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もう一人の固有スキル持ち



 それから、明達は何度かモンスターとの遭遇をやり過ごして――定期的にオリヴィアが先行して辺りの偵察を行い、そのたびにモンスターのいない道を教えてくれた――、通りから離れた場所にある雑居ビルへと連れてこられた。三階建ての、小さなビルだ。モンスターによる侵入を防ぐためなのか、その入り口には街中から集めてきたのであろう机や冷蔵庫、食器棚や瓦礫なんかが積まれていた。


「こっちだ」


 アーサーは、慣れた調子で瓦礫の一つをどかすと、ぽっかりと出来たその空間へと器用に身体を滑り込ませた。



「足元に気を付けてくれ。モンスターには効かないだろうが、コソ泥避けに有刺鉄線が仕込んである。転べばそれなりに痛いぞ?」



 奥から聞こえてくるその言葉に、明と奈緒は顔を見合わせる。



「……俺が先に行きます。奈緒さんは、俺の後に」

「……分かった」


 短く会話を交わして、明達はアーサーの後を追いかける。



 手製のバリケードは、大の男が一人ようやく通れるかといった狭さだった。加えて、アーサーが言ったように足元には有刺鉄線が束になって敷かれていて非常に歩きにくい。

 明は、どうにか隙間を縫ってバリケードの中に出来た空洞を抜けると、進む間に肺の中へと溜め込んでいた大きな息を吐きだした。



「ふー……。結構、積みましたね。数メートルはバリケードの中を進んだ気がする」

「ちゃちなバリケードじゃ意味がないのでな。……とは言っても、こんなものは気休めにすぎん。ここに忍び込む者のステータスが高ければ、有刺鉄線なんぞ意味がないようなものだ。つくづく、ステータスというものは守るべき側からすれば厄介だな?」


 ニヤリと笑いながらアーサーは言った。

 そうしていると、遅れるようにして奈緒がバリケードの中を抜けてくる。

 奈緒は、痛みを堪えるように硬く結んだ唇を開くと、大きなため息を吐き出した。


「自動再生のおかげでマシになってるが……。骨が折れてる中で、この隙間を何度も通りたくはないな」


 奈緒は庇うように右腕を摩った。


「ああ、うむ。すまないね。他にも出入り口があるにはあるのだが、それなりの身体能力が要求される場所なのだ。君たちは平気かもしれないが、この老体にはいささか厳しい。大目に見てくれ」


 アーサーはそう言ってまた笑うと、明達を案内するようにビルの内階段を上りはじめた。

 その後ろを、明達は無言で追いかける。



「到着だ」



 アーサーはビルの最上階にまで足を進めると、やがて足を止めた。

 明達の前には、閉じられた木製の扉があった。壁には看板が掛けられていて、店の名前と思しき文字と共に、『Bar』という単語が書かれている。


「私の店だ。こう見えても、以前はバーのマスターだったのだよ」


 アーサーはそう口にすると小さく笑った。


「意外かね?」

「……正直、少し」


 目の前に現れた扉を見ながら、遠慮する様子もなく明は言った。


「ハハハハハ! よく言われるよ。だが正真正銘、ここは私の店だ。モンスターがこの世界に現れるまで私はこの店の、一国一城の主だったのだよ」


 アーサーは、声を上げて笑うと扉の取手に手を掛けた。


「入りなさい。話をしていた、私の仲間も出掛けていなければこの中に居るはずだ。店の蓄えもまだ少しある。食事でもしながら、今後のことについて少し話そう」


 言って、アーサーは扉を開く。



 そこは、大人が十人も集まればいっぱいになるほどの、小ぢんまりとした場所だった。電気の通っていない店内を照らしていたのは、数本のロウソクの炎だ。扉が開いたことで流れた空気が、その炎を揺らして壁際の影を揺らしている。

 隠れ家的なバーと言えば分かりやすいだろうか。シンプルながらに洒落っ気のあるその店内は、世界がこんな状況でなければ足を延ばして通ってもいいかな、と考えるぐらいには明の好みに合っていた。

 そんな薄暗い店内を見渡して、明は視線を止める。横に伸びたバーカウンターに突っ伏すようにして、寝息を立てていた人物を目にしたからだ。



「女の子?」


 明の後ろから店内を覗き込んだ奈緒が呟いた。



「いかにも。彼女が、君たちを除いて唯一、私への協力を承諾してくれた子だ」



 アーサーの言葉に、明はまじまじと彼女を見つめた。

 オーバーサイズのマウンテンパーカー越しでも分かる、華奢な身体だった。スキニージーンズに包まれた足はすらりと長く、カウンターに突っ伏しているからその顔は分からないが、頭まで被ったフードから零れた、色の抜けた長い髪の毛が印象的だった。


(この子が……。もう一人の、固有スキル持ち)


 心で呟き、明はすぐさま『解析』を発動させる。




 ――――――――――――――――――

 花柳 彩夏 17歳 女 Lv29


 体力:31

 筋力:60

 耐久:60

 速度:60

 魔力:21

 幸運:32


 ポイント:0

 ――――――――――――――――――

 個体情報

 ・現界の人族。

 ・体内魔素率:0%

 ・体内における魔素結晶なし。

 ・体外における魔素結晶なし。

 ・身体状況:正常

 ――――――――――――――――――

 スキル

 ・神聖術

 ・身体強化Lv2

 ・魔力回路Lv1

 ――――――――――――――――――



 

(花柳、彩夏……。17歳ってことは、高校生か? レベルがそこらの人よりも少し高いのは、固有スキルを持っているからかな。固有スキルは――――『神聖術』? なんだ? 名前からして、回復系のスキルっぽい名前だけど)


 明は、表示された解析画面を見つめながら考え込んだ。

 アーサーは、そんな明の様子に『解析』を使用しているとすぐに察したのだろう。ニヤリとした笑みを口元に浮かべると、明の肩へと手を掛けてくる。


「彼女のことが気になるのは分かるが、まずは中に入ろう。君が、何を気にしているのかは分かる。彼女が持つ固有スキルのことだろう? ハハハ、案ずることはない。これから共に行動するのだ、彼女の力はすぐに分かるさ」


 言って、アーサーは明の背中を押すようにして店内へと連れ込んだ。



 店内に連れ込まれた明を追いかけるようにして、奈緒もゆっくりと店内へと足を踏み入れてくる。

 アーサーは、二人が店の中へと入ったことを確認すると、姿を消していたオリヴィアを呼び出し、彼女に扉を閉めるように言った。

 アーサーの言葉に頷いたオリヴィアは、ふよふよと店内を漂い扉へと近づき手を伸ばす。すると、扉は一人でに動いてゆっくりと閉まった。


募集をしていた本作品の略称ですが、Twitterで実質していたアンケートにて『いずほろ』に決まりました。これから、宣伝する際にはこちらを使用していきたいと思います。

多くの案、略称、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお!ツイ垢持ってなかったのでそちらに投票はできませんでしたがコメントで1票を投じた身としては嬉しいです>いず滅
2021/11/25 11:34 退会済み
管理
[良い点] 新キャラきちゃーー!!! [一言] いず滅 いいですね!友達に広めやすくなって嬉しいです
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