忘れられた廃村
お待たせしました。本日、昨日更新出来なかった分を含めて2話更新します。
『自動再生』による傷の治癒を待つ間、明はレベルの上がった解析を使って、ウェアウルフが持っていたスキルを確認しておくことに決めた。
明がそのことを伝えると、奈緒は自然と立ち上がり、当たり前のように明の傍へと近寄ってくる。さらには暇だったのか、アーサーも面白そうだと笑って、まだ傷の癒えていない明達をオリヴィアと共に護衛するという名目でついてくることになった。
そうして、出掛ける準備を整えているとふいに、オリヴィアがふよふよと漂いながら壁を抜けて部屋の外へと出て行ってしまう。
「彼女は?」
明は、オリヴィアが通り抜けていった壁へと視線を向けながら言った。
「ああ、うむ。どうやら、先行して周囲の偵察へと向かってくれたらしい」
「凄いですね。そんなことも出来るんですか?」
「あくまでも彼女が動ける範囲で、だがね。『索敵』スキルには及ばないと思うが、それでも周囲の状況をある程度知るには役に立つ。おかげで、いつも助かっているよ」
そんなことを話していると、出て行った壁とはまた別の壁からオリヴィアが戻って来た。
オリヴィアは、明達には聞こえない声で何事かをアーサーに向けて言うと、そのままゆっくりとその姿を消した。
「……ふむ。ひとまず、周囲にはモンスターの姿はないそうだ。今なら戦闘することもなく、用事を済ませて戻って来ることが出来るだろう」
アーサーは明たちへと目を向けながら言った。
「とはいえ、どこからモンスターが襲ってくるのか分からない。必要最低限の準備はするべきだろうね」
その言葉に、明と奈緒は目を見合わせるとそれぞれの武器を手に取った。明が斧を、奈緒が拳銃を手にするのを見て、アーサーは小さく頷く。
「うむ、では行こうか」
言って、アーサーは外の様子を警戒することもなく扉を開けて、部屋の外へと足を踏み出す。
それを見ていた明達もまた、警戒するように周囲へと目を向けながらゆっくりと部屋の外へと足を踏み出した。
会話もなく、明達は通りを進む。
ほどなくすると、地面に広がる夥しい血痕と散乱した瓦礫や一階部分が半壊した雑居ビルが見えてきた。その中心で、地面に転がる一つの首と身体を見つける。強い憎しみを抱いたまま息絶えたのか、牙と目を剥いたまま地面に転がった首は間違いない。ウェアウルフだ。
明は、その死体へと近づくとさっそく解析を使用した。
――――――――――――――――――
ウェアウルフ Lv93
体力:237
筋力:213
耐久:257
速度:412
魔力:70
幸運:51
――――――――――――――――――
個体情報
・ダンジョン:忘れられた廃村に出現する、狼種族亜人系のボスモンスター
・体内魔素率:17%
・体内における魔素結晶あり。筋肉、臓器に極軽度の結晶化
・体外における魔素結晶なし。
・身体状況:死亡
――――――――――――――――――
所持スキル
・格闘技:連爪襲撃
・アジリティアップLv1
・格闘術Lv2
――――――――――――――――――
(……スキルは三つだったか。アジリティアップは速度の強化が出来るスキルで、格闘術ってのは、確か……俺のスキル一覧にも出てたな。ポイント25で獲得出来るものだったか? 格闘技ってのは見たことないけど、レベルの表記もないしコイツの固有スキルかな)
明は、ジッととウェアウルフの解析画面を見つめながら考える。
それから、その視線はスキル欄から外れて個体情報へと向けられ、止まった。
「――――ダンジョン」
思わず、言葉が零れ出た。
明は険しい表情でその画面を見つめて、やがてハッと何かに気が付くと、踵を返して走り出す。
「一条!?」
背後から奈緒の声が聞こえた。
しかし、明はその声にも足を止めず、真っ直ぐに休憩に使っていたマンションの一室へと戻ると、部屋の入り口に散乱していたひしゃげた死体に向けて、解析を使用する。
――――――――――――――――――
ジャイアントバット Lv23
体力:34
筋力:52
耐久:47
速度:33
魔力:20
幸運:14
――――――――――――――――――
個体情報
・ダンジョン:忘れられた廃村に出現する鼠種族翼手系モンスター
