128 (途中イシュンの視点)
ずきずきと痛む。どこが痛むのか、もうよくわからない。なんで、こんな痛いんだっけ?
ふっと目を開けると、天井が見えた。つまりここは屋内。あー、また熱出しているな、これ。こんなに高熱出すのなんだか久しぶりな気がする。えーっと……、一体何が起きたんだ?
「っ!
アラン、目が覚めたのか?」
「え、イシュン、兄上?」
なんでここにイシュン兄上が……。ここ、もしかしてカーボ辺境伯領? 大混乱。
「うん、そうだよ。
久しぶりだね」
ふわりと優しく笑うイシュン兄上。ああ、本当に久しぶりだ。最近はずっと王都の方にいたし、領に帰ってきてもタイミングが合わなかったのだ。
「えっと、ここどこだろう?」
「ここはタッライ伯爵領だよ。
何があったか覚えているかい……?」
タッライ伯爵領……。って、そうだ!
「シントは!?
シントはどうなったの?」
「ちょ、落ち着いて!」
あ、やばい。勢いよく体を起こしたせいで、めまいが……。イシュン兄上が支えてくれたおかげで何とか頭をぶつけずに済んだ。
「ほら、シフォベント殿下は隣におられるよ。
殿下はそこまでひどい傷ではないが、熱が出ている。
だけど、今はよく眠っているよ」
イシュン兄上が指した方を見る。確かにシントがそこに寝ていた。ここはシントと2人部屋だから、すぐ横にいてよかった。安心できる。
「アランももう休みなさい。
君の方がひどい傷だったのだから。
それに熱もひどい」
「うん。
ありがとう、イシュン兄上」
もうものすごく眠い。確かにここは素直に従っておいた方がよさそうだ。
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「アラミレーテ殿の様子はどうですか?」
「スキフェン様。
先ほど一度目を覚まし、今また寝たところです」
「そうですか」
やっと安らかな寝息を立てて寝てくれた。ずっと苦しそうにうなされていたのだ。相変わらずけがはひどいが、きっと生死にはかかわらないだろう。後は熱が下がらないとつらいままだ。
アランの隣に立ち、優しく頭をなでるスキフェン様。この人が今回の視察団の責任者だという。その様子からは偉そうな様子は一切なく、子ども、いや弟を見守る兄のようなまなざしだ。ここに来たばかりの自分にはわからない事情ばかりなのだろうが、やはりどうしてアラン、そしてシフォベント殿下がこんな目に合わなくてはいけなかったのだろうか。こんなにも大切に思っていたのに、なぜ守り切ってくれなかったのだろう。
「何か言いたいことがある、という目ですね。
えーっと、イシュン・マラベシド、殿でしたか?
確か……、カーボ辺境騎士団の医療隊の隊長。
先に一つお聞かせください。
とても助かりましたが、なぜあなたまでこちらへ?」
「よくご存じですね。
いやな予感がしたから、です。
今はカーボ辺境伯領を抜けても大丈夫だったこともあり、参りました。
私からもよろしいですか?」
「ええ」
この余裕そうな顔がまた気に食わない。
「なぜ、危険と理解してこちらにとどまっていたのですか?
一刻も早く王都へ帰るべきだった。
せめて、アランとシフォベント殿下だけでも」
「そうですね、その通りです。
ですが、この状況で王都に帰るのもまた問題があることは理解いただけますよね」
理解はしても、納得はしない。結果として幼い二人が一番つらい目にあってしまったことは変わりないのだ。これが防げた事態であったのならばなおのこと、つづけたことに腹が立つ。
「では、私はこれで。
また様子を見に来ます」
でも、この人に突っかかっても仕方ないことくらいはわかる。兄上に迷惑をかけるのも避けなくてはいけないしな。
「イシュン、父上も了承していたからここに連れてきたが、落ち着いたら領に戻れよ。
あと誰にでもけんかを売るな」
「兄上。
いつからそこに?」
「ダブルク様と共に来ていた。
気が付かないとはな」
「そうでしたか。
特に用事がないのでしたら、どうぞお戻りを」
「冷たいな。
お前の医療の腕は信頼している。
だが、暴走気味になるのはいい加減直せ」
はぁ、とため息をつき立ち去る兄上。ほんとうにうるさい。そんなこと、自分でよくわかっている。今はとにかく二人が回復することが最優先だ。
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はー、やっとベッドから出ることを許可してもらえた。怪我もほとんど治って、熱も下がった! 完治、とはいかないかもしれないが、ほとんど治った。ちなみに明日には王都に帰るらしい。イシュン兄上たちはもう帰ってしまいました。
「その今、王都はいろいろと大変なことになっていまして……。
驚くかと思いますが、どうか気を確かに。
アラミレーテ殿はぜひ、シフォベント殿下を支えてあげてください」
馬車に乗ると早速、ダブルク様がそんな風に切り出す。え、怖い。何その深刻そうな感じ。しかも、その言い方だと大変なのはシント、だよね?