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「アラミレーテ……」


「へ、陛下!? 

 申し訳ございません」


 まずい、シントの部屋に勝手に入ってしまったのを見られた。しかもそこにへたりこんでいたところも……。ぱっと立って頭を下げるも、よい、という返事が聞こえる。


「そなたも、シントの居場所はわからぬか……」


「申し訳ございません……」


「いいや。

 何か知っていることはないか?

 やはり、地位を厭っていた等」


「シントは、どう思っていたとしても逃げ出す人ではありません。 

 責任とか放って、自分からどこかに行くわけがない」


 それは確信を持って言えた。前世からの付き合いだ。そんなこと、よくわかっている。急に重荷を背負わされたって、信頼できる人が一人もいなくたって、シントは最後まで投げださなかった。

 そんなシントが何も言わずにいなくなるはずがない。確信をもってそういうと、陛下もうなずいた。


「いついないことが分かったのですか?」


「今朝だ。

 朝食を伝えに来たところ、いないことが判明した。

 その前からツェベルがいないことで騒がしかったんだが」


「逆に、いつまでは確実にいたのですか?」


「就寝まではいたことがわかっている。 

 だから、その間だ。 

 いないことがわかって、すぐに捜索隊を出したが、人数を増やしたほうがよさそうだ」


「……そうですね。

 父上にも話を通しておいた方がよろしいのでは?

 万が一皇国に行かれたら厄介ですから」


「ああ、打てる手は打っておこう。

 ……今日も学園だろう?

 朝からすまなかった」


 もう行きなさい、と言われる。……え、この状態で学園に行けと? それは本当に言っている?


「そんなの!」


「できるだけ、大ごとにはしたくない。

 頼む……」


 そんな風に頼まれたら、行くしかない。ずるいよ……。


 シントは体調を崩したといってくれ、と伝えられる。王太子がいなくなったなんて、軽々と口にしてよい言葉ではないことぐらいわかる。うなずくと、ひとまず学園へいく準備をしに屋敷に帰ることとなった。


 帰りにはちゃんと馬車が迎えに来て、思い切りサイガに叱られてしまった。さすがに涙目で怒られてしまうと反省……。


「本日は休まれますか?」


「いいや、学園に行く。

 陛下に頼まれてしまって」


「ああ、なるほど。

 ではすぐに支度をしましょう」


 本当は今すぐに探しに行きたいけれど、そういうわけにはいかないのが苦しい。どうか無事でいて、シント……。兄上たちに協力を要請できれば、最悪皇国に行かれることはない。今はそれで安心するしかないよね。


 そして、登校すると、すぐにシャーロット嬢がこちらにやってきた。その顔は青ざめている。ああ、そうだよね。当然、シャーロット嬢も知っているよね。


「あの、授業が終わったら四囲の館に来てください。

 皆来ます」


「わかりました」


 なんとかうなずいて、授業を受ける。こんなにも授業が長いと感じたのは初めてで、何もやっていてももどかしい一日を送ることになってしまった。どうしたんだろう、と心配げにこちらを見てくるバレティエラ殿下には申し訳ないけれど、事情は話せない。


 そして、授業が終わるとすぐに四囲の館へ。すぐに全員が集まった。全員、シントの行方が気がかりで仕方ないのだ。


「どこに行ったのか、全員心当たりは?」


 問いかけるトラヴィリス様の言葉に、全員が首を振る。自然と視線は僕の方に集まるけれど、僕も本当に知らないのだ。


「自分から出て行ったのか、誘拐か……」


「シントは、自分の責任を投げ出したりしない」


 ここにいる人たちは全員わかっているとは思うけれど、それでもまた口に出さずにはいられなかった。もしかしたら、それは僕自身への確認だったのかもしれないけれど……。


「執事も一緒に消えたんだろう?

 無事だといいが……。

 ああ!

 今すぐ探しに行きたい!

 主を守るのが俺の使命だというのに」


「落ち着いて。

 その気持ちは皆一緒だ」


「あの、シャーロット嬢? 

 大丈夫ですか?」


 僕たちが話している間、ずっと押し黙っている人が一人。シャーロット嬢だ。顔を青くさせていたら、心配にもなる。シントが見つかる前に、シャーロット嬢が倒れてしまったら大だ。


「わ、わたくし……。

 どうして側にいなかったのでしょう? 

 支えると、そう伝えたのに」


「シェリー……。

 それはここにいる全員が言えることだ。

 一人で思い詰めないでくれ」


 な、といって、トラヴィリス様が優しくシャーロット嬢の頭をなでる。そんな光景を見ながら、僕は一人キッチンへと向かった。こういう時は落ち着かないと、だよね。お茶とお茶請けを持って皆のところに戻ると、驚いた顔をされてしまった。ねえ、お茶くらい僕にだって入れられるよ?


 むっとしていたのが伝わったのだろう。すまない、とあまり申し訳なさが感じない謝り方されても困る。


 さて、落ち着いたところで。実はシントの居場所を探そうと思えば、探せないことはない、と思う。ただ、これはかけだし、きっと僕らの秘密がばれてしまう。それでもやるのか? というためらいが今朝の僕にはあったのだ。でも、人命が一番。それは当たり前だ。


 しかも、その命がシントなら。前世からの僕の親友ならば、当然大事。それにきっとここにいる人たちならば、誰にも言わないでいてくれるのではないか、そんな期待もあった。それを決心するまでに、こうして時間はかかってしまったけれど、どうか許して。




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