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夜会って、こんな感じなんだ……。姉上たちのドレスを見ても思ったことだが、昼のお茶会と比べてドレスが派手だったり、メイクがくっきりとしていたりと、かなり様子が違う。う、浮いていないといいな。扉の前では家ずつに名前を呼ばれて中に入っていくところだった。中にいる人たちに次に誰が入ってくるのか知らせているのだ。
ちなみにこの夜会、通達されている開始時間はみんな同じだが、家柄によって時間を前後させてくるらしい。僕らは記載の時間よりも少し遅れてきている。王家は基本最後に入ってくるみたい。今は伯爵家の名を呼んでいるしちょうどいい、かな? そして、とうとうカーボ家の名前が呼ばれる順番が来た。
そんなに緊張しないで、という兄上に背中を押されて会場に入る。う、一気にこちらに視線が集まってきた。こわっ! リーサ義姉上もこれには顔を青くさせているのでは、とそちらを見ると意外にも普通だ。つまり慣れている? 僕もこれからこの視線になれることになるのか……。やっぱり夜会嫌いかも。
「やあ、久しいですなヘキューリア殿!
ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます、セミゼ伯爵。
お元気そうで何よりです」
「ああ、元気だよ。
おや、そちらの方はアラミレーテ殿では?」
「はい、ご無沙汰しております。
今年からソーヤリア嬢とは今年から学園で一緒ですね。
よろしくお願いいたします」
「お久しぶりです、アラミレーテ様。
こちらこそよろしくお願いいたします」
う、セミゼ伯爵を皮切りにどんどん挨拶が……。伯爵以上は一度会っている人が多いとはいえ、少し名前があやふやな人もいる。覚えなくては、と思いながらの挨拶は結構疲れる。本番が始める前に疲れ切りそうだよ……。
「国王陛下、王妃陛下、並びに王太子シフォベント殿下の入場!」
やっと王族の入場だ……。さて、シントはどんな格好かな。お、髪もいつもと違ってあげている。ああいうのも似合うな。僕もやってみたいけれど、なぜかみんなに止められて今はかるく結べるくらい伸びている。今日も一つ結びしているのだ。って、なんか顔色が悪い? おっと、そんなことを考えていたら陛下の挨拶が始まった。
「今年もまた、冷たく厳しい金月を無事に過ごすことができた。
それはひとえにここにいる皆、そしてそれを支える国民のおかげだ。
そして今日、また新たなものたちが準成人としてこの夜会に参加している。
暖かく迎えてやってくれ。
今回のファーストダンスは、新たに準成人となったシフォベント、そしてシベフェルラ公爵家のシャーロット嬢に任せる。
それでは皆がこの夜会を楽しむことを望む」
おおお、盛大な拍手が……。一礼したシフォベントがシャーロット嬢を迎えに行く。あ、今日見かけていなかったけど、とても素敵なドレスだ。シントが差し出した手をシャーロット嬢が受け取り、優雅な足取りで中心へ行く。
二人のダンスを見ていると、夜会のドレスが派手な理由が少しわかった気がする。軽やかなステップに合わせてドレスの裾が揺れる。くるくると回るのに合わせて、シントとシャーロット嬢の色が混ざっていく。ああ、きれいだ。
音楽が鳴りやむ。その瞬間に会場中に割れんばかりの拍手が響き渡った。僕もできる限りの力で拍手を送る。文句なしに素晴らしかった。
はー、っと気が抜けている間にほかのデビュタントの令嬢が中心に移動していた。もちろん男性も踊らないといけない。ということで僕はリーサ義姉上の手を取って中央へと移動した。
「よろしくお願いいたします、リーサ義姉上」
「ええ、楽しみだわ」
始まった音楽に合わせて一礼。そして習った通りのステップをふむ。すごい、リーサ義姉上がとても安定しているから踊りやすい。ありがたい……。失敗しないように、そう思いながらステップを踏んでいく。
「アラン、笑顔ですよ」
「ご、ごめんなさい」
笑顔、笑顔。大切って言われていたのに、ついついダンスの方に集中してしまった。な、なんとか失敗せずに終わった……。
あああ、リーサ義姉上が楽しかったと言ってくれた。気を使ってくれているんだと思うけれど、嬉しい……。とにかく足を踏むといった失態をさらさずに済んでよかった。
「不安そうな顔をしていましたが、とても踊りやすくリードしていただけましたよ。
もっと自信をもって」
「はい、ありがとうございます」
家で練習しているだけだと、なかなか本番の感覚がわからなくてずっと不安だった。でも、今こうして最後まで踊り切れて、ようやく自信が持てた気がする。まあ、積極的に踊ろうとは思わないけれど。
「僕に付き合ってきただきありがとうございます。
次は兄上と踊るのでしょう?」
「は、はい」
ちゃんとリーサ義姉上を兄上のもとにお送りして、と。次からはこの場にいる全員が参加するダンスが始まる。僕はいったん休憩して、と。
「さて、ここで皆に紹介したい客人がいる。
少し時間をもらおう」
あれ? ここでまた陛下が話されるのか。って、すっかり忘れていた! そういえば皇国から客が来ると言っていたな。
「紹介しよう、昨年に引き続きこちらに留学するリンキュ王国のモノローア・リンキュ殿下、ララン王国から留学に来られたバレティエラ・ララン殿下、そして皇国から来られたフブリジア・シャール公爵だ」
え、あの顔って、いつか見た画の……。どうしてここに? 混乱する頭でシャール公爵、と紹介された男をみる。それなりに離れている。そして、同じような背丈の人間が多くいる中で、向こうからこちらを見つける目印もないはずだ。なのに、なぜかその男と目があった気がした。