表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/344

性能差



 柏葉薫が中心となったモンスター討伐がシナリオクリア条件であることが分かってから、明達はこれからのことを本格的に話し合った。


 今回のシナリオによる問題は二つ。


 一つは、柏葉自身のレベルの低さと戦闘の不慣れさ。

 そしてもう一つは、周辺の街に潜むボスに関する情報不足と、ボスを次々に攻略するために必要な事前準備不足。


 柏葉の問題に関しては、誰かがサポートをしながら徐々に戦闘に慣れつつレベルを上げるしかないだろうという結論になった。そのサポート役に志願したのはもちろん、奈緒だ。

 奈緒は短い間ながらも、自身が明にサポートをしてもらいながらレベルを上げたことを思い出しているのだろう。柏葉にあれこれとアドバイスをしながらも、今後の戦闘スタイルについて二人で相談を重ねていた。


 残る問題は、ボスに関することだ。


 これは、仮に一度の攻略に失敗しても、次に繋げることが出来る『黄泉帰り』を持つ明にしか出来ないことだった。



「ひとまず、周囲のボスを探ってみます」


 と、明は二人に向けて言った。



「その上で、どのボスに挑むのかを決めてから攻略を始めますが……。ボスはきっと、俺よりもレベルが上です。今後のことを考えれば、()()はレベル上げと事前準備に時間を割いて、モンスターの強化がどの時点で起こるのかを把握することに努めたほうが良さそうな気もしますね」

「効率的に考えればそれが一番だな。……もっとも、自分の命を軽率に扱っているような気がして、私はあまり気が乗らないが」


 奈緒は、明の言葉に小さなため息を吐き出しながら言った。

 どうやら奈緒は、明が死に慣れ始めていることを薄々感づいているらしい。

 そのことに明は、誤魔化すような笑みを浮かべると、奈緒に向けて口を開いた。


「それは俺も同じですよ。でも、いつもそう上手くいくとは限りませんから」


 出来れば、そう何度も死にたくはない。

 そうは思ってもいても、『黄泉帰り』を活用しなければどうにもならないのは事実だ。

 いずれにしろいつかは死に戻るのならば、今のうちからその方向も視野に入れて行動していくほうがまだマシだろう。



「それで、ですが。ボスに挑む事前準備をするとなれば、柏葉さんにお願いしたいことがあります」


 明は、奈緒の視線から逃れるように会話の矛先を変えると、柏葉へとその目を向けた。



「お願いしたいこと?」



 まさか、自分に話が向くとは思ってもいなかったのだろう。

 柏葉は、少しだけ驚いた顔になると明を見つめた。



「今の私に、一条さんの助けになることってありますか?」

「俺だけじゃなくて、柏葉さん自身の助けにもなることですよ」

「私にも?」


 その言葉に、明は小さく頷くと途切れていた言葉を口にする。


「レベルアップでポイントを獲得したら、武器製作と防具製作を取得して、武器と防具を作って欲しいんです。武器があれば筋力値が低くてもどうにかなるし、防具があれば耐久値の代わりにもなります。今回作った武器や防具を俺が次に持ち込めば、俺たちは最初から武器や防具ありでモンスターと戦うことが出来ます」

「すごい……。そんなことも出来るんですね」


 柏葉は、明の言葉に息を吐きながら言った。

 その言葉に、明は小さな頷きを返す。


「『インベントリ』って言います。これも、『黄泉帰り』の効果の一つですね。持ち込める数が五つと少ないですけどね」


 そう言うと、明は笑みを浮かべる。

 それから、表情を改めると顔色を伺うように柏葉を見つめた。


「それで、どうです? 大丈夫ですか?」

「大丈夫です。確かに、武器があればモンスターも倒しやすいですし」


 柏葉は、明の提案を快く引き受けた。

 その言葉に、明はほっとした表情で笑みを浮かべると頷きを返す。


「では、今回はそれでお願いします。奈緒さんはその間、柏葉さんのサポートをお願いします」

「分かった」



 そうして、明達は二手に分かれるとさっそく行動を開始した。

 手始めに、明は武器の調達がてらオークが蔓延る隣街へと向かうことにした。道中で出会うボアやキラービーといったモンスターを拳や蹴りで吹き飛ばし、傷もなく無事に隣街へと到着する。

 そうして出会ったオークを相手に全力で戦い、その手に持つ鉄剣を奪い取ると容赦なくトドメを刺して、ようやく一息を入れる。



「……なんか、軽い?」



 そうして、ようやく。明は手にした武器の違和感に気が付いた。

 よくよく目にしてみると、手にした鉄剣は以前手にしたものよりも僅かに長く、細い。



(もしかして、同じ武器でも武器ごとに差があるのか?)


