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12将来の かたち

佐野明良


 数式を解きながら時計を見ると、18時を指していた。


 そろそろ親か紗雪が帰ってくる頃だ。


 流石に椿姫を家にあげているところを見られるのはよろしくない。


 特に反抗期である紗雪には。


「椿姫」


 呼びかけると、顔を上げてこっちを見た。


 そろそろ解散にするか。


 と言うのがいつもの俺だが、今日は違う。


「椿姫は高校卒業したらどうするんだ?」


 告白するんだ。


 思えば椿姫に『好き』と言ったことはあっただろうか?


 ずっと一緒にいて妹のような存在だったから、好きだなんて当たり前で。


 ましては今までは恋愛感情ではなかった。


 だから、言ったことはない。


「私は」


 椿姫は目を伏せて、考えるというよりは困った表情を浮かべている。


 決まってはいるが口にしづらいような、そんな感じ。


「明良くんは?」


「俺は進学だな」


 もう行きたい大学は決まってる。


 将来の夢も、ぼんやりとある。


 なれたらいいなと思う程度だけど、そのために進学するつもりだ。


「何処に行くか、決まってるの?」


「ああ。ちょっと離れたところだから家を出るつもりだけど」


 そのため、という訳じゃないけど高校に入学してすぐバイトを始めてる。


 椿姫の隣に立つために身嗜みを整えたり、筋トレしたり。


 その為に稼いだお金。


 それでも余っているし、これからは家を出るために貯めるつもりだ。


「都内に引っ越すと思う」


「そう、なんだ」


 寂しそうに、椿姫は呟く。


 俯き加減で、自分の細い腕を抱きしめるように。


「椿姫はまだ決まってないのか」


「私は。私は……」


 か弱い声の、続きの言葉は出てこない。


 気丈な表情で堪えているが、今にも泣き出しそうで、ぐっと唇を噛み締めている。


『一緒に来て欲しい』


 それが俺の思い。

 

 でも、それは我が儘だ。


 どこまで椿姫を振り回すのか。


 臆病な椿姫を引っ張り出して、いろいろ連れ回して、突き放して。


 またこうして同じ時間を過ごして、告白して、暮らす場所を変えさせる。


 それともまた突き放す? 離ればなれになって、遠距離で愛を育む?


 小松原の言うとおり、身勝手過ぎる。


 少しは椿姫の事を考えて行動した方がいい。


 そう、椿姫のことを考えて。


 考えた、だから俺は答えを出したんだ。


「椿姫。俺は椿姫が好きだ。付き合って欲しい」


 声にならない音と共に椿姫の顔がこちらを見る。


 言ったことに対しての震えと、返事を待つ震えで意識が遠くなる。


 もし断られたらと思うと、呼吸ができなくなる。


「……うん」


 椿姫は、恥ずかしそうにコクりと頷いた。


 外を走る車の音に掻き消されてしまいそうになるほど小さな声。


 それでも椿姫の表情に、安心が押し寄せる。


「それで、卒業までその気持ちが変わらなければ……。俺と一緒に暮らさないか?」


「一緒に? それって」


「卒業したら2人暮らしできたらなって思ってて。椿姫と、離れたくないから」


 自分の素直な気持ちを伝える。


 それが椿姫にとって迷惑になってしまったら、それを止めればいいだけだ。


「もし椿姫の遣りたいことの邪魔にならないなら。一緒に暮らしたい」


 告白だけで済まそうとも思っていた。


 けど、もう椿姫に隠し事はなしにしたい。


 だから。


「明良くん。なんでも言うこと聞くって、言ってたよね?」


「なんでも?」


 言われて、思い出す。


 まだ仲直りする前のことだ。


 遅刻しそうになった時、椿姫に自転車を借りて一緒に登校した。


 その時に言っていた覚えがある。


「ああ。言ってたな」


 椿姫は両手をこちらへ伸ばして微笑む。


「ギュって抱きしめて欲しい」


 瞳に溜まった涙が零れて頬を伝わる。


 照れや恥ずかしさ、椿姫を前にする緊張は不思議とない。


 それは、椿姫の笑顔が子供の頃のように無邪気だったかも知れない。


 手を伸ばす椿姫の身体をギュッと抱きしめると、手が背中に回す。


 温かい身体を感じて、自然と鼓動が激しくなってきた。


 そのせいか、力が強くなってしまう。


「明良くん」


「ご、ごめん」


「うんうん。ちょうどよかった」


 顔を離して見つめ合う。


 謝罪に対して、椿姫は首を横に振った。


「私も明良くんが好き。ずっと一緒にいたいから」


 そう言って瞳を閉じた椿姫に。


 俺はそっと唇を重ねた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アキラ良く告白した( *´艸`)
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