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きゅっと、日刻ミ表に線が刻まれる。その横にはすでに丸が書かれていて。日の刻になるとお披露目の日であることを表していた。ああ、とうとう……。すでに今日遠方からのお客様がちらほらと訪れていて、屋敷の中はいつもとは違った緊張に包まれていた。お客様の宿泊は基本別棟であり、そのため本棟にいる僕と顔を合わせる可能性は少ない。それでも何事にも万が一ということがある。よって僕は今日部屋から出ることを禁じられていた。
つまらない、とは思いつつ明日のことを考えるとゆっくりと体を休めたほうがいいことも事実で、僕はしぶしぶとそれを受け入れることにしたのだ。まあ、兄上も姉上も、イシュン兄上も代わる代わる来てくれたからよかったのだけれどね。
「本日はもうお休みください。
明日1の鐘から準備が始まりますから、体調を崩されては大変です」
「うん、そうするよ」
よく眠れるように、とアベルが入れてくれたハーブティーを有り難くいただいた後、早々にベッドへと潜り込む。大勢の人の前に立たなくてはいけないのかと思うと緊張してくるが、ここはもう吹っ切れるしかない。何よりも兄上たちがそばにいてくれるとのことだからとても心強い。きっと、大丈夫、そう思っていると僕の意識はいつの間にか底へと沈んでいった。
1の鐘が鳴る前の時間だろう。ゆっくりと起こされた僕は眠い目をこすりながらも何とか目を開けた。本当に早い……。
「アラン様、まずは湯あみを済ませましょう。
そのあとにお食事をとり……」
もらった水をこくこくと飲みながらサイガが話していくこの後の予定に耳を傾ける。本当にいろいろ入っているみたい。お披露目は主役の9歳という年齢を考慮して昼過ぎから行われる。そのため夜会よりも朝からの準備が詰められてしまうのだ。申し訳ない。
あれよあれよと湯あみに連れていかれ、終わった後は入念なマッサージ。それだけでくたくたになってしまった僕に謝りながらも、朝食をもってきてもらうとそれを何とか口に運んだ。
僕が朝食を食べ終わると次は着替えの時間。アベルに手伝ってもらいながら、母上渾身の衣装に腕を通すこととなった。きちんとグレイ先生からいただいたブローチもついているし、腕にはもちろん腕輪をしている。おかげで総量がなかなかのものになっている気がする。お、重い……。
少しふらふらとなりながらも鏡台の前に連れていかれると、今度はメイクを施されていく。そんなに厚化粧ではないけれど、メイクというものがなれなくてなんだかくすぐったい。これに関しては、指示に従って目を閉じたり口を開いたり、そんなことをしているといつの間にか終わっていてくれたのでありがたい。
ようやく準備が終わったのは2の鐘がなってしばらくしてからだった。いや、本当にすごくかかったね。準備が終わるとどこかに消えたアベルは、少しして家族を連れて戻ってきた。
「すごく素敵だよ、アラン!
本当におめでとう」
そう言って真っ先に花を渡してくれたのは兄上。母上は何だか口元を抑えて固まっているからいったん無視しておこう。それにしても姉上のときみたいに、今回も僕たち兄弟の衣装をなんとなくそろえたみたいで、なんだかうれしいかも。
「本当に!
ふふ、アランももう貴族入りなのね。
おめでとう」
「ありがとうございます、兄上、姉上」
「多くのものが来てはいるが、気にしなくていい。
この日のためにみな力を入れてきたからな。
十分に楽しむんだ」
「はい、父上」
「ああ、やっぱり半ズボンにして正解だったわ。
アランによく似合っている。
これからどんどん男の子らしくなっていくのでしょうけれど、今はこれが一番似合っているわ……。
あ、あら」
何事かをつぶやく母上を見ていると、それに気が付いたのか少し顔を赤らめて、あからさまな咳払いをする母上。そして、気を取り直して、おめでとう、とにっこりとほほ笑んでくれた。
親族はここでいったん顔を合わせるのだけれど、どうやら僕の体力も考慮して今会うのは父上たちだけみたい。後でいっぱいお祝いしてもらいなさい、と言われるのにうなずいておきました。
「みんなアランのことを楽しみにしているんだ。
カーボ家の末の息子で、この日刻ミ表を提案しただろう?
変に絡んでくる輩が出てこないといいのだけど」
「まあ、お兄様。
もしもそのようなお方がいましたら、ね?」
「そうだね」
いやいやいや、にこやかに会話しているけれどなんだか悪寒がする。なにこの会話、怖い。母上は頼んだわよ、なんて言っているし。どうか平穏無事にこのお披露目会が終わりますように。
そうこうしているうちに鐘の音が聞こえてくる。ああ、とうとう時間がやってきた。
「ではわたくしたちは先に行っていますね」
「あとでね、アラン」
「はい」
う、緊張してきた。一体どんな人たちが、どれだけいるのか。
「大丈夫です、アラン様。
この日のためにたくさん準備をされてきたのですから」
「サイガ……。
うん、そうだよね」
きっと大丈夫。今日の役割は、最初の挨拶、それとそのあとは会場の中心で挨拶をしてもらうだけだ。その時は兄上も補佐についてくれるし、きっとどうにかなるよね。
「私たちも精いっぱいお支え致しますから」
「ありがとう」
ふう、と一つ息を吐きだすと、僕も会場へと向かうことになった。




