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だが、少しすると、シントはなんとか回復してくれた。
「つまり、ここでのアランの目的は僕と大差ないってこと?」
うん、つまりはそう言うことだ。理解してくれたようで何より。それに、たぶん凍土のことも、『調律』に関係してくる。だからこそ、その解決方法は同じなのだろう。というかシントは良くそこまでいきつけたな。
「それにしても、どうして王位を正当な血筋にっていうのでてこずっているの?」
「うーん……。
時がたっていて、対象者が多すぎるんだ。
ひとまず確信があるのは、今の皇帝は正しい血筋ではないってことだ。
後、ずっと領地を皇国のものとしてきた三国の主が余計に厄介なんだ。
僕が生きていた時は、元王族をその領主にすることで、なんとかわかっていたのだけれど」
え、ちょっと待って。シント、そんなことやっていたの? 今さら過ぎるものではあるけれど、正直ぞっとする。だって、相手からすれば国を奪われたのだ。奪った相手を憎まないはずはない。それなのに権力は与えるって……。向こうもさぞや困惑しただろうな。
とりあえず、血筋をさかのぼっての確認が大変らしい。そして、三国に関しては見つかった後に、説得をして王座についてもらうという仕事もあるのだ。もう皇国は敵ではない、それを伝えなくてはいけない。
これは相当長い道のりにならないか……? まさか、そこでてこずることになるとは思わなかった。でも、やるしかないのか。
「シント、僕もできることは何でも協力するよ」
「え、あ、うん、ありがとう」
なんでそこでそんな驚いた顔をするんだろう? でも、これがうまく行ったら、シントはツーラルク皇国でも、アルフェスラン王国でも大きな権力を持つということだよね……? いや、もしかしたらこの大陸全体に。なら、もう一つの件もシントに協力してもらった方がいいかもしれない。
「ねえ、シント。
君に頼みがあるんだ」
「……え?」
驚き目を見開く。そして次の瞬間には、とても嬉しそうに笑った。
「アランが僕に頼み事って、すごく珍しい。
僕で役に立てることなら、何でもするよ」
「え、まだ何かも言っていないのに?」
「うん。
アランには助けられてばっかりだから、何かアランの役に立てるなら断るなんてしないよ」
お、おお。その笑顔がまぶしい。まさかそんな笑顔で受けてもらえるとは思っていなかったから、かなり驚いた。
「それで何を頼みたいの?」
「さっき『調律』の話をしたでしょう?
そのためには、各国に僕みたいなオッドアイの人を派遣しないといけないみたい。
そして、オッドアイの人は恐らくツーラルク皇国かアルフェスラン王国にしかいない。
説得と、その安全の確保を手伝ってほしい」
「ああ、なるほど……。
でも、僕が手を出したら強制にならないかい?」
……あ、確かに。権力があるから手をまわしやすいって思ったけれど、あるからこそ逆らえなくなるのか……。
「ごめん」
「ううん。
直接は難しそうだけれど、裏で手を回すくらいならできるよ。
特に安全の確保とかはね」
「ありがとう」
うう、考え不足で申し訳ない。……、意識は切り替えて。とりあえず、王家の血筋をたどることから始めないといけないか。
「まずはシントの用を手伝うよ。
王家の家系図、みたいなのはないの?」
「あるには、ある。
けれど、アランにはほかの国のところ、カヌバレ領に行って調べてきてほしい。
領主には話を通しておくから」
カヌバレ領……。少し懐かしいかもしれない場所。『ラルヘ』が将軍として過ごしたところ。
「わかった、行ってくるよ」
話は通してくれているなら、きっとそこまで手間取らずに済むだろう。それにしても、シントから話は通しておくって、本当にどれほどシントの権力はこの皇国で通用しているんだよ。いや、突っ込まないけれど。
さすがにそのまま出発、とはならずに一泊していくことに。急に押しかけて、その上泊めてもらうことになって申し訳ないです。しかもかなりいい部屋を用意してもらったし。
カヌバレ領に一人で行くというわけにもいかず、数人の派遣団と一緒に行くことに。こんなすぐにどうやって用意したの!? と驚いたけれど、もともと各地への派遣団は結成する予定だったとのこと。僕をそこに同行させることにしたのが急だっただけみたい。
そして、顔合わせ。なんだあいつ、みたいな視線を……感じない? 驚くのはわかる。なにせ団員の一人といって連れてこられたのが、14歳の他国の人だったのだ。でも、排他的な空気ではない。
たしかに派遣団の話をされたときに、アランならば大丈夫と言われたけれど……。
「あ、あの、その瞳は本物ですか?」
「瞳……?」
「はい!」
「え、本物、ですけれど」
やっぱり! と盛り上がっているそこの方たち。全くついていけません。