・体内魔素率:6%
・体内における魔素結晶なし。
・体外における魔素結晶なし。
・身体状況:死亡
――――――――――――――――――
所持スキル:なし
――――――――――――――――――
「…………やっぱりか」
明は、自分の考えが的中したことに対してため息を吐き出した。
これまで疑問に感じていた、街を支配するボスの存在と、いつの間にか消えていたモンスターの死体。その全てに対して、ある種の答えが出たと感じたからだ。
明はジャイアントバットの解析画面を消すと、部屋を出て奈緒たちの元へと戻った。その途中で、巨大蜘蛛を見つけてさらに解析を行い、その予想が間違いないことを再確認する。
奈緒たちは、急に飛び出した明の行動に困惑していたようだった。
追いかけようにもどこに向かったのか分からず、どうすることも出来なかったのだろう。顔を見合わせていた二人は、明が姿を見せると安堵の息を吐き出した。
「一条……。心配したぞ、いきなりどうしたんだ」
奈緒は、明の元へと駆け寄ると眉根を寄せながら言った。
「すみません。少し、確認したいことがあって」
「確認? 何か分かったのか」
「ええ、まあ……」
言って、明はウェアウルフの死体へと目を向ける。
「コイツらの元の居場所と、この世界に現れたモンスターがなぜ、人の住む街々を中心に出現したのか、その理由ぐらいは見当がつきました」
「ふぅむ。それは、一条くんが飛び出す直前に呟いた、『ダンジョン』という単語と関係があることかな?」
顎髭を摩りながら、アーサーが言った。
その言葉に、明は小さく頷き口を開く。
「ええ。まず、このウェアウルフのことですが……。コイツは、忘れられた廃村というダンジョンに生息していたボスだったようです」
「忘れられた廃村?」
明の言葉に奈緒が眉根を寄せる。
「それが、コイツの元居た場所の名前なのか?」
「そうです。そして、さらに言えばですが……。この街に出現していた他のモンスター……、巨大蜘蛛や巨大蝙蝠も同様に、忘れられた廃村というダンジョンに生息していたことが分かりました」
「――――なっ」
「ほぅ……?」
明の言葉に、奈緒とアーサーはそれぞれ異なった反応を示した。
奈緒は、明の言葉に目を見開くと、小さくその瞳を揺らしながら言葉を吐き出す。
「ちょ、ちょっと待て。それじゃあ、なんだ。この世界に現れたモンスターは――――」
「異世界にあるダンジョン。そこに生息していたモンスターが丸ごと、この世界にある街に現れた。……そういうことだね?」
奈緒の言葉を継いで、アーサーが落ち着いた口調でそう言った。
その言葉に、明はさらに補足をするように口を開く。
「モンスターが現れた、というよりもこの世界にある街そのものが異世界にあるダンジョンと置き換えられたと考えたほうが自然なのかもしれない。――――時間が経つと消えるモンスターの死体。倒しても倒してもキリがない、いつまでも現れてくる同じモンスター……。その特徴だけを考えれば、創作の中で見聞きしたダンジョンと呼ばれる存在とよく似ています」
そこまで言うと、明は息を入れるように一度、言葉を区切った。
「……もしも単純に、この世界へとモンスターが現れただけなのであれば、その死体は消えずに残り続けるはずだし、俺たちがレベルアップをするためにモンスターを倒せば倒した数だけ、この世界に現れたモンスターは減っていくはずだ。……でも、現状としてそれは起きていない。その原因が、この世界にある街そのものがダンジョンに置き換わっている可能性がある――と、そう考えれば、いろいろと納得が出来ませんか?」
「なるほど。……ふむ。ふむふむふむ。そうなってくると、また新たに考えることが増えてしまうな。今までは、世界反転率が進むことでこの世界に現れたモンスターが本来の力を取り戻し強化されると、私はそう考えていた。しかし、一条くんが言ったことが本当だとするならば、世界反転率というのは……」
「この世界にある街そのものが、異世界にあるダンジョンへとどの程度置き換わっているかの指標。そうとも、考えられますね」
続きはまた夜に(19時)
Twitterで本作品の略称アンケートしてます(11/24まで)
よろしければ、投票お願いします(*'ω'*)