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「もう、さすがアランだよ!」


「え、あの……?」


 カヌバレ領のことが一区切りついた日、僕らはひとまず皇都に帰ることになった。今、僕らがここにいてもできることはないからね。そして皇宮に戻ると、とたんにシントの歓迎を受けることになったのだ。


「アランたちがカヌバレ領の説得に成功してくれたおかげで、ほかの領も了承してくれたんだ」


「え、なんでそれが関係あるの?」


「カヌバレ領は皇国に支配されることで、最も苦汁をなめてきたところだからね。

 そして、最も天候不順等の被害が出ていないところでもある。

 そんなところが受け入れたのに、他が受け入れないわけにもいかないか……、という考えだと思うよ」


 そんなものか? でも、確かに凍土等の問題はほかの地域の方が深刻だろう。それをどうにかしたいのに、どうにもできない、という状況から脱するには一番いい手でもあったのだろう。それを心情的に簡単に受け入れられるかは別として。


 そして、他の領でも同様に正しい後継者というものを探りだしていた。


「皇族の家系はどうなったの?」


「うん、なんとかたどれたと思う。

 一応、あの例の公爵に祖父が王の間に行ったと話したらしいけれど、それが本当かはわからなかったからね。 

 確信があるクロベルタから辿らなくちゃだったから……。

 本当よくたどったよ……」


「お疲れ様。

 それで結局誰が……?」


「あの公爵が、正当な後継者、ということで落ち着いたよ」


「え、結局?」


 こくりと、どうも疲れた顔でうなずくシント。本当にお疲れさまでした。まさかこんな苦労をするとは、夢にも思わなかっただろう。


「あとはできるだけ早く行動した方がいいでしょう? 

 もう他の国の混乱は一切無視して、知らせだけ飛ばしておいた。

 皇帝、いや国王位の引継ぎは正当な手順にのっとってやるから、まあ大丈夫でしょう。

 ということで、アルフェスラン王国に帰ろうか!」


「……え?

 帰ろうって、本当にいいの?

 帰って?」


「うん。

 ここまでお膳立てしたんだ。

 もう、大丈夫だよ」


 えー、もう大丈夫って、本当に? なんでそんなに急いで帰ろうとしているんだろう。それに……。


「何か怒っている?」


「え……?

 はは、さすがアラン。

 隠せないね」


「何があったの?」


「僕はあくまで、アルフェスラン王国のシフォベントだ。

 見ていられなくて、いろいろと手を出してしまったのは確かに反省すべき点だ。

 だけど、完全に僕に頼ろうとするのはだめだろ……。

 僕はこの国と対等に向き合いたいだけなのに」


 それにしてはいろいろと手出しすぎでは? という言葉はすんでで飲み込む。結局シントはやさしすぎるのだ。それでいて不器用。だから、ちょうどいい点を探れない。


「それで、この場から消えようと?」

 

 こくり、とうなずくシント。まあ、それも選択肢の一つだね。この国が本来の形を取り戻すための道筋はできているわけだし。それに、僕としてもそろそろ一度アルフェスランに帰りたい……。もうずいぶんと長いこと動き回ってしまった。


「あ、最後に一つだけ言ってこないと」


「なにを?」


「次の赤の日までにすべてを終わらせろって。

 それがそうしたら、ようやくアランが言っていたことができる」


「僕が……。

 各地に人をってやつ?」


「そう。 

 王の間の扉が開かれるのはその日だけだから。

 そして、正しい形に戻せた確信を得た後に、次の行動を起こさないと」


「そうだね」


 確かに、シントの言うとおりだ。まずは皇国の王位継承を行い、そのあとに各地に王位を返上、皇国から王国に名を変える。それをわずかな時間でやってのけなければいけないのは大変だろうけれど、それくらいは頑張ってもらわないと。それにしても……。


「あーあ、今頃は学園で楽しく暮らしていたはずなのにね」


「本当に。

 なんでこうなっちゃたのか」


「まあ、充実はしていたけれど、さ」


 おかしいな、とお互いに顔を見合わせる。でも、もうすぐアルフェスラン王国に帰れる。帰ってからもやらなくてはいけないことは山積みな予感がするけれど、もうがむしゃらにやるしかない。


 リンキュ王国で起きていること、この国で起きていることは決して他人事ではない。まだ自分が平気だからと放置していれば、絶対に取り返しのつかないことになる。だから、今踏ん張るしかないのだ。


 いつか来る、平和で暖かな日のために。


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