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129 アルフェスラン王の視点



「黒い鳥?」


 今しがた上がってきた報告に、思わず聞き返してしまう。何でやり取りをしているのかと思えば、鳥。よく気が付いたものだ。後は誰とやり取りをしていたか、だ。だが、誰に送っていたかもわからぬ、というのはどういうことだろうか。そんなことがあり得るのか?


「陛下、ご報告が」


 この後の行動を考えていると硬い表情で言葉を切り出したのは宰相であるアークレッフェ公爵だった。目で問いかけるとおもむろに切り出した。


「黒い鳥、ですが。

 それを昨晩、エキソバート殿下がお受け取りになられていたところを見たものが」


 エキソバートが、黒い鳥を? それは偶然の一致か? いや、この国ではそもそも鳥を飼いならすという発想がない。つまり、これは恐らく……。


「エキソバート殿下の私室を調べても?」


「ああ、許可しよう」


 許可しよう、そう口にしつつ口の中に苦い味が広がっていく。何も出なければよい。だが、もし何かが出てきたら。庇うことはできない。マリアンナ嬢に無理に婚約を結んでもらったばかりだというのに。……、いや、起こってもいないことを心配しすぎるのもよくないだろう。


 何事も起きぬように、そう願いながらも今日の公務がなくなるわけではない。部下に監視されつつも、こなしていく。どうして毎日こうもやることがあるのか……、まあそんなことをいっていても仕方がないのだが。


 そして夕方。エキソバートが学院から帰ってきたくらいの時間にその報告は持ってこられた。


「その、エキソバート殿下の私室よりこのようなものが……」


 捜索に当たったものから差し出されたのは紙の束。わざわざこちらに持ってきたのだ、おそらくその内容は……。


「これは、視察団の位置等の内情、ですね」


 横に控えていたシベフェルラ公爵が言う。ああ、見つかってしまったか。つまり、エキソバートは……。


そして、ダブルクが向こうでとらえた密告者は、昨晩鳥を飛ばせていない。にもかかわらずエキソバートに届いたのだ。それは、鳥を飛ばしていたのは一人ではないという事実でもある。


「陛下……」


「我が子とはいえ、ここで手を抜くわけにはいかぬ。

 エキソバートをここへ」



 そしてしばらくしてやってきたエキソバートは、何が何だかわからない、といった様子だった。本当に……。


「さて、エキソバート。 

 なぜここに呼ばれたかわかっているか?」


「いえ、わかりません」


 急に呼び出された執務室にわけがわからないという顔をしている。こうなってしまった以上、王太子の位は返上してもらわねばならない。今この事態に自覚がない、それが一番問題なのだ。


「そなたの私室から見つかったこれ、見覚えはあるな?」


「それは……。

 はい、ありますが、それが一体何なのですか?」


「これらはどのようにそなたの手に渡った?

 そしてこの内容はなんだ?」


「どのように、ですか? 

 どこからか鳥がやってきて、私の部屋に置いていくのです。

 内容は……、きっとシフォベントあたりが自分のことについて送ってきているのでしょう」


「そう思い放置していた?」


 わけがわからないという顔でうなずくエキソバート。ああ、これはだめだ。ゆっくりと聞いていったにも関わらず、一向に理解しようともしていないのだ。


「シフォベントがこれを送ってくる理由がない。

 お前ははめられたのだ」


「はめ、られた……?」


「私が説明いたしましょう、エキソバート殿下。

 まず、前提として近頃視察団を狙うものが確認されていました。

 ただ、その目的、密偵が誰か、どのように連絡を取っているのかが不明であり、調査中でした。

そして。昨夜ダブルクからの報告で密偵が発覚しました。

そのものは何者かに逐一視察団の行動を報告していたそうです。 

黒い鳥に手紙を託して」


 アークレッフェ公爵がしたわかりやすい説明に、エキソバートはわかりやすく固まった。ようやく状況が理解できたか……?


「ですが、私は何も……」


「そうだな、そなたが本当に視察団を狙っていたのならば一大事だ。

 だが、そなたが、王太子がなんの疑いもなく敵からのものを受け取っていた、ということが問題なのだ。

 そなたはもう子供ではない。

 この銀月が終われば、もう学院を卒業するというのに……」


「ち、……陛下?」


「エキソバート。

 この場をもってそなたの王太子位をはく奪する。

 今回の件がいかに王太子としてまずかったか、しかと考えよ」


 目を見開くエキソバート。だが、これは譲れない。私は父としてよりも国の王としての判断を優先させなければ。エキソバートはもう大人なのだ。


「そん、な……。

 しふぉ、シフォベントの、せい、ですか?

 あいつが、あいつがいるから」


「エキソバート殿下?」


「エキソバート!

 それ以上はやめろ!」


 それ以上言っては、だめだ。取り返しがつかなくなる。お願いだ、そんな思いでエキソバートを見る。だが、こちらの声は届いていないようだった。その時、執務室の扉が強くたたかれた。


「何者だ!

 重大な話をしておるのだ!」


「申し訳ございません。

ただ、タッライ伯爵領より、ダブルク・スキフェン様が陛下に伝言を、と兵が来ておりまして……」


 ダブルクから? 現在、それが最優先だ。エキソバートのことは内輪もめであるが、視察団に関しては恐らく、皇国がかかわっている。


「なんといっている」


「失礼いたします。

 タッライ伯爵領にて、シフォベント殿下とアラミレーテ辺境伯子息が何者かにさらわれたと……。

 現在その行方を追っております」


「なんと……!?」


 シフォベントとアラミレーテ!? それはかなりまずい。


「どんな手を使ってもよい。

 必ず助け出せ」


 はっ、と返事をして兵が去る。とにかく早く見つかってくれ。そう願うことしかできない。


「は、ははは……。

 私から、……おうと、……だ」


「エキソバート殿下?」


「あいつが言っていたことは、正しかった!

 ヘーリも、マリーも、違うといっていた。

 だが、実際はこうなったではないか!

 全部、シフォベントが……」


「陛下」


 静かな瞳でこちらを見るシベフェルラ公爵。こういう時、彼は最も冷静に、最もしなくてはいけないことを見つめていた。本当に容赦がない。


「エキソバート、とても残念だ。

 そなたも私の大切な子の一人であるというのに」


「ち、父、上?」


「この場を持ち、エキソバートの王太子位、並びに王位継承権をはく奪する。

 学院卒業後は王族の離宮で暮らすといい。

 今はひとまず部屋に戻りおとなしくしていろ」


 近くの近衛騎士に連れていくよう目で指示する。呆然としているエキソバートは半ば引きずられるように執務室を出ていった。


「お疲れ様です、陛下」


「子育てとは、難しいな……」


「ええ。

 今はひとまずシフォベント殿下とアラミレーテ殿の無事を祈りましょう」




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