148
あれからどういう話合いが行われたのかは、部外者である僕にはわからないが、とにかく無事にシェリー嬢とシントの婚約が決まった。なんやかんや言っていたけれど、ひとまず嬉しそうだったら安心。これで多少は周りが静かになるかな?
そして、もう一つ嬉しいことが。あの公爵がとうとう皇国に帰ってくれるのだ! 本当に待ち望んでいた。気軽に外出するのもはばかられる状況、地味にストレスだったようだ。果たして何をしに来たのか……。気になるところではあるが、下手に首を突っ込むのは良くない。後々のためにぐっと我慢だ。
順調に授業も進んでいき、学校生活も順調。下地があったこと、そもそも学年の人数が少ないこと等が関係しているのか、学年の大抵の人とは仲良くなれたと思う。そして、バレティエラ殿下のつながりで、もう一人の留学生であるモノローア殿下とも交流を持つようになっていた。
「今まで何人か、宝石眼の方を見てきたけれど、アラン殿のは特にきれいだね」
「いや、そんなことは、ないかと……。
リンキュではいないのですか?」
「うん、いないね。
宝石眼どころか、魔力を持っている人もいない。
ビッケア大陸特有であり、そして……罪だ」
「罪……?」
「モノローア殿下!」
なぜかすぐにシントが声を上げる。そんなに怒ることだったのか? シントの非難に、モノローア殿下はシントをにらむ。その様子をバレティエラ殿下は、おろおろと見ているだけ。僕にも何が何だかわからないから、何もできない。そんな状況で、先に折れたのはモノローア殿下の方だった。
「すみません、言いすぎました」
「いえ……」
一応お互いに謝罪したものの、どこかギクシャクした空気のまま、その日のお昼は解散となってしまった。なかなかに気になることを話していたけれど、何となくそれをシントに聞くのはためらわれた。
「シント、早く行かないと授業遅れちゃう」
「うん、そうだね」
そんなことしか言えないなんて、情けない……。でも、授業が始まることには切り替えていたようで、ちゃんと受けていたのはさすがとしか言いようがない。
初めの方はそんな風な時もあったけれど、最近では割と楽しくやれている。特にバレティエラ殿下やモノローア殿下の自国の話は面白い。ララン王国もリンキュ王国も違う大陸だから、特性が違う。今まで他大陸なんて行ったこともないから、こうして話が聞けるのはありがたい。
「それにしても、どうして留学を?
海を渡らなければいけないから、命がけでしょう?」
ふと思って聞いた言葉に三人が固まる。……三人とも? そんなに変なことは聞いていないと思うんだけれど。
「う、うん、まあ。
でもどうしても来たかったんだ」
ぎこちない笑顔でそんなことを言われても、信頼できない……。完全にごまかされたけれど、さすがに追及はできない。やっぱり気になるけれど、置いておくことにしよう。
そんな日もありながら、放課後はたまにお茶会、たまに四囲の館、あとはシントの仕事を手伝う等々……。なかなかに忙しい日々を送っていた。
そんな日々の中で、本当にふいに、シントが消えた。ツェベルと一緒に。
「どういう、こと?」
「それが、まだ詳しいことは……。
シフォベント殿下のお姿が見えず、一番親しいアラン様に使者が来られたそうです」
「知らない……、僕、何も知らないよ。
どうして、いなくなったの?」
意味が、分からない。確かに悩んでいることもあったけれど、でも姿を消すほどではなかったはずだ。
「アラン様?」
「探しに行く」
「どちらに!?」
どこになんて、わかるはずがない。だって、僕が聞きたいくらいだ。ねえ、シント、どこに行ったの? それにどうしてツェベルと一緒に? 意味が分からないよ……。
とにかく何か行動しないと、その一心で向かった先は、王宮。そこしか思い浮かばない。突然現れた僕に王宮の人は驚くも、シントの部屋に入れてもらう。そこには誰もいなくて。
「本当に、いない……?」
実は嘘でした、ってひょっこりと出てくるとことを心のどこかで期待していたのだろう。部屋のどこを探してもいないシントに、僕はどうしたらいいのかわからなくなってしまった。
誤字報告、ありがとうございます!