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シントが王太子位を継ぐことが決まってから早3年。僕は14歳になっていた。そう、今年は学園入学の歳。本来領内で過ごしている14歳までの歳を僕は結局、王都でばかり過ごしていた。その一番の目的はシントを支えること。母上や、学園を卒業して領に戻った兄上には寂しがられたけれど、まあ仕方ない。
そして、王都にいるなら、と姉上のことも頼まれた。姉上はとても強い人だ。エキソバート殿下の話を聞いても、なお婚約を破棄しなかったのだから。でも、心無いことをいう人間ももちろんいる。そういう輩から守る、まではいかなくても隣にいてほしいと言われたのだ。
僕はまだ夜会には出ることができないが、それ以外、茶会などではもちろんそれを守りました。
そして何より! 今日は兄上の結婚式なのだ。婚約者のリボーブロッサ嬢が前年に学園を卒業したことを受けての結婚。ちなみにリボーブロッサ嬢は学園卒業後、一度実家に戻りそこからずっとここにいる。それもあってかなり姉上とは仲良くなったみたい。
リボーブロッサ嬢はとても穏やかで優しい人で、僕も一緒にいてほんわかできる、とてもいい人だ。
今はもう母上がデザインした服に着替え、待機中。夜会に出るようになってからは、さすがに半ズボンを履かせるわけにはいかない、と言っていたから、ようやく長ズボンを! と思っていたら、まさかの半ズボン。これが最後だから、とのことだ。まあ、うん、いいけどさ。ちなみに結婚式は初めて参加するから、少し緊張。
結婚式は基本的には家族、そして場合によっては共通の友人を招くこともあるとか。今回は僕たち兄上の家族、そしてリボーブロッサ嬢の家族がこちらまでいらしている。
「お兄様もとうとう結婚するのね」
「はい!
一度見させていただきましたが、リボーブロッサ嬢のドレス、とても美しかったです」
「ええ、本当に。
お母様がとてもこだわっていらしたし、お義姉様専用のドレスよね」
ふふっと笑う姉上。姉上もおそらく一年後には結婚するのかな。この状態で、どうするんだろう。でも、少なくとも、今は。今はとても幸せそうに笑っている。それが一番大事なことだろう。
「それにしても、アランももう学園に入ってくるのね。
わたくしも最高学年になってしまいますし」
「一年だけでも、姉上とともに学園に通えてうれしいです」
「まあ、嬉しいことを言ってくれるわね」
姉上との会話も癒されるな。やっぱりなんの疑いとかもなく話せる相手だと、会話を単純に楽しめる。それに、当事者ではないと、こうしてぎりぎりの時間までのんびりできるからいいよね。
「アラン様、マリー様、準備が整ったようです。
そろそろ移動していただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、今行く。
では、行きましょうか、姉上」
夜会に備え、徹底的に仕込まれたものがある。そのうちの一つが女性のエスコートだ。後はダンスとかも。早速それを生かして、姉上に手を差し出す。すると、あら、と嬉しそうに笑って手を取ってくれる。さて、会場はどんな感じになっているかな。
し、白い……。真っ先にでた感想がそれってどうなんだろう、とは思ったけど、本当に白い。床に敷いた布も白、テーブルクロスも白、飾られている花も白、真っ白!その中で色を持っているのは参加者の服、そして僕たちが一綸ずつ持っている赤い花だけだ。白すぎて目が痛くなってくるくらいだ。
「真っ白!
本当にすごいわね」
「はい……。
ここまで白くするのに何の意味が?」
「まあ、そこは慣習みたいなものね。
白は神聖な色だから」
まあ、こういう儀式ってそういうものだよな。ほー、と思っているところで音楽が鳴り始める。ちなみにこれ、生演奏。すごいよな。そして、参加者たちに祝福されながら兄上たちが会場に入ってきた。ああ、よかった。二人とも幸せそうに笑っている。迎える僕らも自然と笑顔になる。
「行きましょう、アラン」
姉上の言葉にうなずくと二人に近づく。そして僕らが持っていた花を胸元にさす。うん、きれいに咲いていて、兄上たちによく似合っている。この花は姉上と王都で大切に育ててきたものだ。兄上とリボーブロッサ嬢、リーサ義姉上の幸せを願って。育ててきたものの中で、一番きれいに咲いた二輪を摘んで、そして魔法で保護して持ってきたのだ。
「ありがとう、マリーと二人で育ててくれたんだろう?」
「うん。
よく似合っているよ!」
「マリー、ありがとう」
「いいえ!
お義姉様、お兄様と幸せになってくださいね」
さて、邪魔者は早く離れないと。そして僕たちが離れると、二人は拍手のなか中央へと進む。おめでとう、という祝福の言葉の中、みんなに挨拶をして回る二人。結婚式ってこんなに暖かな空気の中でやるものなんだね。
「あ、アラン。
この後は逃げておいたいいかもしれないわ」
「え……?」
え、え? さっきまで穏やかに祝福していた人たちが急に何かを持って!? あ、あれ野菜、か?
「え、これはどういうことですか?」
「あー、知らなかったのね。
皆でだめになってしまった食べ物を投げているのよ。
一生食べるものに困らない家族になるように、みたいな意味があったかしら?」
あーあーあー、どんどん会場が汚れていく。せっかく真っ白だったのにもったいない。でも、まあ楽しそうではある。
「姉上、僕も参加していいでしょうか?」
「大丈夫なの?」
もちろん、とうなずくと、姉上も一緒に参加してくれることに。用意されたものはちゃんと柔らかいものばかりなので当たっても安心。ということで、僕らも遠慮なく投げることにしました。
「あ、あはは!
兄上、とてもかっこよかったのに台無しだ!」
「そういう言い方はないだろう!?
アランだってひどい格好だぞ」
はー、おかしい。最近は難しい顔をしていることが多い兄上だったけれど、今日だけはずっと幸せそうな、嬉しそうな顔をしている。本当にいい人とめぐり逢えたんだね。