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「ようこそいらっしゃいました、皆様」
「ご苦労、変わりはないか?」
「はい」
馬車を降りると、先についていた侯爵と鉱山の責任者であろう人が話している。ここは国の鉱山だけれど、侯爵の預かりになっている。そういえば、ここで採取される宝石はどこのお金になるんだろう。罪を償うための労働だから、基本的に本人のお金にならない。国にいくのか、侯爵にいくのか……。
「アラン?」
「あ、何でもない」
今はひとまず視察、だよね。全員馬車から降り切っていたみたいで、僕も慌ててみんなの後ろについていった。
「それで、あやつはどうしている?」
「相変わらずです。
どうにかなりませんかね?」
あやつって誰だろう? あ、ダブルク様が話を聞きに行っている。それと出迎えに来た人の中には僕らのことを聞いていなかったのか、子供がいる? と驚いている。ええ、こどもですとも。
なにやら話が付いたようで行きましょう、と声がかかる。先ほどからずっと聞こえているガンガンという音や、たまに聞こえてくる怒号。少し怖いけれど、勇気を出して鉱山の中へと入っていった。
「ほら、まだ休む時間ではないぞ!
採掘された宝石は決して傷つけないように洗うんだ」
「くっそ、固すぎるだろ」
ぴしりとした制服を着た監察官、それと簡素なシャツとズボンを身に着けた囚人。すぐにだらけようとする囚人を、監察官は鋭く見つけては叱責を飛ばす。監察官は手には鞭を常に持っていて、囚人は通常のものよりも少し長めな鎖の手錠と足かせを付けている。これじゃあ大変だ……。
「おおむね、順調に進んでいるみたいですね。
何か不都合なことなど起こっていませんか?」
「いえ、いつも通りです」
いつも通り……。そうだよね、ここにいるのは犯罪者。罪を償うために入っているんだもの。他の人について進んでいく。すると急に誰かに腕を掴まれた。すぐに護衛の人が止める声が聞こえて、離れていく。腕を掴んだ人を見てみると囚人のための服を着た中年の男性だった。
「お願いだ、話を聞いてくれ!
俺は、俺はなんにもやってないんだ」
「ひとまずこの方から離れろ!
話なら部屋で聞いてやる」
「ああ、本当ですか?
本当に俺はなんにもやってないんです。
はめられたんだ」
はめられた? 普通なら罪を逃れたくて言っていると感じるけれど、この人があまりにも必死で、なんとなく嘘を言っているようには思えない。
「あ、アラン大丈夫!?
……なんだか、この領に来てからアランが危険な目にばかりあっている気がする」
「そうかな?
でも大丈夫だよ。
自分の身を守る手段くらいあるし」
そっと内ポケットに忍ばせているナイフに手を当てる。ここにナイフが入っていることはシントも知っているし、なにより魔法の腕は充分分かっていると思っているんだけど。
「それでも、万が一がないかが怖いんだよ」
「そう?
でもシントが狙われるよりはよっぽどいいでしょ」
さすがに王子が狙われるのはまずいし、なら辺境伯家の次男の方が重要性は低い。そう思った言ったんだけど、なぜかシントはむすっとしてしまった。
「どっちのほうが狙われていいとかではないんです。
両方安全でいてもらわねば
すみません、守りきれなくて」
え!? シントにばかり気を取られていたから本当にびっくりした……。まさか、ダブルク様にも怒られるなんて。
「すみませんでした」
謝ったらなぜか苦笑いされて、頭を撫でられました。いや、本当になんで?
どうやらここにはどうしても主張したいことがあれば二年に一度やってくる視察団に直訴してもよい、というこっそりとしたルールがあるらしい。それを聞いた先ほどの男性、クラミックさんは藁にもすがる思いで僕に声を掛けたらしい。まあ、それでも明らかに子供である僕に声を掛けたことについては厳重注意をうけたらしい。
「でも、再調査の結果もう一度罪人の罪が確認された場合は、さらに重い罰を言い渡されるのでなかなか言う人はいないのですけれどね」
「でも声を上げたということは、正しい可能性がある、と?」
「可能性は、もちろん。
声を聞いた以上、再調査は行われるでしょう」
「クラミックさんは一体何の罪を?」
この鉱山はなかなかの重罪人が来るはずだ。つまりクラミックさんがかぶせられた罪は相当重いはず、そう思って聞くとなぜかダブルク様が微妙な顔をした。なんか変なこと言ったかな?
「それは、まあ。
君に言うことではないな」
うーん? 言えない、ではなく言うことではない? まあ確かに僕が聞いたとこでなんの力になれないけれどさ。
「ああ、気を悪くしないでくれ。
でも、な」
なんだかものすごく気まずそうなので、さすがに言及はやめておきます。シントはどういう意味か分かったかな? とシントの方を見るとやっぱりよくわからないって顔をしていた。うん、だよね。
その後もお昼をいただいて、また視察をする。お昼は通常ここの職員が食べているものを食べました。一食分だけ囚人用も見本としてでていたけれど、やっぱり豪華さが違うよね。まあ、そこは仕方ない。
そして折り返しするところまで進んで、そろそろ戻ろうかという時だった。急におそらく僕に強い視線が向けられる。とっさにナイフを抜く。そして、近づいてきた男の勢いそのままに手首をとって、首筋にナイフの刃をあてた。さすがに鎖付きだと動きが鈍くてやりやすいね。
「アラン⁉」
「アラミレーテ様⁉」
やっぱり僕の反応力、みたいなのは変わっていないみたいで安心した。さっきの人はあんな強い視線とか感じなかったけれど、この人は分かりやすかった。荒くれものとしてきっと力強くて自信があったのだろう。というか、それで人を脅していたとか?
「これでは護衛の意味がないではないか……」
小声で言われたダブルク様の言葉、護衛を担当している人にしっかりと届いてしまったみたい。かたい顔をしている。僕が捕まえた男はすぐにどこかへと連れていかれて。その間もずっと何かを叫んでいたけど、まあ何でもいいか。
「よく反応できましたね」
「た、たまたまです……」
どうせ僕は剣を扱えない人間ですし。なんだか僕以上にはらはらとした顔をしたシントに大丈夫だから、といってもあまり信用してもらえていない気がする。もともともう帰る予定だったけれど、行きよりも気持ちはやめで屋敷に戻ることになってしまった。なんだか申し訳ないです、はい。




