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それにしても、これで全員集合。ざっと教室を見回してみるが、上級貴族、下級貴族、そして2人の平民で合わせて15人か。そのうちの上級貴族は約半分。まあ、もともと上級貴族は40家+王家しかいないし、そのうちの同い年だけとなったらこのくらいの人数にもなるだろう。というより、思ったよりも多かったくらいだ。
「これから上級生たちが歓迎会をしてくれるので、大講堂に移動します」
歓迎会! 楽しみにしていて、と姉上も言っていたし、楽しみだ。先生を先頭にぞろぞろと移動していく。隣の教室であるBクラスも同じように移動をしていた。うん、やっぱりほとんど見覚えがある。
そんなことを考えながら移動していく。見た目からして大きかったが、大講堂と言われるまでも結構な移動距離があった。そしてようやくたどりついた大講堂。AクラスもBクラスも揃っていることを確認すると、大講堂の扉が開けられた。
広大な大講堂に入る。僕たちが通る道の両脇に上級生たちが並んで拍手して迎えてくれている。すごい光景。ここにはもちろん、先日の夜会に参加していた方たちがいるが、制服を着ていると印象ががらりと変わる。服って本当に面白い。
そんなことを考えていると、一番奥にたどり着く。2列くらいで並んで、と言われて並ぶと、一拍置いて上級生たちが歌い始めた。
少し音がずれている人もいるけれど、講堂中に響く歌声。いろんな声がまじりあって、不思議なバランスで心地いい音になっている。これで不協和音にならないから、本当にすごい。丸まる一曲、その歌に聞きほれる。
そして、その曲が終わると、上級生の中から一人進み出る。あの人はトラヴィリス様だ。シャーロット嬢の兄で、確か学生代表。
「新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。
この学園では上級貴族だけでなく、下級貴族、そして平民の方々もいます。
様々な人の、それぞれの考え方を否定することなく、受け入れ、そして自分の力としていけることを願っています。
そしてこの学園には今回も他国からの留学生が来ています。
それぞれ第一学年、第三学年ですので、ぜひ交流を楽しんでください」
あれ、一人同じ学年? 教室にはいなかったからBクラスかな。いや、でも他国の王族をシントと同じクラスにするか?
という、僕の予想はどうやら的中してしまったらしい。なぜか教室に戻るときに僕らの後ろをついてきた。にぎやかな年になりそうだな……。
「さて、それじゃあ先ほど二人には名乗ってもらいましたが、他の方もしていきましょう。
ああ、席は特に決めていませんので、自由に座ってください」
自由って……。あの王子はどうするんだ?
「あの、シント。
シントはラランの王子と話したの?」
「顔合わせくらいはしたけれど、詳しくは。
僕もいろいろとあって忙しくて」
なるほど。あまり接点はなかったと。それならあの人はどうするか……。そんなことを考えていたら、結局一人で一番前に座ってしまった。それでいいの!?
そのあとは一人ずつ順番に名乗っていく。その最後が王子だった。そうだ、バラティエラ・ララン殿下。そんな名前だった。
「あの、まだこちらの国では仲いい方がいないので、その、よろしくお願いいたします」
見るからに気が弱そうな王子。それでも国から離れて、危険性のある船の旅でここまで来たのだ。勇気ある人なのだろう。
挨拶が終わると、先生が一度何かを取りに教室を出る。どうしよう、と迷う心はまだあるけれど、シントに話しかけてみない? と聞いてみた。さすがにこのまま一人にしておくのは良くないと思う。
「うん、そうだね」
そしてシントと二人、バラティエラ殿下に声をかけた。
「こんにちは、同じくクラスだったんですね」
「え、あ、こんにちは、シフォベント殿下。
そう、ですね」
「今まで少々忙しくて、あまり話すこともできませんでしたが、これからぜひよろしくお願いいたします」
「は、はい。
よろしくお願いいたします」
「僕も。
初めまして、アラミレーテ・カーボと申します。
よろしくお願いいたしますね」
「はい!
アラミレーテ殿」
よし、笑顔が見えてきた。他国からの留学生ということで、多少の警戒は必要かもしれない。でも、せっかくこうして同じクラスになったのだ。仲良くできると嬉しいな。
早速バレティエラ殿下に声をかけて、一緒に座ることにする。さすがにあのまま一人で、というわけにもいかないだろう。大量の書籍を持ってきた先生は、教室に入るとそんな様子に気が付いたようで、ほっとしていた。
「それじゃあ、これから第一学年で使っていく教科書を配ります。
他に必要になったら、その都度配りますので、今はこれだけ」
一人一人に手渡しで配っていったのは2冊。歴史系のものに、語学系のもの。一冊に一教科というわけではないらしい。歴史系の教科書をぱらぱらとめくるとアルフェスラン史、ビッケア大陸史、三大陸史、それぞれのことが載ってあった。これからこれで勉強していくんだ。
結局その日は、教科書を配るまでで終わってしまった。初めての学園につかれているだろう、とのこと。確かに、いつもとはまた違った緊張感があって気疲れしてしまったかもしれない。今日は屋敷に帰ったら早々に休もう……。