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7勝手な 初夜

秋藤椿姫



 目が覚める。


 視界に入るのは見慣れた天井。


 なんで私は寝ているのか?


 いつ寝てしまったのか?


 いま何時なのか?


 順を追って思い出す。


 確か明良くんと触れ合うためにいろいろ策を練って。


 図書室では思惑通りに話しが進んで、途中で寝ちゃって……。


 その後、校門で明良くんが私を迎えに来てくれた。


 謝ってくれたんだ。


 あの時のことを。


 そして、またあの時のように一緒にいたいって言ってくれたんだ。


 思い出したら涙が出てきた。


 やっと明良くんと一緒にいられるって思ったら。


 時計を見る。時刻は夜中の二時だった。


 お腹が減って、汗を掻いてて、お風呂に入りたくて。


 とりあえず階段を降りてリビングに入る。


「あら。ようやく起きたの?」


 お母さんがソファーに座ってテレビを見ていた。


 いつもは私より早く寝てるのに。


「どうしたの? こんなに遅くまで」


「椿姫が起きたらお話を聞こうと思って」


「お話?」


 なんの話しだろう?


 お母さんに話すことは特にない。


 明良くんと仲直りした、とは伝えたいけど、それは母さんが知ってるわけないし。


 思い当たる節がない。


「とぼけちゃって。明良くんと仲直りしたんでしょ?」


「へっ?」


 なんでお母さんがそんなこと知ってるの?


 わからない。わからないけど、ニヤニヤしてる所を見ると、確信している。


 私と明良くんが仲直りしたことを。


「な、なんでお母さんが」


「当然でしょ。椿姫をここまで運んでくれたの明良くんなんだから」


 明良くんが私を家まで運んでくれた?


 なんで?


 だって、私は校門で明良くんに謝られたあと、一緒に帰って。


「明良くんも相変わらずわかりやすいんだから。ちょっと椿姫のこと聞いただけで顔真っ赤にしちゃって。あんなうぶな子いまどきいないわよ」


 違う……違う! 違う違う違う!


 明良くんと一緒に河川敷に行った!


 そこで明良くんと……。明良くんと、キスをした!


「ちょっと椿姫。どこ行くの?」


「お風呂!」


「あっそう。じゃあお母さんもう寝るからね」


「うん!」


 そう、明良くんとキスをしたんだ!


 明良くんからキスをしてきてくれたんだ!


 だから私は念入りに身体を洗い、その時に備えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お邪魔します」


 音を立てないように鍵を開け、明良くんの家に入る。


 前みたいな不法侵入じゃない。


 明良くんの両親とうちの両親は仲良しさんで、よくお互いの家で飲み会をしてる。


 だから、お互いに合鍵を渡している。


 別に私が使っちゃイケないなんて決まりはないから、悪い事じゃない。


 階段を上がって明良くんの部屋へ。


 音が鳴らずにスムーズに扉が開いて、窓辺に置かれたベッドの上。


 明良くんは気持ちよさそうに寝ていた。


 月明かりに照らされる無邪気な寝顔。


 学校ではクールにしようとしてるけど、やっぱり根っ子はやんちゃさん。


 ……可愛い。可愛い可愛い可愛い! 格好いい!


 ずっと見たかった。寝ている明良くんを!


 ずっと見ていたい。寝ている明良くんを!


 昔から変わってない。一人で寝てるのに壁に身体をくっつけて寝ている所。


「お邪魔……じゃないよね」


 それに。


「ただいま、だもんね」


 そう呟いてから一緒の布団に入る。


 懐かしい。小さい頃は、こうやって横で寝ている明良くんの寝顔を見てた。


 そう思うと、昔のようにしたくなる。


 ダメだとわかっていても、頬をツンツンと突いてしまう。


「んんぅ……」


 明良くんが寝返りを打ってこっちを向いた。


 突然のサプライズに鼻息が荒くなってしまう。


 頭を振って冷静を取り戻して、今度は明良くんの頬を指でなぞり。


 すぐに唇にぶつかった。


 この唇と、触れ合ったんだ。


 私の唇が。


 そう思うと、指が勝手に唇を突いていて――不意に明良くんの口が開いた。


 私の指をパクりと加えて、「もごもご」と舌で転がし始める。


 いやっ、いやっ、いやっ……最高!


