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12大好きな 人

秋藤椿姫


 時刻は18時。


 そろそろお父さん、お母さん、紗雪ちゃんが帰ってきちゃう。


 明良くんならそうなる前にお開きを提案するはず。


 でも……。それはダメ。


 だって今日は、明良くんに告白してもらうんだから。


 覚悟は決めてる。


 全てをぶつける気持ちでここに来てる。


 明良くんの気持ちがわかってる以上、引き下がるつもりはない。


 私の全身全霊で告白してもらう。


 なにをしてでも。なにをしてもらってでも。


「椿姫」


 名前が呼ばれる。


 お開きの申し出。


 かと思ったけど。


「椿姫は高校卒業したらどうするんだ?」


 解散の提案とは違う。


 むしろ話し出せば時間が掛かるような質問。


 質問の答えは持ってる。


 明良くんに付いていく。


 それだけ。


 明良くんが就職すれば私もするし、進学するなら私もする。


 お父さんとお母さんには進学するつもりだって話しはしてるけど、就職しても構わない。


 私が望んでいる未来は明良くんと一緒にいる事なんだから。


 なにかやりたいことがあるなら、それを支えたい。


「私は」


 でも、それは伝えられない。


 明良くんに合わせて将来を決めるなんて、明良くんが許してくれない。


 自分で考えて、自分のしたいことをするべきだ。


 明良くんならきっとそう言う。


 自分のことをもっと考えろって、きっとそう言う。


 だから。


「明良くんは?」


「俺は進学だな」


 その答えは、なんとなくだけどわかってた。


 高校に入学してから勉強を頑張ってるところは見てたから。


「何処に行くか、決まってるの?」


「ああ。ちょっと離れたところだから家を出るつもりだけど」


 その言葉に、心臓が握り潰されたかのように苦しくなる。


 家を出る……? うそ、それは、知らない。聞いてない。


 予想してない。


 進学するにしても、就職するにしても、ここからなら大抵の場所にいける。


 特別な専門学校だったり、特定の企業なら話は別だけど。


 そんな素振りは明良くんになかった。


 何個か大学は予想してたけど、家を出るとまでは考えてなかった。


「都内に引っ越すと思う」


「そう、なんだ」


 都内だったら、どんなに離れていても数時間で行き来できるはず。


 だったら、大丈夫。


 明良くんに会えなくても、毎日顔を見られなくても。


 寂しくなったら会いに行けるから。


 家を出る選択肢もある。


 けどそれは、明良くんに依存しすぎてるような気がして。


 唐突すぎて、お母さん、お父さんと離れることが考えられなくて。


 アヤメちゃんとも、高校の友達とも離れたくない。


 私の一存じゃ決められない。


 色んな思いが次々と押し寄せてきてどうしていいかわからない。


「椿姫。俺は椿姫が好きだ。付き合って欲しい」


 それ以上に唐突な言葉に、声が出なくなる。


 なんでこのタイミングで?


 って想いと、明良くんに好きって言ってもらえた感動で意識が遠のく。


 でも、いまいち実感できてない。


 色んな考えが明良くんの言葉を邪魔してるから。


 でも、嬉しさで涙が滲んできた。


「……うん」


 そう言うことしか出来なかった。


 まだ気持ちの整理ができてないから。


 嬉しい。凄い嬉しい。今すぐにでも明良くんに抱きしめて欲しい。


 けど、これからのことを考えると、それが出来ない。


「それで、卒業までその気持ちが変わらなければ……。俺と一緒に暮らさないか?」


 言っている意味がわからなかった。


 一緒に暮らす?


 誰と、誰が?


「一緒に? それって」


 あまりのことに聞き返してしまって。


「もし椿姫のやりたいことの邪魔にならないなら。一緒に暮らしたい」


 一緒に? 同棲するってこと?


 わからない。


 色んな事がありすぎて、なにもわからなくなってくる。


 明良くんに好きって言ってもらえた。


 本当ならそれだけで細胞が消滅するほど嬉しい。


 告白してもらえた。


 それはもう身体を溶かして明良くんに飲んで欲しいぐらい嬉しい。


 一緒に暮らしたいって言ってもらえた。


 それはもう、考えられない。


 予想できない幸せがあるんだって、初めて知った。


「明良くん。なんでも言うこと聞くって、言ってたよね?」


「なんでも? ……ああ。言ってたな」


「ギュって抱きしめて欲しい」


 実感するには、明良くんを感じるしかない。


 本当に明良くんは存在しているのか。


 この世は私が作り出した妄想じゃないのか。


 それに浮かれているだけなのではないか。


 目が覚めるとそこは明良くんに嫌われた世界なんじゃないか。


 その可能性を消すためには、明良くんに触れるしかない。


 明良くんは恥ずかしそうに、私を包み込んでくれた。


 慰めるように頭を後ろから撫でてくれる。


 逞しい手が背中を摩ってくれる。


 暖かみを感じるために頭を近付けると、ギュッと身体が締め付けられた。


 微かな痛み。


 それ以上に、想像していた夢が叶った幸せに気持ちが晴れていく。


「明良くん」


「ご、ごめん」


「うんうん。ちょうどよかった」


 少しだけ身体を離して明良くんの顔を見る。


 恥ずかしそうに笑う明良くん。


 私を好きだと言ってくれた。


 私と付き合いたいと告白してくれた。


 私と一緒にいたいと同棲を誘ってくれた。


 ……大好き。


「私も明良くんが好き。ずっと一緒にいたいから」


 大好き。


 瞳を閉じる。


 耳が痛くなるほどの沈黙の後。


 唇が触れた。


 声にならない気持ちが溢れる。


 私はやっぱり、明良くんが大好きだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 椿姫ちゃんもこれからはアキラに依存し過ぎてアキラにやはり別れようって言われない程度には自分の事もしっかりしないとですね(≧∇≦)b
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