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授業が始まるも、やっぱりほとんどが学習済み。先生の話は補足程度に聞くことになる。それはほかの人も同じようだ。あまり熱心に話を聞いている人はいない。正直もっと勉強が難しくなるとかと思っていたから、若干拍子抜けだ。まあ、助かったけれどね。
さて、そうなると放課後の交流は自然と活発になる。体力有り余っているものね。そして、そんな中僕たちはついに例の館に遊びに来ていた。というのも、やっぱり王子が二人もいれば、人が集まる! 僕が邪魔なんだな、ということがよくわかるよ。
休み時間の居心地の悪さに、僕たちは放課後はすぐに四囲の館に行こう、ということで話が付いたのだ。ちなみにバレティエラ殿下は遠慮したのか、今回は一緒に来ていない。
「すごいね……」
「うん、想像以上」
扉を開けると、そこには広々とした空間が広がっていた。入ってすぐの部屋には高級そうな応接セットが。その横にはキッチンも備え付けられている。後は扉がいくつか。
「ここに使用人を呼び入れることもできるみたいだ。
まあ、できるだけ相談の上がいいみたいだけれど」
「公爵家と王家で使っているんだものね」
そう、とうなずくシント。見回してみれば、私物のようなものもおかれている。いままで ここを使っていた人たちがあの二人だから、私物が誰のものなのかすぐにわかっちゃうの面白い。
「こっちはそれぞれが使える部屋みたい。
ここで僕が執務を行うこともあるみたいだし」
そう言って嫌な顔をするシント。学校に来てまで執務をしなくちゃいけないって……。僕でもそんな顔になる自信がある。ポン、と肩を叩いて慰めました。
そんな話をしていると不意に扉が開く音がした。ここは決められた人しか扉を開くことができないから、誰か関係者が来たのだ。誰だろう、とお互い顔を見合わせる。ここで考えていても仕方ない、と見に行くことにしました。
「あら、二人もいらしていたんですね」
「シャーロット嬢」
「もう!
ここでは前みたいにシェリーと呼んでくださいな。
わたくしだけ仲間外れになったみたいで悲しかったのですよ?」
「すみません」
「いいえ、必要なことだとわかっていますもの。
でも、ここではどうぞシェリーと」
「はい」
そんな風に寂しそうな顔をされたら、僕に断ることなんてできるわけがない。うなずくと、嬉しそうに笑った。
「どうしてシェリー嬢がここに?」
「皆様、熱心に話しかけてくださるのですけれど……。
最後には皆様、殿下と婚約するのか、って聞かれるのです。
もう何度それを聞いたことか」
「お疲れ様です……」
仕方ないのですけれどね、というけれど、本当にお疲れな様子だ。婚約者の話とか縁がないからな、僕。そもそもの原因であるシントはどうだろうか、とそちらを見ると、シントも何とも言えない顔をしている。
「シントはどう思っているの?
婚約者どうこうって」
「……ねえ、これ、ここだけの話にしてもらえる?
誰かに聞かれると、かなりまずい気がするから」
一体何の話をするつもりだろう、と思うがうなずく。シントが困るようなことをしようとは思わない。それはシェリー嬢も同じなようで、しっかりとうなずいた。それを見ると、シントはかなり言いづらそうに口を開いた。
「僕、正直結婚とかよくわからないんだ……。
女性を、その、そういう意味で好きになったこと、なくて。
しなくていいなら、したくない、かもしれない。
そんなこと言っていられないんだけれどね」
なんだ、そんなこと。素直にそう思った。それは僕もだ。なんなら、僕は結婚しなくてもいいのでは? とさえ思っている。でも、シェリー嬢は違ったようで。驚きに目を見開いていた。
「そう、なのですか?」
「うん。
王太子として、それがまずいことはわかっている。
でも、よくわからないんだ。
そういうの」
「なら」
シントの言葉にかぶせ気味に声を出したシェリー嬢。その顔はなぜか真っ赤に染まっていた。
「なら、わたくしにしませんか?」
「……え?」
「わたくしなら、殿下の想いを無下にはしません。
理解したうえで寄り添う覚悟です。
ですから……」
そこまで言うと、急にハッとした顔になるシェリー嬢。今のって、完全に……。
「し、失礼いたしました!」
「え、ちょ、シェリー嬢!?」
い、行ってしまった。残されたシントはというと、シェリー嬢が去っていった方向を呆然と眺めていた。