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「そうだ、アランに聞きたいことがあったんだけれど……」
話に区切りがついたタイミングでシントがそんな風に歯切れ悪く言ってきた。僕に聞きたいことって何だろう? 首をかしげていても言いづらい話らしくてあの、その、と言いながらサイガやゾーゼルのほうをちらちらと見ている。そしてそれを察したのかゾーゼルが空になったカップに紅茶を入れると、口を開いた。
「我々は外でお待ちしておりましょうか?」
「……そうだね。
そうしてくれ。
僕が呼ぶまでは誰も入れないようにしてくれ」
どうしたらいいかとこちらを見るサイガにもうなずく。すると二人は一礼して部屋を出て行った。それを見届けるとシントは一口新しく入った紅茶を口に入れる。そして、少し移動しようか、と言うとすぐに動き始める。これはあれですね、隠し部屋に行く気ですね。
「ねえ、アランは今の皇国についてどれくらいのことを知っている?」
予想通り隠し部屋に移動した後、極力抑えた声でそうシントは聞いてくる。やっぱり皇国関連のことでしたか。でも、どれくらいって、ほとんど知らない。わかるのは休戦中の今でも小競り合いは起きている、くらいのことだ。基本的には屋敷から出ないし、周りもあえてそんな話題に触れてこない。当然情報が入ってくるわけがないのだ。
そう話すと、そっか、と未だ暗い顔でつぶやく先ほどからいったいどういうことなのだろうか。
「何か懸念が?」
「うーん、はっきりとは言えないのだけれど。
僕はいろいろな問題を残して逝ってしまったからね。
今どうなっているのか気がかりで」
「それこそ、シントの教師が教えてくれそうなものだけれど」
「外面的なことはね。
でも僕が知りたいのは皇族の内面なんだ」
内面? それを今知って何をする気なのだろうか。何かやり残したことがあったとしても、もう僕らにはどうしようもないものだとわかっているからこそ疑問に思う。気にして、それに関する情報を集めて、それでシントはどうする気なんだ?
「皇族の系譜がどうなっているのか知りたかったんだ。
君もよく知っているとは思うけれど、本来僕は母の血筋としても第二皇子という地位としても皇位につく人間ではなかった。
その結果叔父、正確にはその息子である従兄がならば自分が、と手を挙げたんだ」
は? と思わず声が漏れる。いやいやいや、クロベルタに無理やり皇位を押し付けたやつが何を言っている? 隣国との開戦が逃れられない状態で国内も不安定、その上先代皇帝が暗殺された。そんな状態でだれが皇位に就きたいと思う。直系の皇族だろう、と皇帝に祭り上げられたのはクロベルタ。今まで皇帝になるための勉強をしていないのは知っていた。それでも押し付けられたのだ。僕が知る限り、生きている間にそいつが名乗り出たことはない。つまり、終戦して国が安定するめどが立った途端に手を挙げたということだ。どこまでもありえない。
「まあまあ、落ち着いて」
そんな僕の様子にシントは苦笑いだ。一番その被害を受けた人がもう過去のことだから、という。割り切れない思いはあるが、仕方なく一度流すことにした。
「それで結局僕が生きている間は皇帝位に就いていたんだけれど、次に誰が就くかがかなりもめていてね。
結局どうなったのか気になっていたんだ」
「気にして、どうするの?
そこまで調べようとすると、かなり踏み込んで調べなくてはいけないだろうし……」
「何かしたいから、というわけではないんだ。
ただ、気になって……」
「そういう理由なら、深入りはやめてくれ。
自分の身を危険にさらすだけだ」
僕の言葉にぐっと唇をかみしめる。おそらく本人もわかってはいるのだ。だけれど、やっぱりこの人は割り切れない。ならば僕が止めるしかないよね。一応もう一押ししておこう。
「ご自分はもうこのアルフェスラン王国の王子だというご自覚をもってください。
前世のご自分のことを気に掛けるお気持ちはわかりますが、あなたの軽率な行動が場合によっては国全体に害を及ぼす可能性もあることをご理解ください」
ことさら丁寧に言葉を紡いでいく。あくまで臣下としての言葉にシントはうつむく。きっとわかってはいるのだろう、それでもクロベルタなのかベルタクトラなのかわからないけれど、とにかく前世の気持ちが消化しきれていない。まあ、それを外には出さないからいいのだけれど……。
押し黙った空気の中、シントがはぁ、と息を吐きだす音が聞こえた。
「そうだね、僕が軽率だった。
どうしてだろうね、見た目は全く違うのにアランといると気持ちがクロベルタに戻ってしまうんだ。
どうしても、こう安心してしまうんだよなぁ」
困ったような笑みを浮かべるシント。なんだか懐かしいかもしれない。そんなところに、なつかしさを感じる僕もきっとシントとクロベルタを相変わらず重ねているんだろう。




