8報告と 抱擁
秋藤椿姫
「ごめんなさい。今日は用事があるから」
食堂へ向かっている途中、友達にそう伝えて昇降口へ。
靴に履き替えて向かったのは中庭。
晴天の今日は日差しが心地よく、風がないのでお昼寝日より。
であれば彼女が中庭にビニールシートを広げて寝ているのは明白で。
「やっぱりいた」
予想通り、女子高生とは思えない体勢で私が探していた人。
アヤメちゃんは寝ていた。
小さい身体を大の字に広げ、服が引っ張られておへそが出ている。
だらしなく開かれた口からは涎が垂れて、相変わらずのだらしなさ。
覗こうと思えば簡単に女の子らしい下着が見えて、あまりにも無防備な状態。
本人は気持ちよさそうにしてるけど、本当にそれでいいのかな?
「可愛いからいいけど」
明良くんとは違った可愛さ。
私と同い年とは思えないほど幼い顔立ちで、身体が小さい。
起こすのも申し訳ないのでアヤメちゃんに膝枕をして待つことにする。
肩程までのふるゆわパーマを当てられた髪の毛を触っていると。
「んぅ……。ん?」
「おはよう、アヤメちゃん」
まだ眠そうに目を擦りながら。
「あぁ……。秋藤。どったの? ってかなにしてんの?」
「アヤメちゃんとお話したくて。膝枕の練習しながら待ってたの」
「膝枕なんか練習するもんじゃないっしょ」
「そんなことないよ。明良くんにしたとき気持ちよくなってもらわないと」
「あっそ。相変わらずだね、秋藤は」
欠伸をしながら身体を持ち上げて背伸びをするアヤメちゃん。
アヤメちゃんは私と明良くんの関係を知っている、私の親友。
これまで色んな相談に乗ってもらったり、助けてもらったりしてきた人。
明良くんに冷たくされ始めた時はアヤメちゃんの家に1ヶ月泊めてもらった。
明良くんが冷たくしてきた理由をいち早く教えてくれた。
一人になった私を誰よりを心配してくれて、明良くんと仲直りするために案を出してくれた。
家族を除いてだと明良くんが1番好きな人で、アヤメちゃんはその次に好き……じゃない。
明良くんと私はもう家族だから、家族を除くと1番私が好きな人。
頼りになる親友。
「それで、話しって?」
「そう! お話したくて! ねえアヤメちゃん!」
「急にテンション高いなぁ。学校で出さないんじゃないの? それ」
「そうだった、いけない……。こほん」
学校だと面倒な事に付き合いたくないから淡々と対応出来るようにしてる。
真面目で口数が少ない。少し冷たいのが似合う位のキャラなら男子を遇っても変じゃないから。
そのぶん女の子達には優しくしてればなんの問題もない。
そのせいで女の子に告白されたり、変な噂が流れたりするけど。
苦手な男子に近付いてこられるよりはよっぽどいい。
アヤメちゃんの前で気が緩んじゃったけど、周りに人がいないからセーフ。
「アヤメさん」
「急に真顔でさん付けされると恐いんだけど」
「貴方が言ったんじゃない」
「まあそうだけど。それで、なに?」
「ギュッと抱きしめさせてくれないからしら?」
お願いに、露骨に嫌そうな表情を惜しげもなく晒すアヤメちゃん。
「なに急に」
「ギュッとしたいの。アヤメさんを」
「普通に嫌だけど。そういうの佐野にしてやればいんじゃん」
「あきら……佐野くんには当然する。むしろ私はされたい派。骨が軋むぐらいの力で」
「いや聞いてないし」
「けど、アヤメさんにもしたいの。アヤメさんにはしたい派よ。優しく包み込むぐらいの力で」
「いや知らんけど。頭いかれた?」
どしたん? と首を捻っているアヤメちゃん。
胡座をかいて腕を組んでいるのですぐに動き出せる体勢じゃない。
そう判断した私は一気にアヤメちゃんに襲いかかる。
「なっ」
アヤメちゃんを押し倒す。
抵抗してこようとした手首を掴み、股が閉じれないように膝を挟み込んだ。
明良くんと違って細い手首に込められた力は私でも押さえつけられる。
顔を近付けると状態をぶつかるのを恐れて身体を無理に上げようとしない。
「な、なに急に。恐いんだけど」
平静を装ってるけど、顔が引きつってる。
いきなりこんなことされたら、それはそうなるよね。
けど。
「昨日、明良くんとこんな感じになったの」
「それで?」
「明良くんに押し返されて、そのままキスをされたの」
「おめでとう」
「ありがとう。だからアヤメさんをギュってしたい」
「関係なくない?」
「関係なくない。私はアヤメさんに感謝してるの。だからギュってしたい」
「いやそういうのいいから……。近い近い! 顔を近付けるな!」
私は唇を微かに尖らせ、アヤメちゃんの薄い唇に近付ける。
「ギュってさせてくれないならキスするけれど」
「意味わかんないから!」
「ギュッとさせてくれる?」
「それは……」
戸惑うアヤメちゃんの唇に近付き。
「わかったから! キスは嫌だから! 抱きしめるぐらいいいから!」
「ありがとう! アヤメちゃん!」
そのまま私はアヤメちゃんに覆い被さる。
「ぐぇー!」
明良くんのと違って甘い香りがしてくる。
身体は細くて、それこそ私よりも華奢で女の子らしい。
ギュッと密着させると暖かさが伝わって来て安心する。
目を閉じれば寝てしまいまそうなほどに。
「アヤメちゃんの御蔭で明良くんとキス出来たよ。ありがとう」
「あっそ。そろそろいい? 他の奴等に見つかったら面倒なんだけど」
「そうね。ごめんなさい。あと、いつも本当にありがとう」
名残惜しいけど、他の子に見られたら面倒なのは間違いない。
最後にもう1回、アヤメちゃんの身体を強く抱きしめて。
「ひっ!」
座り直す。
「あっ、そうだ。今日はアヤメさんのご飯も作ってきたから」
多めに作ってきたお弁当をシートに並べていると。
「なんでそんな平然としてられるんだか」
アヤメちゃんは暑そうに薄い胸元まで開いているシャツをパタパタさせていた。