 くすぐったい。甘噛みされてて少し痛い!


 けど、溜まらなく嬉しい!


 まるで明良くんに餌付けしてるみたい!


 指を動かすと明良くんも付いてきて……可愛い!


 そんなことをして遊んでいると、飽きられたかのように指が解放される。


 すかさずパクリと自分の指を加えてその感触を味わう。


 私の指……。でも、遠くに明良くんの味がする。気がする。


 私の脳みそ。今の液体は明良くんのものだから、全身に隈無く送り届けて。


 それが私の原動力になり、なによりの栄養になるから……。


 そう考えたら身体が熱くなってきて、気付けば明良くんに抱き付いてしまって。


「あっつ」


 その言葉が聞こえた瞬間に目を閉じて絡めていた手足を引っ込めた。


「ふぅー」


 息を吐いて窓の外を見ている明良くんを薄目で見ると。


「寝てるかな」


 私の部屋を見ながらそう呟いている。


 黄昏明良くんも格好いいよぉ……。


「椿姫は……。どう思ってるんだろうな」


 貴方を愛しています。


「そりゃそうだよな」


 それはそうです。


「そうそう。椿姫はここにいるんだからたまたま窓を開けたら顔を合わせるなんてことはねえ……。って、そういうことじゃねえだろ!」


 いきなりの大声に驚きそうになったが、寝たふりを続ける。


「寝てるよな? 椿姫。椿姫ー」


 きっと私の顔を見てる。だから、薄目も開けられない。


 気になって瞼がピクピク動きそうになるけど、必死にそれを堪える。


 ぷにっと、私の頬が突かれた。


 目を開けたい……。明良くんがどんな顔をしてるのか見たい……。


「むぅ……」


 頬を撫でられくすぐったくなって首を振る。


 すると今度は――唇が指に押し込まれた。


 色々な事が脳内を駆け巡り、私は明良くんの指をパクりとくわえた。


 そのまま擽るようにチロチロと舌で指を舐め回す。


 あぁ、明良くんの指。美味しい……かはわからないけど幸せ……。


 と、そこでギギギと何かが開く音が聞こえて来た。


「……なに? 殺すよ?」


「ご、ごめん」


「殺すよ?」


「だからごめんて」


 声を聞くに紗雪ちゃんが起きて来ちゃったみたい。


 暗いから気付かれないと思うけど、もしバレちゃったどうしよう?


 そう考えると、不安なはずなのに心が躍って、困り顔の明良くんが可愛くて。


「はむっ」


「いぢっ」


 構って欲しくて指を噛んでみた。


「いぢっ? ふーん……。殺されたいんだ」


「ち、違う!」


「ふーん……そっかぁ……へぇー……そっかぁ……」


「こ、今度の土曜日に駅前のプリン買って来てやるから!」


「ふーん……そっかそっかぁ……」


「しかも3つ! 1日に全部食べていい! 母さんは俺が説得する!」


「ふーん……。ふーん……」


 自分の部屋に戻る紗雪ちゃんに、ホッと息を吐く明良くん。


「まったく。お前のせいだぞ」


 呆れた風にそう文句を言ってくる。


「……まったく。本当に殺されちまうんだからな。わかってんのか? この野郎っ」


 目を閉じているので状況はわからない。


 けど、少し悪戯し過ぎちゃったかな?


 もしかしたら何かされるかも、と。


 頭が優しく撫でられた。


 気を引きたいから、一緒にいたいからって悪戯して。


 そんな私を明良くんはいつも怒らないで、優しく宥めてくれてた。


 優しすぎる手を感触に心が安らぎ、気付けば私は眠ってしまった。

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