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しっかりと閉められた厚いカーテンを開けると、赤い光が入ってくる。ああ、またこの日がやってきた。今日で年が明けたんだ。つまり、9歳になった日。特に何かが変わるわけではないけれど、お披露目の日は着実に近づいてきている。
「お目覚めですか、アラン様」
「おはよう、サイガ。
見事に真っ赤だね」
後ろから声をかけられて、特に振り返ることなく空を見上げたままそういう。この空はずっと、150年の時が経ったとしても変わらない。いつの間にか隣に来ていたサイガがそうですね、と一緒に空を見上げてくれる。それにしても、何回この日を経験しても不思議だよね。
「窓際は冷えます。
どうぞ温かくなさってください」
ぱさっとかけられた上着をありがたく受け取る。確かに少し肌寒かったかも。そう思っていると、アベルが温かい紅茶を入れてくれていた。ありがたくいただきます。
「そろそろお支度をされませんと。
きっと皆さま、早々にお集まりになられるのではないでしょうか?」
うーん、ありえそう。今日は僕が9歳になる日だからって随分前から張り切ってもいたしね。早めに行く方が確かによさそう。
「そうだね、アベル、お願い」
はい、と返事をすると今日のための服をすぐに持ってきてくれる。初めて見たときは、リボンにフリルに、とにかくごてごてとしていてびっくりしたよ。これも母上がデザインしたもので、これとは別にお披露目会用のものもあるんだからそのやる気にびっくりだよね。
おとなしく着替えさせてもらい、そのあとに軽くだけ化粧をしてもらう。最後に眼帯をつければ完成だ。
リビングへと行くとやはりというか、もう4人とも来ていて、どうやら出遅れてしまったようだ。ちなみに3の鐘の辺りでイシュン兄上たちも来ると言っていた。
「おはよう、アラン。
とっても良く似合っているわ!」
「ええ、本当に。
さすがお母様の見立てですわね」
でしょう? と女性陣が盛り上がっているのにおはようございます、とだけ返しておく。これは深く聞いてはいけないやつだ。そして父上と兄上の方を向く。
「おめでとう、アラン。
これで9歳だな」
「はい。
これからも精進いたします」
「ああ、無理はしないようにな。
銀月には王都に行くことになるのだ。
それまではゆっくりすごすのもいいと思うぞ」
「ありがとうございます」
「そうだよ、アラン。
あまり気おらないでね」
「はい、兄上」
「アラン、おめでとう。
これはわたくしたちからよ」
そういって渡されたのは、ラッピングされた箱。中身は何だろう。
「ありがとうございます」
うーん、そんなに重いものではないみたい。でも9歳のお祝いにとわたされるくらいだからなにか意味はあるのだろう。
「中身、気になる?」
首をかしげているとふいに兄上が微笑ましそうに聞いてくる。あ、これではまるで僕がプレゼントが楽しみで仕方ないみたいじゃないか。
「あら、アランは知らなかったのね。
カーボ家では9歳の日にあげるものは決まっているのよ」
え、なにそれ知らない。今までそんな話聞いたことないや。姉上がそれを貰った時、僕は5歳だったのだから覚えていても良さそうなんだけれど……。でも、そういう母上の顔はどこかうかなげで。このプレゼント、そんなになんとも言えないものなのかな?
「そんなに気になるのなら、開けてしまえばいいよ」
むぅと見つめていると、兄上がそんなことを言ってくる。それに姉上もそうよ、と同調してくるものだから、じゃあ、とお言葉に甘えることにした。
「これは……」
腕輪、だよね? それに僕の目の色である青の宝石が所々にはまっている。すごく、きれい。そういえば、兄上も、姉上もつけていたような気がする。
「つけてごらん」
言われてひとまず手に取ってみる。内側には、僕の名前? アラミレーテ・カーボとそう刻まれている。それにしてもこれぶかぶかじゃないかな。
そう思いながらもひとまず腕輪をはめてみる。すると不思議なことに僕の腕の太さに応じて腕輪が小さくなる。え、今何が起きたの⁉
「不思議よね。
わたくしも初めて見たとき本当に驚いたの」
ふふふ、と姉上がほほ笑む。やっぱりこれびっくりするよね。
「それにしても、どうして腕輪なのですか?」
当然の疑問を口にする。すると、なぜか気まずそうに目をそらされる。そういえば、先ほど母上も浮かない顔だったよね。品物はとても素敵なものだったけれど。そんな中、口を開いたのは父上だった。
「ここは、辺境領だからな、昔から皇国との争いが絶えなかった。
そこで何かがあっても、少なくとも屋敷に帰ってこれるように、と9歳のお祝いに、つまり正式に上級貴族になったお祝いにこうして名を刻んだ腕輪を贈ることになったんだ。
今は平穏だから、その意はほとんどないが、まあ伝統のようなものだな」
屋敷に、帰ってくるための腕輪。昔昔の記憶。そういえばいつだったか対峙したものが、同じように宝石のはまった腕輪をつけていた気がする。そうか、あの人もカーボ家のものだったんだね……。よかった、宝石に目をつけて腕輪を奪おうとするものを止めて。あの青年はきちんと屋敷に帰れたのだろうか。今は確かに形だけのものかもしれない。でも、この腕輪に込められたひそかな願いに僕は泣きそうになっていた。
「アラン?
どうして泣きそうに……?」
「なんでも、ありません」
ぐっと唇をかみしめる。今自分が泣くのはおかしい。それはわかっている。
「アラン?
先ほどお父様も言ってらしたけれど、今はそんな争いは起きていない平穏な時だわ。
大丈夫、あなたが戦場に赴くことはないの」
ふわりを母上が僕を抱きしめてくれる。でも違うんだ。そうじゃない。僕はやっぱりここにいてはだめなんじゃないか、そう思えてくる。でも、そんなこと口にできるわけもなく、僕ははい、とだけ口にした。




