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 屋敷をまさに飛び出そうとした時、僕を訪ねに来た人がいた。急いでいるのに、そんな気持ちになったが、さすがに無視するわけにはいかない。またモノローア殿下……?


「アラン、会えてよかった。

 シント殿下からの手紙は読んだ?」


「フレン兄上!?

 え、ええ、今読み終わりました」


「なんて書いてあった?

 ……ああ、いや、やっぱりここで聞かなくていいか。

 一緒に来て。

 陛下も話を聞きたいとおっしゃっている」


「ごめんなさい、待って……。

 状況についていけない」


「皆そうなんだ。

 王宮が大混乱している。

 だから、少しでも情報がほしくて」


 今までに見たことがないほどに混乱しているフレン兄上。ここからだけでも、相当王宮が混乱していることがうかがえる。ああ、皆がシントに振り回されているなぁ。かなり珍しい。


「わかりました、行きます」


 正直僕もあまりついていけていないけれど、今はとにかく行動するしかないよね。慌てて準備を整えていると、姉上が少し遠いところからこちらの様子を伺っていた。


「あの、姉上? 

 そんなところでどうされましたか?」


「あ、アラン、その、大丈夫?

 皆、大丈夫よね……?」


 初めて、聞いた。姉上のそんな不安そうな声。そうだよね、あまり中枢に関わらないと言ってもここにいる以上、いろんな情報が入ってくるだろう。それなのに自分から動くことはできない。だから、僕にできることはこれだけだけれど、それでも少しでも安心してもらいたい。


「大丈夫です、姉上。

 だから、ここで待っていてください」


 ちゃんと笑顔で伝える。実際、そんなにひどいことにはなっていないみたいだ。シントは自分の意思で皇国に行くと言っているし。僕のそんな顔を見たからかはわからないけれど、姉上もようやく微笑んでくれた。


「ええ、わかりました。

 ここで待っています。

 ……ありがとう、アラン」


 お礼を言われることは何もしていないのだけれど……。でも、姉上が微笑んでくれたならよかった。僕はそのまま、行こうというフレン兄上について王宮へと向かうことになった。



 王宮につくと本当にフレン兄上が言っていた通り、混乱しているのが分かった。いつもは皆優雅に歩いているのに、今日だけはバタバタと忙しそう。そういった人たちの合間をぬって、僕は必死にフレン兄上についていった。あれ? 向かうのは謁見室ではないの?


「あの、陛下に会いに行くのでは?」


「そうだよ。 

 ああ、直接執務室に向かっているんだ。

 陛下からも許可は頂けたからね」


 執務室……。行ったことがない。道理で全く道がわからない。そのあとは特に何かを話すこともないまま、ひたすらに執務室を目指した。


「失礼いたします、アラミレーテを連れてきました」


「ああ、入れ」


 その言葉にフレン兄上が扉を開けた。……なにこの顔ぶれ。豪華すぎるし、僕だけが場違い感半端ない。だって、三公爵そろい踏みで、その子息たちも揃っている。そんな一気にこっち見ないで……。


「アラン?

 どうしたの?」


 う、思わずフレン兄上の後ろに隠れてしまった。でもさ、仕方ないじゃん!? 国の重鎮たちに一気にこっち見られたら、誰でもこうなるって……。


「えっと、それでこの状況は一体?」


「それは私が聞きたいよ……。

 シフォベントより手紙があったのだろう?

 なんと書かれていた?」


「え?

 えっと、皇国に行ってくると書いてありました」


「ああ、やっぱりか……。

 理由は書いていたか?

 急に辺境伯より、シフォベントが皇国に行くと言ったと聞いて、何が何だか。

 理由も、自分にしかできないことをやりに行く、としか……」


「僕への手紙にもそのようなことしか書いていませんでした」


 まあ、確かに、クロベルタのことを知らない人たちからしてみれば、きっとわけがわからないよね。僕だからこそ理解できるんだ。


「一体どうしたら……。

 シフォベント殿下が勝手な行動に出ることは、今までありませんでした。

 本当に周りがよく見えて、思慮深い方ですから。

 その方が、このような行動に出た意味が分からない。

 自分にしかできないことって、なんですか……?」


 大混乱しているな。でも、そうだよね。止めに行くべきなのか、それともこのままシントの行動に任せるべきなのか。そこで迷っているようだ。止めるべき、と断言しないだけシントは今までの行動で信頼を勝ち取ってきたということだろう。


 さて、どうしよう。この理由を説明するのに一番いいのは、何もかもを説明してしまうことだ。でも、さすがに勝手に話すこともできない。うううん……。


「……シフォベントの、意思を尊重しようと思う」


「陛下!?」


「何か、深い理由があるのだろ。

 それも、あの子にしか理解できない何かが」


 シントにしか理解できない『何か』。それは確かだろう。正直、ちゃんとした理由は僕にもわからない。あの時から、僕とシントは立場が違いすぎたから。それに、少なくともここから出て行ったときは、無理に連れ出されたのだろう。だから、ちゃんと説明することができなかった。

 

 そうじゃないなら、シントのことだ。ちゃんと説明して、納得させてから向かったはずだもの。結果として、こんな方法にはなってしまったのかもしれないけれど、きっとシントは後悔していない。だから、陛下がシントの意思を尊重してくれてよかった。


「シフォベントはすでに皇国には発っているようだ。

 護衛として、ヘキューリア殿がついていってくれるという話を聞いた。

 後は報告待ちか……」


「兄上がついていったのですか!?」


「ああ。

 本当に息子が迷惑をかけて申し訳ない……」


「いえ」


 兄上がシントに。よかった、それならかなり安心できる。だったら、僕は僕のやるべきことをやるべき、だよね。僕も、僕にしかできないことを。


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