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帰ろうと思って四囲の館から出る。……、やっぱり体調、万全じゃなかったみたい。まずい、後は馬車に戻ればいいだけなのに、それすらきついかも? なんだか、さっきまでは確かに平気だったのにいきなりめまいやら、なんやらが。
立っていることすら難しくて、思わずしゃがみ込む。ああ、どうしてこんなにもこの体は弱いのか……。どうしよう、サイガ気が付いてくれないかな?
「……アラミレーテ殿?」
誰? 面倒に思いながらも、なんとか顔を上げる。そこにいたのはモノローア殿下。どうしてここにモノローア殿下が? って、今はそれどころじゃない。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、あんまり……」
「人を……!」
まって、と思わず袖をつかむ。たぶんもうサイガは迎えに来ている。確実に呼んでもらえるかわからないなら、少し支えてもらって自分で歩いた方がいい気がする。どう考えても他国の王子に頼んでいいことではないのだけれど! 本当に申し訳ないと思っております。
「あの、少し支えていただいてもいいですか?」
「あ、ああ」
モノローア殿下が差し伸べてくれた手を取る。なんとか立ち上がったとき、朝からつけていた眼帯が、はらりと落ちた。
まずい、そう思ったときにはもう遅くて。目があってしまった……。その瞬間に、モノローア殿下の目が見開かれた。
「……その瞳!
ど、どうして?
だって、今までは両方同じ色だったのに」
なんで、と言われましても。今はそんなことを考えている余裕、ない。
「あの、モノローア殿下?」
僕の声が届いていないのか、いまだにモノローア殿下は動かない。じっと、僕の目を見つめている。どうしたら、と困っていると、誰かがこちらに歩いてきた。
「えっと、これ、どういう状況?」
この声、フレン兄上? た、助かった。
「あの、サイガを呼んできてもらってもいいですか?」
フレン兄上にはその言葉だけで伝わったようだ。一瞬迷ったような顔をすると、なぜか僕を抱き上げた。……抱き上げた?
「え、あの、サイガを呼んできていただければいいのですが!」
「さすがに放っていけないよ。
あの、モノローア殿下失礼いたします」
「ま、待って……」
かすかにモノローア殿下の声が聞こえたけれど、正直待てない。フレン兄上もそう思ったようで、聞こえなかったふりをするようだ。すたすたと歩き始めた。大丈夫? とこちらを気づかわし気に見てきてくれるの、申し訳ない……。
結局、フレン兄上は馬車まで僕を運んでくれた。お世話になりました。そして、無理をしてはだめ、と釘を打たれてしまいました。はい、すみませんでした。どうしてもシントのことが気になってしまったんです。今も気になるけれど、一旦体調回復に努めないといろんな人に迷惑をかけてしまうということがよくわかりました。
そこから2日ほどは寝込んだ。やっぱり休むのも大事だよね。大丈夫と言って結局行き倒れた実績を作ったせいで、姉上もサイガたちも慎重になってしまった。だから言ったでしょう!? と涙目で言われてしまったからには、さすがに無理を通すことはできない。
こんな状態で探されても、きっとシントも困るものね。僕よりも機動力がある人たちが、今こうしているときも必死に探してくれている。だから、まずは僕はしっかりと休まないと。
そして、ようやく回復してきたころ、僕のところにとある人が訪ねにやってきた。モノローア殿下だ。う、正直会いたくない。だって、あれ、完全に見られてしまっていたよね。今更ごまかせる気もしないし……。
本当は拒否したい。でもなぜか陛下から会ってくれ、という伝言が来てしまった。さすがに陛下の言葉を無視することもできなくて、結局会うこととなってしまった。うう、憂鬱。
整えられた応接室でモノローア殿下を迎え入れる。どうやらバレティエラ殿下も一緒のようだ。本当に何の用? ちなみに体調が整ってきた影響で、またちゃんと瞳の色を変えられるようになりました。
「お会いして下さり、ありがとうございます」
……、なんでそんなに丁寧なんだろう? 逆に怖い。
「あの、モノローア殿下、本当なのですか?
だって、アラミレーテ殿の瞳はどちらも蒼です」
「私が、見間違えると思うか?
私が……!」
「い、いえ……」
話は見えない。でも、どうしてだろう。モノローア殿下はすごく必死に見える。本当はどうにでもごまかそうと思っていた。やっぱり、これがばれるのは怖いから。でも、今までとは全く違うその様子に、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。