 可能性はある。それを確かめるには、『鑑定』を使うしか方法はないだろう。



(ひとまず、『鑑定』っと)



 心で呟き、明は手にした鉄剣の情報を表示させた。





 ――――――――――――――――――

 豚頭鬼の鉄剣

 ・状態:不完全

 ・装備推奨 ―― 筋力値55以上

 ――――――――――――――――――

 ・魔素含有量:1.6%

 ・追加された特殊効果なし。

 ――――――――――――――――――

 ・攻撃力+50

 ・耐久値:21

 ・ダメージボーナスの発生:なし

 ――――――――――――――――――





 現れた画面に目を通した明は、その内容に小さく目を見開いた。


(前の鉄剣とは内容が違うな……。必要な筋力値も、魔素含有量も、攻撃力も耐久値も全部、わずかに低い)


 やはりと言うべきか、モンスターが持つ武器は僅かに性能の差があるらしい。

 だったら、やるべきことは一つだ。



(鉄剣の中でも、性能が良い奴を手に入れる)


 明は、手にした鉄剣を振るいながら心で呟いた。

 いずれは柏葉に武器を作ってもらうつもりではいるが、それまではモンスターから奪った武器に頼らざるを得ない。

 この街にはオークしかいないが、次に向かう街ではまた別のモンスターが居る。

 ボスモンスターに辿り着く前に死ぬわけにはいかない以上、繋ぎとなる武器にもある程度こだわったほうが良いだろう。


 

(ひとまず、性能の良い鉄剣を探しながらこの街のボスを探すか)



 オークが占領したこの街のボスは、その上位種だと思われるハイオークだ。

 赤栗毛の体毛に、オークよりも一回り大きなその体躯は、遠目から見ても分かりやすい。

 明は、手にした細い鉄剣を握り締めると、慎重に物陰に隠れながらも街の中を探っていく。

 そうしながらも、出会ったオークを経験値へと変えて、手にしていた鉄剣を『鑑定』し性能が良いものを探し出す。


 そうして、何十回目になるか分からない鉄剣を鑑定し終えた時。

 明はようやく、それまでで一番の性能である鉄剣を手に入れた。




 ――――――――――――――――――

 豚頭鬼の鉄剣

 ・状態:不完全

 ・装備推奨 ―― 筋力値63以上

 ――――――――――――――――――

 ・魔素含有量:2.2%

 ・追加された特殊効果なし。

 ――――――――――――――――――

 ・攻撃力+55

 ・耐久値:32

 ・ダメージボーナスの発生:なし

 ――――――――――――――――――




 全ての数値が高く、刃がやや分厚く長いものだ。手にした感触もちょうどいい。

 明は、何度かその手にした鉄剣を振るって使い心地を確かめる。


(これで、武器は良しっと……。念のために、この武器を『インベントリ』に登録してあった元の鉄剣と入れ替えて……。あとは、ボスだな)


 街の探索もあらかた進んでいるが、未だにその姿が見えない。

 ボスがその場所に居座る、特有の圧迫感もないから見逃していることはないはずだ。



(もっと、奥か?)



 足を進めるごとに、街の崩壊は激しくなっている。

 その光景に明は鋭い視線を向けると、手にした鉄剣を握り締めて、ゆっくりと街の奥へと向けて歩みを進めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず絶望的状況だけど一蓮托生の仲間も出来て未来へ向けて出来ることも確実に増えて希望というごく僅かな光の点が見えてきた
[一言] 柏葉さんにコツを掴んだらちょくちょく聞き出しておけば 次周以降に伝えればでちょっと効率良くなりそうね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