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そのあとは、どうやって権利をラナ様に返還するのか、と言った話し合いがされた。ただ単に、はい自治権を返します、というだけではだめらしい。かつての皇帝が奪った、王たる証を返還してもらい、そのうえでラナ様が王と認めてもらう、という手順をふむ、と。そのためにはまず、皇帝を正しい血筋に戻さなくてはいけない。いろいろと順番が大切になってくるみたい。
そう言った難しい話は、僕は特に関わらない。結局ここに来た意味は、皇帝側に対して固く閉ざされてしまった扉を開ける役割を担うためだったみたい。どうせ時間があるなら、と僕はその間ティシベーラ様に話を聞くことにした。
「もう、体調は大丈夫なのですか?」
「ええ、一晩ぐっすりと眠れましたから。
それで、私にはどんな御用でしょうか?」
「昨日の話について、いろいろとお聞きしたいことがあるのです」
「どうぞ、何でもお聞きください」
そういってくれたティシベーラ様に甘えて、僕は気になったことを聞くことにした。それにしても、口調が全然違う……。
まずはなぜ、僕が、カーボ家のものが来た時にやっとか、と口にしたのかについてだ。
「ああ、それは。
実はね、あの戦乱が終わった後、私たちは皇帝に内緒でこっそりと会っていたのです。
とある英雄が、我々を引き合わせてくれました。
その先でとある口約束を交わしたのですよ。
いつか、カーボ家のものが救いに来るって。
だから、本当に来たのか、と驚いたのです」
えーっと、何それ。いろいろ知らないことだらけ。その口約束があったから、僕がここにいるわけではない。それなのに、なんだか居心地が悪い。カーボ家の御先祖様、約束をしたのならせめて、その約束をきちんと後世に引き継いでください……。
「でも、我らが守るべきだった尊い方がどう、と話していましたよね?」
「ええ、そうです。
口約束もそれに関することですよ。
神に愛された、あの一族を見守ることこそが我らの使命だった。
それを全うすることはできませんでしたが……。
同士であった我らは、カヌバレが皇国に敗れることで一度は刃を交えましたが、再び同士に戻ろうとしていたのです。
あなたのおかげで、きっとそれができる」
わかったような、わからないような。どうもこの方の話はどこかふわふわとしている。
「アラミレーテ様、でしたよね?」
「え、あ、はい!」
「あの一族と同じ瞳を持つあなたが、今後どのような生を送るのか私にはわかりません。
ですが、あの時お守りすることができなかった後悔を、どうか生かさせてください。
ラナ様もきっと同じ気持ちです。
今度こそ、あなたをお守し、力をお貸しします」
「あの……?」
そんないきなり騎士に誓うみたいにされても困る……。それに、僕はこの方に守ってもらわなくても大丈夫だ。力は借りるかもしれないけれど。
「あの、大丈夫です。
僕の周りにはもう、頼りになる人がいる。
だから、あなた方はここで、あなた方の使命を全うしてください」
僕の言葉に下げていた頭を上げる。その顔はどうも驚いているように見えた。だが、すぐにまた下げられる。
「仰せのままに」
うう、だから僕そういう偉い人じゃないんだって……。
「何をやっているのよ、ティーラ」
「ラナ様」
「話はついたわ。
新たに皇帝が、いえ、国王がその座に就いたときに私に正当な権利を返しに来る。
それまでは準備に大忙しですね」
「ええ。
お支え致しますよ」
「ありがとう」
お互いにすっきりとした顔をしている。よかった、話合いはうまく行ったみたいだ。あとは、シントがどれくらい進められているか、か。ちゃんと前に進めている。ふと、そんな実感がわいてくる。ああ、よかった。どうにか間に合いそうだ。