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授業も始まったが、始めの方はたいていもうやっている範囲。どうにも退屈な時間が流れていく。初回のマナーの授業で話していたことだが、やっぱりあのお茶会は試験を含んでいたらしい。と言っても、点数をつけるためのものではない。
上級貴族、下級貴族、そして少数の平民。それらが入り混じることを加味して、初回授業の前にそれぞれどのくらいマナーができているかを確認するためのものだったらしい。まあ、この学園に入学できている時点で、ある程度はできているはずだけれど。
そして、あの菓子がやはり一番の難関。あそこまで合格できた人は、ダンス以外のマナーの授業が免除される。まあ、やっても意味がないということだ。ダンスに関しては同い年の異性と踊れる機会なんて早々にないから、この機会は生かしておけと。なるほど。
この結果がなかなか面白くて、上級貴族はほとんどが免除。そして、下級貴族と平民は逆にほとんどが授業を受けるらしい。領地以外にどんな違いが? と思っていたけれど、意外と違うのかもしれない。
とにかく授業を何とかやり過ごし、今日は待ちに待った休日! ダブルク様のお屋敷に遊びに行く約束をしていたのだ。やっとダブルク様のお子さんに会える。そろそろ爵位引継ぎの準備があるため、忙しくなるらしいのだが、今はまだ大丈夫らしい。なので早々に遊びに行くことに。ちなみにシントも一緒だ。
ちゃんと手土産も持ってダブルク様のお屋敷へ! どうやらスキフェン侯爵家のタウンハウスに住んでいるらしい。カーボ家では僕が一番年下だから、赤ちゃんと遊べるなんてアランになってから初めてだ。我が家では兄上とリーサ義姉上に期待かな。
そんなことを考えているうちにお屋敷につきました。
「本日はお招きありがとうございます」
「よく来たね。
シフォベント殿下はもういらっしゃっているよ」
シント早いな。さてはシントも楽しみだったな。
サロンに案内される。そこは太陽の光がたっぷりと入る場所でとても明るく、開放的でいいな。っと、シントだ。
「シント来るの早すぎない?
僕だって早めに来ているのに」
「だって、楽しみで。
ごめんなさい、ダブルク殿」
「いいえ、大丈夫だよ。
それにしてもこの屋敷に二人がいるのは、だいぶおかしな感じだな。
……こうして王城以外で会うのは久しぶりだからかな、なんだか妙に子供らしく見える。
王城での君たちは、本当に大人びているからね」
「そう、ですか?」
「うん……。
シントは、王太子として、そしてアランは魔法師団の有望な新人として。
君たちにのしかかっている重責はどれほどのものなのだろうね」
久ぶりに、ダブルク様にそう呼ばれた。この方は本当に切り替えが上手な人だ。
「僕、まだ魔法師団、入っていないんですけどね?」
「まあ、そうだね。
でも、本当に君たちと一緒に視察に行っていたのが懐かしく感じるよ」
「確かにそうですね。
たった、三年前のことなんですけどね」
「そうだね。
結局私にとっても、あれが最後の視察になってしまったよ」
「侯爵位をもう継がれますものね」
「ええ。
さすがに爵位を頂いた後は、私も領地にいなければいけませんし」
そっか、ダブルク様ももう視察に行かないのか。それはなんだか寂しいかもしれない。最後はどたばたとしてしまったのも、今ではいい思い出、にはならないが。それでも、本当にあの視察に参加できてよかった。こうしてダブルク様と親しくなれたのも、あの視察のおかげだもの。
「っと、なんだか湿っぽい話をしてしまいましたね。
今妻を呼んでもらいます」
ダブルク様がサロンから出て、おそらくそこに待機していた人に声をかける。するとすぐに戻ってきた。
「自分に子供が生まれて、それで思ったのだけれどね……。
どうやら、私にとって君たち二人は自分の子供みたいに思っているみたいだ。
おこがましいけれど」
「「……え?」」
あ、揃った。じゃなくて! 子供ってどういうこと? 僕が考えていたのは、兄みたいだなー、くらいだったんだが!?
「あー、まあ、弟かもしれない。
とにかく、家族みたいに思っているということ。
君たちはしっかりしている、いや、しっかりしすぎている。
それがアンバランスで、目を離すのが怖いんだ。
そして、成長が嬉しい」
これって、もう家族みたいだろ、ダブルク様はそういう。正直、そういってもらえるの嬉しいかも。もちろん僕の本当の家族はとても優しくて、皆大好きだ。でも、それと同じくらい、ダブルク様のことも好きだから。
「僕も、そう思っています」
「僕もです」
僕と、シントの答えにダブルク様が嬉しそうに笑う。今日は赤ちゃんを見に来たのだけれど、その前にすっかり満足してしまった。
でも、そのあとに夫人が連れてきた赤ちゃんは本当にかわいい! まだ生まれて日が浅く、ずっと寝ているだけ。でもものすごくかわいいのだ。その子を見つめる夫人も、ダブルク様もとっても優しい目をしていて、きっとこの子は幸せだろうな、と思えた。
「ふふ、僕はこの子のお兄ちゃんかなぁ」
先ほどの会話の続き、みたいな感じでそう口にする。すると、シントはすぐに乗ってきて、じゃあ僕も兄だ、と口にする。ダブルク様は嬉しそうに笑うけれど、その話を知らない夫人は驚いてしまって。そういう反応もなんだかおかしく思えてしまった。
過ごしたのがあまりにも楽しい時間で、爵位の引継ぎのごたごたが終ったら、また会いに来るとすぐに約束してしまいました。
誤字報告、ありがとうございました!