わらず、花柳のスキルの数はかなり少ない。
もしもクエストによる報酬でポイントがもらえていたならば、所持するスキルは今の倍――もしくは、スキルレベルの高いスキルが一つや二つはそのステータス画面に並んでいるはずだ。
(クエストが簡単に受けられる分、その報酬は差があるのか……。そう考えると、報酬がポイントだった俺はまだマシだったな)
明はそんなことを考えて、彩夏に知られることなく心の中でため息を吐き出した。
「ねぇ、黙り込んでいるところ悪いんだけど。もしかして、オッサンとあたしじゃ報酬が違うわけ?」
そして、そんな明の表情を見て何かを察したのだろう。彩夏は、明を見つめてそう言ってくる。
その言葉に、明は何と答えたものかと考え込んでしまった。
報酬の違いを話すのは容易い。
けれどそれによって分かるのは、本来なら知らなくても良かった、不平等とも言うべきシステムの差だ。
ただでさえ固有スキルの違いに憂いていた彩夏だ。そこに、クエストによる報酬の違いもあると分かれば彼女の心は大きく荒れるに違いなかった。
「…………そう、だな。お前が考えている通りだよ」
結局。
明は、報酬の違いを隠さず伝えることにした。
今ここで、彼女にこの情報を伝えたところで何かメリットがあるとは思えない。
とはいえ、仮にこの情報を隠したとしても、彼女と共に行動していればいずれはバレる嘘になるのは違いないのだ。
だったら、どうせバレる嘘ならば。
今ここで、この情報を彼女に隠す必要はない。
たとえこの情報が、彼女の心に嫉妬の火種を宿すことになろうとも。
情報を下手に隠すことで彼女との間に不信の禍根が残る可能性があるのならば、この真実は、下手に隠さず伝えるべきだと明は思った。
「俺のクエスト報酬と、花柳のクエスト報酬は違う。俺のクエスト報酬は……ポイントだ」
その言葉に、彩夏の瞳が僅かに大きく見開かれた。
それから、彩夏は肺の中の空気を全て吐き出すように重たいため息を吐き出すと、やがて小さく呆れた笑みを浮かべた。
「……そう、やっぱり。なんとなく、アンタの表情で察してたよ」
「花柳、俺は――――」
「あー、いいっていいって。別に、それでどうこう思うことはないよ」
彩夏は明の言葉を手を振って遮ると、そう言って笑った。
「そりゃ、ポイントと経験値だったらポイントの方が嬉しいけどさ。でもそれって、それだけオッサンのクエストがキツイってことでしょ? 違う?」
「まあ確かに、俺のクエストは常に格上のモンスターと戦って倒さなきゃいけないんだけどさ」
「それだけ? ポイントが報酬ってことは、他にも何かあるんじゃないの?」
彩夏は、そう言うと明の顔をじっと見つめた。
その視線に、明は小さく息を吐くと残りの言葉を吐き出す。
「……クエストの発生条件がまぁまぁ厳しい。絶対に、格上のモンスターを相手に死ななきゃいけない」
「ほら。あたしと全然違う。クエスト出すために死ななきゃいけないなんて、それただの苦行じゃん」
彩夏は明の言葉に小さく笑った。
「あたしの場合はさ、アンタと比べたら楽なもんだよ。毎朝、あたしが何もしなくても絶対にクエストが発生する。オッサンみたいに死ぬなんて苦痛を受ける必要もない。……それに、経験値を貰うだけって言っても、毎朝受けるクエストの内容によって、報酬で貰う経験値の量も変わってるんだよね。楽なクエストほど貰える量も少なくて、ヤバめなクエストほど経験値量も多い。だから、人よりも早くレベルアップ出来るって利点もある」
だから、と彩夏は言葉を続ける。
「あたしも、オッサンみたいに過去に戻れるような固有スキルだったら、報酬が良いクエストの日を何度も繰り返したんだけどね。そうしたら、ほら。あっという間にレベルも100ぐらいになりそうじゃん?」
「……そうだな。もしそれが出来たら、まず間違いなく花柳が一番強かっただろうな」
「でしょ? あたしもそう思う」
彩夏は、明の言葉に口元を吊り上げるようにして笑った。