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あの一件の後、結局皇国とのつながりを示せる明確な証拠は見つからなかったらしい。国境付近で従伯父上が密入国者とみられる不審者をとらえたが、不審な死を遂げたのだ。それは僕たちをとらえた者たちも同じ。結局明確なものは何も見つけられなかった。
ちなみにこれ、盗み聞いた話。大人たちは僕らにそういう話一切してくれないから。
もう一つ、何気なく聞いたことがある。あの、鳥を飛ばしていた密告者が一体何年騎士として勤めていたのか、ということだ。どうしてそんなこと、という顔で4年だったと教えてくれた。これが偶然の一致なのか、それともその男性がほんとにその人だったのか、実際のところはわからないが。
そして今はそんなことを考えている場合ではない。今目の前には見るからに落ち込むシントが。エキソバート殿下のことをさきほど聞かされたのだ。
「シント……?
ひとまずお茶飲まない?」
「アラン……。
うん、そうだね」
「大丈夫?」
ゆっくりとお茶を飲むシント。久しぶりの私室だが、状況としてくつろげるものではないらしい。ソファに座ってじっとしている。
「どうして、こうなっちゃうんだろうなぁ。
次男として、兄上を支えていきたいと思っていたのに。
王位なんていらないのに……」
「シント……」
「また、変わっていってしまうのかな。
周りの僕を見る目も、関わり方も」
『また』その言葉の意味は良くわかる。すぐそばで見ていたわけではないが、がらりと周りが変わったのは知っている。今まで皇子としてすら認められず、放置されていたのに急に祭り上げられたのだ。そして、あの時は自分も変わった、そんな一人だった。でも、今回は。
「シント、僕がいるよ。
僕は変わらないよ、シントの友として側にいる。
だから……」
「ありがとう、アラン」
静かに涙を流すシントの背中を優しくなでる。今の僕はそれしかできないけれど、それでもやれることがあるだけいいのだろう。きっと変わっていく、いろんなことが。その中で僕は何をしたらいいのだろう。シントのために、自分のために、そして家族のために。
「アランが、側にいてくれてよかった」
「そう?
何もできないけれど」
「そんなことないでしょう。
あ、そうだ、すっかり返すの忘れていた……」
そういって取り出したのはあの時、シントに渡したナイフ。キャベルト隊長からもらったものだ。
「これ、役に立った?」
魔法を使っていたし、これを使う機会なかっただろうな、と思いつつ聞いてみる。まあ、剣とかって持っているだけで、結構安心できるものだしね。
「うん。
あ、それでね、そのナイフなんだけどまだ手入れできていなくて……。
アランさえよければ、手入れしてから返してもいいかな?」
「え?
手入れ?」
「え、うん。
さすがに汚れついたまま返すのも……」
あ、役に立ったって、本当に使ったの? まあ、お役に立てたのなら何よりだけれど。使う場面あったのね。
「いや、いいよ。
こっちで手入れしておく」
最近あまり手入れできていなかったからちょうどいいだろう。シントはそう? と申し訳なさそうな顔をしながらナイフを返してくれた。うん、やっぱりこれ持っている方がしっくりくる。
「アランと話していたら、元気が出た。
まだ呑み込めないこともいいけれど、でも頑張るよ」
「うん、頑張れ、シント」
「だから、まただめになったら頼らせてよ」
「もちろん!」
うん、今度はきっと最後まで側にいて支えよう。
こうなって思うけれど、シントは本当に王になる運命のもとに生まれている気がする。前回も今回も、本来は王位を継ぐ王太子の地位にいなかったのに結局こうなってしまうなんてね。