カルト集団
短め。申し訳ない
翌日。
一条明が目を覚ますと、午前八時を過ぎたところだった。
ベッドの上で大きくを伸びをしてから、すぐに明は反転率を確認する。
「ん……」
目の前に表示されたその画面を見つめて、明は小さく声を漏らした。
ウェアウルフを倒し、その動きを止めていた反転率が進んでいたのだ。数値を見るに、動き出してからまださほど時間が経っていないらしい。
その進みを見つめながら、明は反転率が3%になる頃合いをおおよそながらに計算する。
(……だいたい、3%になるのは昼ぐらいかな?)
反転率3.37%までは、これまでの人生で何も起きないことを確認している。この進み具合からして、その数値になるまでまだ余裕があるようだ。
明は、目の前に現れていたその画面へと向けて手を振り払うと、これからの予定を考えた。
(そうだな……。アーサー達もいないし、今すぐにキラービーの巣に向かう必要はなくなったけど……。今の内にボスを倒して、準備時間をさらに稼ぐってのはやっぱり必要だな。そうなると、方針としてはあまり前回と変わらない、か? これからのことを考えると、柏葉さんのレベルを今のうちに上げておく必要もあるだろうし……)
明はそう考えて、やがて小さく頷いた。
(うん。ひとまず、柏葉さんにウェアウルフの解体を頼もう。その間に、俺は次に倒すボスでも探るか)
心の中でそんな言葉を吐き出すと、部屋の片隅に置いてあった死体袋を手に取って部屋を出た。
柏葉を探していると、エントランスホールで身なりの良い男と軽部が口論しているところに遭遇した。
「ふざけるな! もういい、早く帰ってくれ!!」
怒気を孕んだ軽部の大声に、ホールの空気が震える。
男は、声を荒げて怒りを露わにする軽部へと鋭い視線を向けると、「後悔しても知らないからな!!」と捨て台詞を吐きながら病院から出て行ってしまった。
明は、男の背中を睨み続けている軽部へと近づき、声を掛ける。
「どうされたんですか? 揉めていたようでしたけど」
その言葉に、軽部はようやく明の存在に気が付いたようだ。眉間の深い皺は変わらないが、ゆるゆるとした息を吐き出しながら言った。
「別に、大したことではありません。質の悪い勧誘ですよ」
「勧誘? モンスターが現れたこんな時に?」
明は軽部の言葉に首を傾げた。
その言葉に、軽部は深いため息を吐き出しながら答える。
「……ええ。むしろモンスターが現れたから、でしょうね。死という存在がより身近になって、破滅論や終末論を個人でのたまうだけならまだしも、それを広めて宗教にしようとしている集団がいる。さっきの男もそうですよ。モンスターが現れてからここ数日の間、やたらと耳にするようになったカルト集団の一員です」
「カルト集団」
思わず、明は軽部の言葉を繰り返す。
「リリスライラ。そんな名前を、耳にしたことありませんか?」
軽部の言葉に、明は首を横に振った。
これまで幾度となくこの世界を繰り返しているが、初めて耳にする集団の名前だった。
「初めて聞きます」
「……まあ、一条さんはつい昨日まで、眠っていましたからね。知らないもの無理はないのかもしれません」
明は、なるほどと頷いた。
何度も特定の期間内を繰り返しているから忘れそうになるが、一条明が目覚めてから経過した日数はまだ一日だ。気を失っている間にも、世間ではいろいろな動きがあったということだろう。
「その、リリスライラってどういう集団なんですか?」
「よくある、偶像崇拝ですよ。ただしその相手は、モンスターが現れたこの世界に合わせたのか、魔王だなんて存在が対象になっていますが」
「魔王?」
明は、その言葉に眉を寄せた。
「それが、その集団の崇拝相手なんですか?」
「みたいですね。私もよく知りませんが……。確か、ヴィネ? とかいう魔王へと、格の高い血を捧げれば願いが叶うだとかなんとかって話です」
「血を捧げて願いが叶うって……。そんな、馬鹿なこと――――」
「ええ、馬鹿なことです。ですが、こんな世界だからこそ、その話に縋りつく人もいる。モンスターが居れば魔王も居るだろうと、魔王ならばちっぽけな人間の願いを叶えることぐらい簡単だろうと、そう考える人もいるんです。さっきの男もそうですよ。まさか、この病院にいる戦えもしない人達を生贄に捧げろだなんて――――。ふざけてる!!」
明へと話しているうちに、先ほどの怒りが再燃したのだろう。軽部は、語気を荒げると吐き捨てるように言った。
「――――とにかく。まあ、そんな人達も出てきてるわけです。一条さんも、気を付けてくださいね? 噂によると、リリスライラの信徒は過激らしいので。突然襲われる可能性もありますからね」
「ありがとうございます。気を付けておきます」
言って、明は軽部へと頭を下げた。
それから、明は軽部へと柏葉という女性の居場所を問いかける。
「ああ、彼女なら……。今朝から外にあるブラックウルフの死体の前に居ますよ。あのモンスターを倒したの、一条さん達ですよね? 驚きましたよ、よくあれだけの数を二人で対処しましたね?」
明はその言葉に笑みを浮かべて、
「まあ、あれぐらいなら」
とそう言って、頭を下げて軽部の元を後にした。
ライラ森林とライラ繋がりですが、関係ないです。