足元に積み重なる世界
仕事に追われて数日、死んだように過ごしてました……。
更新が止まり、申し訳ない……。短めですが、ひとまず更新。
「ダチが目の前で死んだのを見て、死にたくないなって本当にそう思ったんだ。でも、モンスターはユッカ達の仇だし、許せないし。なんか、矛盾してるなって自分でも思うんだけど、死にたくないなって思いながら、モンスターと戦ってる。…………だから、もしも仮にモンスターが強化されたとして、それがどうしようも出来ないからってオッサンがあたし達を見捨てていくなら。……悪いけど、あたしはオッサンを止めるよ? だってさ、なんか卑怯じゃん。一人だけ、その世界から逃げることが出来るなんてさ。あたしだって、死にたくないよ」
彩夏はそう言うとジッと明の顔を見つめた。
その言葉に、明は何も言えなかった。
すぐに言葉が出てこなかった、といった方が正しいのかもしれない。
過去に戻り、未来を変える。
それは、一条明にしか出来ない行為であり、一条明にしか許されていない行為だ。
どんなに失敗をしようとも。
どんな絶望が訪れようとも。
死という終わりを一時的に受け入れさえすればまた、明は全てをやり直すことが出来る。
だが明が死んで世界をやり直した背景で、その死んだ世界で生きていた人々はどうなるのだろうか。
跡形もなく消える?
それとも、消えずに何事もなく世界は続いていく?
……結局のところ、それは誰にも分からない。
だがもしも、一条明が死ぬ度に数多もの並行世界が創り出されて、その世界が消えず残っているのだとしたら。
ゆっくりと破滅へと向い続ける、その世界に残された人々はいったいどんな思いで過ごしているのだろうか。
「…………そうだな」
小さく、ゆっくりと。
明は息を吐き出し、彩夏から視線を外した。
「花柳の言う通り、俺は卑怯者なのかもしれない」
ぽつり、と。
明は呟くように言った。
「花柳とは違って、俺には確実に次がある。〝この〟世界の花柳からすれば、俺は確かに〝ここ〟とは違う世界に行くことが出来る存在だ。目の前にどれだけ多くの問題が積み上がっていても、その問題を解決することも、正面から取り組むことなく、俺はその問題自体を失くそうと思えば失くすことも出来る。それを、現実から逃げてると言われても仕方がないとは思う」
――――でも、と。
明は言葉を続ける。
外していた視線を再び彩夏へと向けて。パーカーフードの奥から覗く彼女の眼差しを正面に見据えて、明は言う。
「逃げた先で、どうにか出来るなら……。何度も繰り返した結果、その問題を解決することが出来るなら。俺は、何度でも世界を繰り返すよ」
「なに、それ。それじゃあ結局、オッサンの自己満でしかないじゃん」
「そうだ。結局、俺の自己満でしかない」
明は、彩夏の言葉に苦い笑みを浮かべた。
「俺は、神様じゃないからな。俺は俺が最善だと思った未来を選ぶことしか出来ない。その中にはもしかしたら誰かの不幸が混じっているのかもしれないけど、それはもう、仕方がないと割り切るしかないんだ」
最善を求めて『黄泉帰り』を繰り返す一条明の足元には、多くの並行世界――もとい多くの命が積み重なっている。
それらの上に、今の一条明は存在している。
それはきっと、『黄泉帰り』という力を与えられたあの瞬間から始まっていて、そしてこれからもきっと、続いていくことなのだろう。
幾たびもの世界を越えて。
数多もの世界を積み重ねて。
気の遠くなるような時間を繰り返して。
そうして、ようやく。
一条明は、はるか彼方にある幸せを掴み取ることが出来る。
「今の俺は、〝この〟世界の花柳を助けることは出来ないかもしれない。けど、その先に続く世界でなら、俺は〝花柳彩夏〟というお前自身を、助けることが出来るかもしれない」
「でも、それは今のあたしじゃない」
「そうだな。それは、正確に言えば今のお前じゃない。でも、俺が世界を繰り返さないと、そのお前でさえも助けられないかもしれない。〝花柳彩夏〟という人間は、どの世界でも必ず死ぬという未来に行き着くかもしれない」
「……よく、わかんない」
「簡単に言えば、俺はもう、こうして知り合ったお前を赤の他人だなんて言って見捨てないってことだよ」
そう言うと、明はまた口元に小さな笑みを浮かべた。
彩夏は、そんな明の顔をまたジッと見つめていた。
その沈黙がどれだけ続いただろう。しばらくすると、彼女は身体の力をフッと抜いて、明から視線を外した。
「分かった。あたしを助けてくれるなら、それでいいよ」
「約束するよ」
そう呟いた明の言葉に、彼女はただ、小さく頷くだけだった。