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王都についた翌日、早速王城に向かう。王都についたことの挨拶に行くためだ。ちなみに母上の実家には先に挨拶を済ませておいた。こういった挨拶にリーサ義姉上も一緒に行くのが何だか新鮮で面白い。ただ、いちいち成長したな、と言われるのは少し居心地が悪い。馬車を降りる姉上をエスコートすると、初めの時は私がエスコートしたな、とか兄上に言われるし。まあ、それは置いておこう。
「カーボ辺境伯家の方々です」
音を立てて扉が開いていく。こうして謁見をするのは何回かやっているが、未だにこのタイミングはなぜか緊張する。まあ、失敗したことはないのだけれど。だから今回も大丈夫だ!
「ああ、よく来たな」
ああ、なんだかやつれたな。初めてお会いしたときはもっと、なんというか若々しかった。もちろん今も威光はあるし、渋みが増した? ともいうのだが、でも明らかに疲れている。
「はい、お久しぶりです、陛下」
「無事にリボーブロッサ嬢と婚儀を済ませたのだな。
何よりだ。
二人の未来が喜びに満ちていることを願うよ」
「もったいなきお言葉です」
それでも、兄上を見る目は確かに慈愛に満ちていて。だから僕は陛下のことが信頼できるのだ。そして、次に姉上に向けられた目は、どこか苦しそうに細められる。
「マリアンナ嬢は今年学園を卒業だったな。
どうか、悔いのないように過ごしてもらいたい」
「ありがとうございます、陛下。
もちろん、満喫するつもりですわ。
今年はアランもともに通えますから」
「ああ、そうであったな。
アラミレーテ殿、学園生活を楽しんでくれ。
いつもシフォベントのことで迷惑をかけて申し訳ないが」
「そんなことはありません。
逆に僕の方がいつもしん、シフォベント殿下にお世話になっております。
学園生活、楽しみたいと思います」
「後程シフォベントに会ってやってくれ。
もうすぐ夜会もあるしな」
「はい」
さて、シントは元気かな。まあ、元気だろうけれど。陛下に退出の挨拶を済ませると、僕らはそろってその場を後にする。そして僕だけが王城に残ってシフォベントに会いに行くことにした。
シントの部屋は相変わらずシンプル。質のいい品が置かれているが、決して無駄なものはなく、派手でもない。だからここは落ち着くんだ。そしてここで入れてもらうお茶もおいしい。
「本当にぎりぎりに帰ってきたね」
「まあ、兄上の結婚式があったからね」
本当にきれいだった。兄上も、リーサ義姉上も。まあ、最後のあれには驚いたけれど。
「無事に済んだようでよかったよ。
そういえばダブルク殿のところに子供が生まれたって聞いた?」
「あ、生まれたんだ!
夫人が妊娠されていたことは聞いていたけれど、生まれたのは今知った。
今度何か手土産を持っていきたいね」
「うん。
ダブルク殿もぜひ、と言ってくれたし」
あの視察の後、しばらくダブルク様を見かけることはなかった。なんだか大人の事情、らしい。だけど、しばらくして宮内でばったりと会ったのだ。気まずそうにその場を後にしようとしたダブルク様を捕まえて、なんとか以前のように話せる中にもどった。
そこからは仲良くしてもらっている。兄のように慕えるダブルク様は僕にとっても、そしてシントにとっても大切な存在なのだ。
「あ、じゃあ今度、ダブルク殿がスキフェン侯爵位を継ぐっていうのも知らない?」
「え、もう!?」
兄上だって、まだいつ爵位を継ぐかなんて決まっていない。一般的に爵位を継ぐタイミングは亡くなったとき、又は本人が引退を表明した時だ。実の子でもこのタイミングというものは難しいのに、入り婿のダブルク様がもう?
「スキフェン侯爵はもともと年齢が高い方だからね。
生まれた子が男児という跡継ぎだったこともあり、決心したみたいだ」
はー、そんなことに。僕が王都を離れていたのなんてそんなに長い期間ではないのに、王都ではいろいろな変化があったらしい。それにしても、ダブルク様が侯爵。そっか……。
「そうだ、それとアランは夜会に誰と出るの?
もう間近に迫っているのに、まったくそういう話を聞かないから。
マリアンナ嬢をエスコートするとか?」
「いや、僕は一人で出る予定だよ。
姉上は、その遠慮すると言っているし。
シント、はまあ一人だよね」
「その言い方は気になるが……。
まあ、あっている。
それにしても、そうか、マリアンナ嬢は出ないんだね。
本当に迷惑ばかりかけて申し訳ない」
「姉上が選んだことでもあるから……。
でも、夜会自体は兄上たちが一緒に行ってくれる」
「さすがにヘキューリア殿でも今回は逃げられないよな」
シントの言葉にうなずく。僕らが夜会に出席するということで、これまた母上の腕がなっていた。デザインを書き起こし、二人の結婚式の衣装、そして僕の夜会用の衣装は自ら製作にも携わっていた、と。でも、その結果体調を崩し、珍しく父上からお小言をもらっていたけれど。やっと、やっと僕も長ズボンを履ける日が来たんだ!
「あ、そうだ、父上にもアランに忠告を、と言われていたんだ」
忠告? 先ほど謁見であったときは特に何も言っていなかったが……。一体何を言われるのかと身構えながらも続きの言葉を待つ。シントはどこか言いづらそうにしながらも、口を開いた。
「今回の夜会、どうやら皇国から人が来るらしい。
あと、他大陸からの留学生、がいるのは知っているよね?」
皇国からの人。あー、あれかな。友国の証、みたいなやつ。実はあの一件の後、陛下はシントの助言を踏まえて、何かを皇国に言ったらしい。それが何かは詳しくは知らないが。それから、まあいろいろとあって皇国が友国になろう、とか言ってきやがった。
結果、今は比較的に国同士の衝突は安定している。兄上たちがこのあたりの憂いがなく式を挙げられることになったので、感謝はしているが。
それにしても皇国の人間が、夜会に出ると言ったのは初めて聞いたかもしれない。一体何を企んでいるのか……。
「わかった、ありがとう」
「うん、お互い気を付けようね」
これから準貴族になるという晴れ晴れしい場のはずなのに、一体どうしてこんな思いで臨まなくてはいけないのか。本当に一度文句を言いたい。