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例の公爵はこの後しばらくこの国に留まるということで、いろいろと観光名所を巡るらしい。国の要所にはいかない、と。そういえば、聞いた話だと、実はあの公爵を迎え入れるために国境、つまりカーボ辺境伯領まで国の迎えをやっていたらしい。そういえば、兄上の結婚式が迫っているのに、父上が何か忙しくしていたような? そのあたりの憂いがないように、僕たちに皇国からの使者が会わないで済むように、と頑張っていたようだ。
厚かましくも、辺境伯騎士団の視察をしたいとも言っていたらしいが、それはもちろん断った。誰がこちらの手の内を見せるものか。しかも、それをひょうひょうとした態度で行ってきたらしい。本当に厄介な奴。
ちなみにこの辺りの情報源はシントです。
そんなごたごたで大人たちが忙しい中、今日は僕らの学園初日。真新しい制服に身を包み、姉上と馬車に乗り込む。一番上の学年から、一番下の学年まで、同じところで学ぶため、建物も一つ。ということで、一緒に行けるのだ。
「ふふ、アランが制服を着ているなんて本当に不思議」
「そうですね。
自分でもなかなか違和感あります」
「わたくし、真ん中で本当によかったですわ。
兄上とも、そしてアランともこうして一緒に学園に行けるのですもの」
楽しそうにほほ笑む姉上に、僕も自然と嬉しくなる。正直学園なんて行ったことがないから、多少は緊張しているのだ。でも、きっとどうにかなるはず!
そうこうしているうちに馬車は学園へと到着した。
門を通り過ぎて、馬車から降りる。クラスについては事前に連絡をもらっていて、今日はそのまま教室に向かえばいいらしい。ちなみに僕はAクラス。他にどんな人がいるのかはわからない。
基本はあの視察であったことがある人だろうから、初めて会うのは特別入試で入ってきた一般の人くらいかな?
クラスが間違っていないことを何度も確認して、緊張のまま教室の扉を開ける。そこにはもう何人かが来ていた。あっ!
「シント、殿下!」
「アラン!
よかった、同じクラスだったんだね」
「はい。
よかった、シント殿下がいるなら安心だ」
「それはこっちのセリフだけれど……。
それにしても、ここにいる間はアランに殿下って呼ばれないといけないのか」
「それは我慢してよ。
怒られるの僕だし」
わかってる、というシント。まあ、僕としても今まで通り呼びたかったけどさ。ここはもう公の場なんだ。仕方ない。
シントと会話をしている間にも、続々と人が入ってくる。やっぱり見たことがある人ばかりだ。まあ、すべての領地を巡って、なおかつまだ各領学校にも入る前だからほとんど家にいる。交流する機会があるのは当然のことだよね。
「あ、シェリー」
「本当だ。
まさかここで固めてくるとは」
「まあ、気楽ではあるけれどさ」
シャーロット嬢もこちらに気が付いたようで、ほほえみながらこちらに手を振っている。デザインを変えることが許されていないこの学園では、みんなが同一デザインの制服を着ている。にもかかわらず、シャーロット嬢は明らかにほかのご令嬢とは違っていた。なんというか、オーラが違うのだ。
もしかしたらシントも違うのかもしれないが、一緒にいすぎて正直よくわからない。そしてシャーロット嬢も合流して三人で話していると、いつの間にか時間が経っていたようだ。鐘の音がなる。それから少しして先生と思わしき男性が入ってくる。思っていたよりも若い先生だ。
「えーっと、ほとんど揃ってますね。
はい、私がこのクラスの担任になります、リーケトルエン・ミズフェと申します。
よろしくお願いいたします」
担任……。こんな若いのに、なんだかめんどくさそうなこのクラスの担任。困らせないように頑張ろう。
「それでは、君たちのクラスメイトになる子たちを紹介しますね」
あれ? 僕らはここに直接集合だったんだけれど、先生から直接紹介? そんな疑問は入ってきた人たちの自己紹介で解消された。
入ってきたのは男子が二名。二人とも僕たちと同じ真新しい制服を着ている。
「は、初めまして!
オシンと言います。
これからよろしくお願いします!」
「あ、え、え、っと。
キラって、言います。
よろしく、お願いします……」
おお、全然違う性格なのはよくわかった。それにしても、なるほど。家名を言わなかったということは、この人たちが今回の特別入試による入学生なのだろう。
「よろしくね、オシン、キラ」
王太子たるシントによる歓迎の言葉に、周りも同様に歓迎の言葉を口にする。これで何とかこのクラスになじんでくれればいいのだが。