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武器製作



 日が高く昇る街の中に、ゴブリンの悲鳴が響き渡る。


「っ!」


 振るわれた石斧は的確にゴブリンの頭を捉えて、その身体を大きく揺らした。

 初めはたどたどしかったその攻撃も、今ではもう迷いがない。的確に急所を見極めて石斧を振るうその姿は、もう立派な狩人とでも言うべき姿だった。


「げ……げぇ」


 頭蓋を砕かれたゴブリンが白目を剥いて仰向けに倒れる。

 柏葉は、そのゴブリンに向けて近づくとその手に持つ石斧を振り上げ、きっちりとトドメを刺すと大きな息を吐き出した。


「レベルアップ、です」


 呟かれたその言葉に疲労の色が濃く滲む。

 武器製作と防具製作を取得するために、柏葉薫のパワーレベリングを始めて数時間。

 いつかのあの時と同じように、明は奈緒と共に柏葉を連れて街中へと赴き、モンスターを見つけては瀕死の状態にして、柏葉にトドメを刺してもらいながらそのレベルを確実に上げていた。

 あの時と違うのは、モンスターを運ぶ人員が増えたことだ。

 このパワーレベリングの方法で時間が掛かるのは、何と言っても柏葉でも倒せるモンスターを探すことだ。

 あの時はその作業に時間が掛かるあまり、柏葉はその待ち時間に死体の解体をしていたが今ではもうその余裕がない。何せ、明と奈緒、二人が交代でひっきりなしにモンスターを連れてくるから解体を行う余裕さえもないのだ。

 結果として、彼女の傍にはゴブリンとキラービーの死体が山のように積み重なり、その数と大きさが彼女の努力を物語っていた。



「お疲れさまです。これで、最初の目標達成ですね。一度休憩をしましょうか」

「ありがとうございます……」



 小さな声で呟き、柏葉はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

 明は、そんな柏葉に向けてモンスターを探す傍らで調達していた水のペットボトルを差し出す。

 柏葉は、差し出されたペットボトルを嬉しそうに受け取ると、さっそくその中身へと口を付けていた。

 明は、そんな柏葉の隣に同じ様に座り込むと口を開く。



「もともと、柏葉さんが持っていたポイントが1。レベルアップ4回でポイントが4。合計で5つ溜まったので、予定通り武器製作か防具製作が取得できます。俺としては、どちらが最初でも構いませんが、柏葉さんはどちらが先に取得したいとか決めていますか?」

「そう、ですね……。やっぱり、武器でしょうか。攻撃力のある武器があれば、より強いモンスターも倒せるようになるでしょうし……。そうすれば、レベリングの速度もあがりますよね?」

「そうですね。それは間違いないです」

「でしたら、武器製作から取得します」



 柏葉は明の言葉に頷くと、すぐに宙へと視線を向けた。

 おそらく、スキルを取得するために自分のステータス画面を呼び出したのだろう。

 何もない空間を触るようにその手が動き、何かのボタンを押すような仕草をする。



「取得しました」



 やがて、柏葉は画面を消すように手を振りながらそう言った。



「ありがとうございます。これで、武器が作れるようになった……はずですよね? 何か変わったことはありますか?」

「そう、ですね」


 言って、柏葉は思案するように視線を彷徨わせた。


「スキルを取得したことで、頭の中に特定の武器の作り方が思い浮かんできた……って感じです」

「おお、ついに! 試しに何か、この場で作れるものとかありますか?」

「この場で作れるもの……」


 柏葉は、そう言うと視線を周囲に向けた。

 それから、傍に積み上がる死体の山の中からキラービーの死体を次々と引きずり出すと、懐から解体用のナイフを取り出し綺麗にその甲殻を剥がし始める。

 そうして、複数の死体から取り出したいくつかの素材を目の前に並べると、ちらりと明へと視線を向けた。


「この素材で、『猛毒針』という武器が作ることが出来ます」


 そう言って、柏葉が指し示した素材は『殺人蜂の毒針』が一つと、『殺人蜂の毒液袋』が二つ。合計で三つの素材だった。


「素材三つで武器一つか……。他の武器も同じように複数の素材が必要になっていたりします?」

「ええ。基本的には、二つ以上のようです」

「なるほど」


 このあたりも、ゲームと似たようなものだ。多くの武器を作ろうと思えば、それ以上の素材を用意しておかなければならない。


(時間があるときに、柏葉さんには解体もお願いしておこう)


 明は心の中でそう呟くと、再び柏葉へとその視線を向けた。


「その、『猛毒針』って武器はどんな武器です? まあ、名前通りの物だとは思いますけど」

「すみません、詳しいことは分からないんです。『武器製作』のスキルを取得して、確かに武器の作り方が分かりましたけど、私に分かるのは本当にそれだけなので……。武器の名前は分かっても、それがどんな武器でどんなものなのかは分からないんです」


 なるほど。どうやら、出来上がった武器がどんなものなのかは鑑定をすることでしか分からないようだ。


「分かりました。では、出来た物を俺が見てみます」


 明のその言葉に、柏葉は小さく頷くと地面に並ぶそれらの素材へと目を向けた。



「……では、始めます」


 言って、柏葉は自らの心を落ち着かせるように、ゆっくりと大きく息を吸い込んだ。




「――――武器製作」




 小さな声が彼女の口から漏れた。

 瞬間、地面に並べられたそれらの素材が一斉にその形を崩し始めた。

 まるで熱で溶けた金属のように、形が崩れた毒針や毒液袋はみるみるうちにドロドロになって混ざり合い、蠢き、やがて一つの形を創り出していく。


 そして、数十秒後。


 溶けて消えた素材の代わりに、その素材があった場所には長さ十五センチほどの、紫黒色の細長い針が転がっていた。



「完成、です」


 と安堵の息を吐き出しながら柏葉が言った。



「これが……」


 と言いながら、明はさっそく鑑定を発動させる。




 ――――――――――――――――――

 猛毒針

 ・装備推奨 ―― 筋力値10以上

 ――――――――――――――――――

 ・魔素含有量:2%

 ・追加された特殊効果:猛毒

 ――――――――――――――――――

 ・攻撃力+1

 ・耐久値:1

 ・ダメージボーナスの発生:なし

 ――――――――――――――――――




(攻撃力も耐久値もどの武器よりも低い。ということは、使い捨てか? 攻撃の威力というより、毒で相手を弱らせるって感じみたいだな)


 明は、眼前に浮かんだその解析画面に向けて考え込むと、ちらりと地面に転がるその武器へと視線を向けた。



(小さい……。リーチがないってところを考えると、使い方は針の投擲か、吹き矢のように打ち出す方法とか、か? もしくは、棒の先端に括りつければ疑似的な槍としても使えるかもな)


 明は、そう心の中で呟くと『猛毒針』を拾い上げた。



「どうやら、名前通りの武器みたいですね。攻撃力はないけど、毒で相手を制す……みたいな。どの程度の毒なのかが気になるところです」

「モンスターで試してみますか?」

「そうですね、どこかに手頃なモンスターが居ればソイツで――――」


 とそう言ったその時だ。



 明はふと、こちらに向けて歩いて来る人影を見つけた。

 明は、その人影が手に持つその姿を見て、小さく口元を吊り上げる。


「どうやら、ちょうどそのモンスターが届いたようですね」


 明が見つめる視線の先。

 そこには、柏葉のパワーレベリングのためにモンスターを探しに出て、声を荒げながら喚くゴブリンを地面に引き摺りながら帰って来た、七瀬奈緒が居た。

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