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デイリークエスト


 

 柏葉の手によって創り直された斧を手に、明は彩夏を伴って柏葉の部屋を後にした。

 薄暗い廊下を歩きながらスマホで時間を確認すると、時刻はあと数分ほどで午後九時になろうとしているところだった。

 眠りにつくには少しだけ早い時間だが、彩夏はもう身体を休めることにしたようだ。



「さて、と。あたしはそろそろ寝ようかな。ありがと、いい暇つぶしになったよ」


 と、欠伸混じりに大きく伸びをしながら彩夏は言った。



「それにしても、製作スキルだっけ。今までスルーしてきたけど、なかなか良いね。あたしも、何か一つぐらいは取得しようかな」

「製作スキルだけ持ってても意味がないだろ。あれは、解体スキルとセットで使えるようになるスキルだ。製作する気があるなら、解体も取得しなきゃな」

「んー、それはちょっとね……。ポイント的にも厳しいし」

「ポイント?」



 彩夏が呟いたその言葉に、明はそういえば、と以前浮かべていた疑問を思い出す。


 柏葉のシナリオや死に戻りなどが重なって、なんだかんだで聞きそびれていたが、彩夏もまた、明やアーサーと同じ固有スキル持ちだ。あのアーサーにもクエストが与えられていたことを考えると、彩夏にも明やアーサー同様にクエストという特別なシステムが与えられていてもおかしくはない。


(クエストがあれば、ポイントに困るってこともそうそう無さそうな気もするけど……。そのあたり、どうなんだ?)


 いい機会だし、今のうちに聞いておくか。

 そう心で決めると、明はさっそくその疑問を彩夏へとぶつけた。



「そう言えば花柳、お前に聞きたいことがあったんだった。ちょうどいい機会だし、聞いておきたいんだけど」

「あたしに?」

「ああ、お前……。クエストって受けてるか?」


 その言葉に、彩夏がピタリとその足を止めた。



「……どうして、オッサンがそれを知ってんの?」



 それまでに浮かべていた表情を一変させて、彩夏はその目を細めて明を見つめると、疑るように呟いた。

 明は、彩夏を見つめると小さく肩をすくめて、敵意がないことを示すように笑って答える。



「どうしても何も、俺も受けてるからな。安心しろ、そんなに警戒しなくてもこのことを誰にも言うつもりはないよ」

「…………」


 彩夏は、その言葉の裏を図るように明を見つめた。

 けれど、どうやら最後には明の言葉を信じることにしたようだ。

 彼女は大きなため息を吐き出すと、やがってふっと息を吐くようにその身体の力を抜いて、周囲に誰も居ないことを確認してからようやく、長く閉ざしていたその口を開いた。


「まあ、オッサンもあたしと同じように固有スキルを持ってるんだったらありえない話じゃない、か。……そうだよ。オッサンの言う通り。あたしは、クエストってヤツを毎朝受けてる」

「やっぱりか」


 と、明は花柳の言葉に小さく呟き視線を彷徨わせると、思考を巡らせた。



(となると、固有スキル持ちは全員、クエストがあるってことか? いやまだ確定は出来ないけど、そう考えたほうが自然だよな。…………それにしても『毎朝』、か。格上のモンスターに殺された時にしか発生しない俺とは随分と差があるな。アーサーが口にしていたクエストも俺のものとは違ったし、もしかして、人によってクエストの内容そのものが違うのか?)



 思わず、明は心の内でため息を吐き出した。

 一条明のクエストが一般的な、条件(フラグ)をトリガーに発生するクエストだとするならば、花柳が受けているクエストはいわばデイリークエストというものに分類されるものだろう。一方で、モンスターを規定回数倒して報酬を得ていたアーサーのクエストは、討伐クエストに分類される。



(まあ、それで言えば俺のクエストも討伐クエストのようなものだけど)


 と明が心の内でそんなことを考えていると、彩夏が首を傾げながら疑問を口に出してくる。



「ねえ、オッサンもクエスト受けてるんでしょ? やっぱり、あたしと同じようなヤツなの?」

「いや、俺のクエストは毎朝発生するようなものじゃない。格上のモンスターに殺されないとクエストが発生しないんだ」

「え、なにソレ……。きっつ」


 明の言葉に、彩夏が思いっきり顔を顰めた。

 その様子に明は小さく苦笑いを浮かべると彩夏へと別の質問を投げかけた。


「それで、その、お前のクエストはどんな内容なんだ?」

「んー、どんな内容って言われてもね。いろいろ、としか」

「いろいろ?」

「うん、いろいろ。今日の内容は『十キロ移動すること』だったし、昨日は『モンスターと一時間以上戦い続けること』だったから」


(……なるほどね。それで)


 その言葉に、明は前世のことを思い出して納得した。

 四日目の朝、彩夏は陽が昇ってすぐだというのにレベリングに出掛けようとしていた。あの時の彩夏は『レベル上げ』と言ってその行動を上手く誤魔化していたが、実際はそのクエストを終わらせようとしていたのだろう。


(『十キロ移動する』っていうクエストも、今日一日、レベリングのためにモンスターを探して街中を動き回っている間に達成しているはずだよな。んー……。そう考えると、花柳のクエストはわりと楽、だな)


 もちろん、モンスターと戦うことにも移動をすることにも、本来ならば常に危険が伴う。

 気を抜けば死ぬ可能性だってあるわけだし、必ずしも楽だとは一概には言いきれないのだが、それでも確実に格上のモンスターと対峙する必要がある明のクエストと比べれば、比較的楽と言えなくもない。

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― 新着の感想 ―
[一言] さ、さすがに報酬にも差あるだろうし!
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