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急すぎて事前の連絡もしていないのだろう。迎えの馬車なんてないし、正門らしきところに急にあらわれたモノローア殿下に衛兵がかなり驚いている。ああ、かわいそうなくらい動揺している。そして走りだした。
「申し訳ございません。
連絡を取っている時間ももったいなくて、きちんと伝える前にきてしまいました」
あはは、と苦笑いなモノローア殿下。いや、まあいいんだけれど。バレティエラ殿下も巻き込まれているけれど、それはいいんですか?
数分後、ようやく準備が整ったのか今度は別の兵が迎えに来た。あまりにも動揺していたのはわかるのだけれど、せめて城の中に入れてくれてもよかったのでは? と少しだけ思ってしまう。待ちゆく人の視線がちょっと厳しかったです。
「し、失礼いたしました。
どうぞこちらへ」
案内された応接室はかなり豪華。うう、謁見室とかに回されずに済んだだけよかったのかな。おいしそうなお菓子に、お茶まで出てきてしまった。そして、そのまま待っていると、明らかに高い身分の人、王様であろう人、が入ってきた。入ってきてしまった。でも、そうだよね……。
「ああ、ようやく見つかったのだな!
よくやった、モノローア!」
「いえ」
「そちらは……」
少し驚いたように見るのはバレティエラ殿下。すぐにバレティエラ殿下は立ち上がり、一礼して自己紹介をする。本当に、この方はずいぶんと頼もしくなったな。もしかして、こっちが本来の姿? そして、殿下の挨拶が終ると次はこちらに視線が向く。それには期待もこもっていて。正直恥ずかしい……。
「アルフェスラン王国のカーボ辺境伯次男、アラミレーテと申します」
「アラミレーテ殿、ですね。
……どうかよろしくお願いいたします」
「あ、あの、頭をあげてください!
僕にどうにかできると決まったわけではないんですよ!?」
「ですが、あなたにしか『何か』をすることもできないものまた事実。
もうこの国は限界なんです……」
限界……。この国のことはよくわからないけれど、でも一歩外に出ればわかる。この国の気候は異常だって。もっといろいろな問題が起きてしまっているのだろう。
「モノローア殿下、この国に聖樹はありますか?」
「聖樹、ですか?」
泳いだ視線が陛下をとらえる。聖樹を知らない? 僕がずっと何となく枯らしてはだめだ、と力を注いできたあの聖樹。最近過去のことを思い出そうと頑張ったおかげか、いかに重要かを思い出したのだ。あれは自然の長、と言えばいいのだろうか。各国の調節をはかっているものだったのだ。
アルフェスラン王国の聖樹はまだ枯れかけだったから、難を逃れた。だけれど、これだけ天候が乱れて、自然が乱れているのならば、きっとこの国の聖樹はひどい状態なのだろう。
「王城の裏に……、そう言われていたような木があります。
でも、もうしばらく手を入れていなくて」
「とにかくそこに案内していただけませんか?」
「はい」
どこか顔色が悪いことが気になる。そして、王城の裏にあるならばなぜモノローア殿下がその存在を知らない? いろいろと疑問はあるけれど、見てみるのが一番早い。
「……は?
これが、本当に聖樹なのですか?」
「はい……」
聖樹は想像以上にひどい状態だった。切り株しか残っていない上に、それも枯れている。一体いつからこんな状態だったの? ああ、悲鳴が聞こえてきそうだ。かわいそうに……。
「アラミレーテ殿?」
ごめんね、ずっと気づいてあげられなくて。僕たちが役目を放棄した先に、こんなことが待っているなんて思わなかったんだ。それに、僕らは強制的に終わらされてしまった。でも、ルベーナがいた。あの子が血をつないでくれた。だから、今の僕がいる。
そっと、切り株に手を付ける。少しでも、君が楽になれるように、そう願って。ああ、でもさすがに今はまずかった? ここに来るまでにもかなり魔力を持ってかれた。多少体力がついたとはいえ……。ぐらり、と体が傾くその瞬間。ぴたり、と魔力の流入が止まった。
「アラミレーテ殿!?」
最近なんか倒れてばっか?