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「あれ、本当にアランがいる……。

 どうして……?」


「シント!」


 はっ! 兄上と話して、すっかりそっちに意識がいってしまっていた。でもよかった、ちゃんとシントともあえて。そうだ、まず自分の用件の前に、シントに何があったのか聞かないと。確か、誘拐されていた、よね?


「あの、シント。

 僕は僕の目的があってここに来たんだけれど、その前に。

 シントに何があったか教えてくれない?

 そして、シントはなんで皇国に来ようと思ったのか知りたい」


「え、あ、うん……。

 そうだね、わかった、話すよ。

 僕としても、なんでアランがここにいるかはすごく気になるし。

 僕の話を聞いた後に話すっていうのなら、さっさとこちらの事情は話てしまおう」


 ……え、そんなにあっさり? だって、手紙ではあんなに濁していたよね? だからてっきり、それは言えない、みたいに言われるとばかり思っていたのに。ただ、兄上たちには聞かれたらまずいらしい。話をするのは部屋を移動してから、と言われてしまった。


「うーん、そうだな……。

 突っ込みは一切なしでお願いするよ」


 そう前置きをして、シントの話は始まった。


 そもそも、始めはやはりツェベルの手によって王城から連れ出されたらしい。夜中寝ているところを、急に縛って連れ出された、と。ツェベルは僕が何度も言っていたように、皇国側のものだったのだ。


 え、突っ込みたい。もうここで突っ込みたい。でもだめなんですね、はい。


「それでも、誘拐と言ってもツェベルはあくまで僕を丁寧に扱ったよ。

 だから、けがはない。

 そして、馬に乗って、どんどん王城から離れていく中、助けて、って言われたんだ。

 ツェベルはこれまでのいろんな情報から、僕はツーラルク皇国の中枢の情報を握っていると踏んだみたい。

 それに、この国が変わり始めた150年前のことも知っている、と。

 まあ、それっぽいことを言って、無理にアルフェスラン王国との友好を結ばせたから、正直ばれても仕方なかったんだけれど」


 ……つまり、僕が把握するより以前から、シントはかなり危ない橋を渡っていた、と。それでよく生きていられたな。思わずジト目になるのは許してほしい。


「それで、助けてってどういう意味?」


「凍土の問題だよ。

 あれのせいで年々作物の収量が減って、苦しんでいるらしい。

 そして、ツーラルク皇国は唯一王の間への招待が送られてこない。

 国を治めるのに必要な情報を持っていないんだよ」


「王の間……?」


 聞いたことはある気がする。でも、それなんだっけ?


「各国の正当な王だけが招かれるところだよ。

 そこではいろんな情報をえることができる」


 正当な王、それにツーラルク皇国の皇帝は入っていないということか? いろんな情報というところも気になるが、それは一旦置いておこう。


「この国は歪な形をしている。

 だから、本来なら何ともないような怪我が、この国では致命傷たりえる。

 このままでは何の手も施せないままに、この国はつぶれてしまう。

 それに気が付いたのは、本当に最後の方だったよ。

 今、正当な王の血筋というものが途絶えかけている。

 そして、今の王は正当な血筋ではないから、王の間には行けない」


「正当な、血筋ではない……?」


「そう。

 あんな『クロベルタ』でも、王の子だ。

 正当な血筋たりえたから、王の間には行けた。

 でも、そのあとは正当たりえない父の弟の血筋もまた、正当性を叫び始めたんだ。

 そこからはもう醜い争いの始まりだよ」


 正当な王の血筋って、なんなんだろう。王の弟も流れていたのは同じ血のはずだ。一体なにが、兄と弟で違ったのかわからない。でも、神には区別、されてしまったのだ。

今の王は正当ではないならば、きっと今は王の弟の血筋が王座についているということか。


「とにかくそういう歴史を繰り返す中で、それでも正しい血筋は僕の子孫に流れ続けた。

 だから、もしも凍土を、神が分け与えた土地をどうにかしたいというならば、まずは僕の子孫に王位がうつらなくてはいけない。

 それと……、王の間に行くとね、よくわかるんだ。

 人間の認識上、確かに皇国は三国を支配下に置いたかもしれない。

 でも、神の認識上では決して、そんなことはないんだ。

 あそこで僕が見ることができた情報は、ツーラルク王国のものだけ。

 他国の正当な継承者ではない人には、見ることができないんだ。

 だから、過去皇国が奪ってきた数々の国を、正当な継承者に返さなくてはいけない、とそう言った」


 国を、正当な継承者に返す……? それは、つまり国を元あった形に戻すということ、だよね? まさに僕が望んでいたように。

 

「まずは王位を正当な継承者に、そこから始めているんだけれど、これがまた大変で……」


「ねえ、シント!

 その先で、本当に皇国は国の主権を各国に返すの?」


「え、うん。

 そうしないと、もう打てる手はないって言っておいた」


「僕も! 

 僕がやりたいことの一つは、それなんだ。

 早く、この国を元のツーラルク王国に戻すんだ。

 その先で、ようやく『調律』ができるようになる」


「調律?」


 あ、そうだよね。シントにはちゃんと一から説明しないと。説明したら、きっとうまくやってくれるから。そう思って、調律のこと、僕がメリケリアース神に会ったこと、皇国のこと、そのすべてを話した。


 話終えると、シントは考え込んでしまった。まあ、詰め込みすぎた自覚はある。

 




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