28
「それで、結局シフォベント殿下とは仲良くなれたのかい?」
「うん!
あ、シントって呼んでって言われたんだけれど、殿下ってつけた方がいいのかな?」
「そうだね。
二人の時は殿下の言うとおりにしてもいいと思うけれど、誰かがいるときはきちんとした方がいい」
その日の夜、いつものように様子を見に来てくれていたイシュン兄上にシントと仲良くなれたことを報告していると、そんなことを言われた。それにしてもイシュン兄上はあまり嬉しそうではない?
「そうだ、あの、この眼のこと殿下に言ってはダメ?
今日聞かれて、正直に言えないのが嫌だったんだ」
できればシントには隠し事はしたくない、そんな思いから口にする。すると、なぜかイシュン兄上は驚いたようにこちらを見た。え、どうしてそんな反応をするの?
「どうして、会ったばかりの人をそんなに信頼しているんだい?」
信じられないとばかりのイシュン兄上の様子に思わずびくりと肩が揺れる。これはどうこたえることが正解なの? まさか、前世で築いたものがあるから、なんて言えないし。
「……、言っても大丈夫か、それは辺境伯に聞いてくれ。
僕が判断できることではないから」
そういうとイシュン兄上は部屋を出ていってしまった。どうしたんだろう、なんだか様子が変だったよね……。
「ねえ、サイガ。
イシュン兄上に何かあったのかな?」
ずっとそばで控えていたサイガに聞いてみるも、さすがにわからないらしい。まあ、そうだよね。
「ですが、久方ぶりに王都にいらっしゃって何か思うことがあったのかもしれませんね」
何か、思うところ。僕にとって王都は初めてで、すべてが新しいことだけれど、イシュン兄上はここの学園に通っていたんだものね。嫌な知り合いに会ったとか? うーん、さすがにわからない。
「そうだ、父上にお会いすることはできるかな?」
最近は夕食を一緒にすることもできていないんだよね。こちらに来たからには、いきなり呼び出されることもないだろうし、ゆっくりできるのかと思いきやすごく忙しそう。この時期しか王都まで出てこない父上には何かと用事があるらしい。母上もそれは同様で、心配になってくるほどだ。
「確認してまいります」
そういうとさっそく部屋を出ていく。そしてすぐに戻ってきたかと思うと、今なら少しは話せるとのことだった。ちょうどタイミングが良かったみたい。
父上の部屋に入ると、ここも領都の屋敷とあまりつくりは変わらないようだった。やっぱり過ごしやすいように作られているのだろう。
「何か用か?」
部屋に入るとさっそく父上がそういってきた。そのあとに、お前から話なんて珍しい、と続けられる。そういえば、自分から父上のところに行くのはあんまりなかったかも。
「あの、この眼のことをシント、シフォベント殿下に話してはダメでしょうか?」
そっと眼帯に触れながらそういうと、父上は驚いていた。やっぱりこれって驚くことなのですね。
「シフォベント殿下と、友人になったのか?」
「はい」
あ、そこから確認なのですね。少し拍子抜けしながらも父上を見ていると、父上はこちらを射抜くように見ていた。うう、なんだか怖い……。
「シフォベント殿下は、アラミレーテにとって、自分の身を任せられるほど信頼できる人間か?」
どうして、とは聞かずに父上はそんなことを聞いてきた。そんなの決まっている。
「はい」
嘘ではない、と伝えるために僕も負けじと父上の目をじっと見た。何だかこの質問は僕の秘密を殿下に教えてもいいのか、という最初の目的以上の意味があるように感じた。例えば、僕が殿下の傍にいる人間としてふさわしいのか、とか。やっと何も言われずに傍にいられるかもしれないのだ。ここで負けるわけにはいかない。
「……、わかった。
お前に任せよう」
そういうと、父上は僕が来るまでやっていたのであろう書類仕事を再開する。これは認めてもらえたっていうことかな。よ、良かった。
「ありがとうございます」
これ以上仕事の邪魔をしないように、と僕はすぐに部屋を出ることにした。




