お米と王子様
今回は、リズム感を特に大切にしました。
読んでいて、テンポよく楽しんでもらえると幸いです。
今日もとある島の片隅で
黄金色の稲穂が風に揺られて“ゆ~らゆ~ら♪”
実ったお米も“ゆ~らゆ~ら♪”
まるで自然のゆりかごみたい
あまりの風の心地よさに
ウトウト船を漕ぎ出した
そんなのどかな一時に
“ゴゥッ!”と舞った一陣の風
あっという間にお米を巻き上げ
空の彼方へ連れ去った
船を漕いだり 空を飛んだり
見ているこっちは忙しない
だけど当の本人は
のんびり ぶら~り♪ 良い気分
風の吹くまま 気の向くままに
お米は今日も旅をする
ピュウピュウ♪ゆ~らゆら♪
ピュウピュウ♪ゆ~らゆら♪
飛んでる鳥さんこんにちは
そんな風に声をかけたら
鳥さんビックリ逃げちゃった
どこに行くのか いつ終わるのか
誰も知らない空の旅
雲のベッドで横になったら
そのまま すやすや
おやすみなさい
どれだけ眠っていたのかな?
ワイワイガヤガヤ♪ 騒がしい音
目を開け周りを確認したら
どこだか知らない町にいた
ここどこですか?と聞きたくっても
何だかみんな忙しそう
あっちへバタバタ♪ こっちへバタバタ♪
あぁ忙しい 忙しい♪
そんなに焦らず 生き急がずに
のんびりいこうじゃないかと言えば
何? 何? 今日は特別なんだと
声を揃えて返ってきた
何が特別なんだい?と
こっちが尋ね返してみたら
王子様の誕生日だと
嬉しそうにみんなが言う
そうかそれは特別だね♪と
忙しいのも無理はないね♪と
心の底から喜べるるように
ステキなお祝いをしなくっちゃね♪と
返事をしたけど困った様子
どうした?何かあったのかい?と
よくよく話を聞いてみたら
王子様はこう言ったって
「誕生日には 僕が欲しいものを持ってきて」と
だけど誰も欲しいものが
分からないから困ってるんだ
おめでたい日に悲しい顔で
そんなことを教えてくれた
王子様を喜ばせたい お祝いしたい
そんなみんなの優しい気持ち
なんとすばらしいことか
みんな思いに感動したお米は
そのことを伝えるために
何よりみんなに悲しい顔をさせる王子様に
一言文句を言うために
お城に乗り込むことに決めました
乗り込む先はお城だから
そう簡単には忍び込めない
しかし、普通じゃないのがこのお米
運び込まれる米袋に
風にのって ひょいっ♪っと忍び込み
あっという間にお城に到着
お城についたら袋から抜け出し
王子様を見付けるために
あっちへコロコロ♪ こっちへコロコロ♪
広いお城は迷路みたい
あっちへコロコロ♪ こっちへコロコロ♪
なかなか王子様は見付からない
どうしようかと悩んでいたら
気付けばきれいな庭園へ
いろんなお花に見とれていたら
何度も聞こえる はぁ…… という溜め息
だれだこんなにステキな庭園で
溜め息ばかりついているのは
気になりそちらに顔を向ければ
探していた王子様その人
王子様は憂鬱そうに
俯いたまま溜め息ばかり
文句を言いに来たけれど
気になり話を聞くことにしたお米
どうしたんだい 王子様
お祝いの日に溜め息ばかり
よければ話を聞きましょう
初めはお米に驚き何にも言えず
ただ呆然と見ていた王子様
それでも誰かに聞いて欲しかったのか
ポツリ ポツリと話し出した
チヤホヤされるのは王子だから
だれも自分のことは見ておらず
王子として見ているだけだ
そんな風に考えたら
どうにも不安で落ち着かない
だから自分を見て欲しいから
ありのままの私を見て欲しいから
困らせることを言ったんだ
だけど言ってから気付いた
自分の言葉の何と愚かで浅ましいことか
単なる自分の我が儘で
自分勝手なその言葉で
多くの人を困らせた
それがどうしようもなく悲しいのだと
王子の話を聞いたお米
この人は自信をなくしていると知り
これまでの出来事
町の人の思いを振り返り
言葉を選んで伝えました
町で出会った人たちは
心の底からあなたの誕生日を
お祝いしたいと一生懸命
大忙しで準備をしていたよ
だけどあなたが本当に欲しいものが
どれだけ考えても分からないから
そのことだけが悲しいのだと
心残りだと言っていたよ
みんなはあなたのことを
心の底から慕っているよ
それは王子様だからじゃなくて
あなただからだと感じたよ
もうとっくに見つけているよ
欲しかった探し物
みんなの優しいその気持ち
あなたへのその思い
気付かないなんて失礼しちゃう
だからみんなに教えてあげて
欲しいものは見つかったよと
探し物は見つかったんだと
笑顔で伝えて安心させてあげて
お米の話を聞いた王子様
そうだったのか……… と呟いて
ポロポロ涙をこぼしながら
ありがとう と言いました
お米は王子の溜め息が止まり
笑顔になったと安心しました
そのとき“ゴゥッ!”と一陣の風
お米を巻き上げ空の彼方へ
風の吹くまま 気の向くままに
あっちへフラフラ♪ こっちへフラフラ♪
まだまだお米の旅は続く
その後 この国の王様になった王子様が
国民みんなから愛されて
ステキな国を創り上げるのはまた別のお話
お米シリーズ2作品目です。
1作品目をまだ読まれてない方は、作風は違いますがぜひ読んでいただけると幸いです。