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 はぁ、はぁ、と自分の荒い息遣いが聞こえる。この魔法は発動時だけでなく、発動中もずっと魔力を持っていかれるから消耗が激しい。血とかの媒介も使わなかったからより顕著だ。そろそろ、いいかな。1分くらいはたったはず。そのくらい息できなかったら、生きていない、よね?


 はじめと同じようにぞぞぞぞ、と闇が引いていく。ピタリと動かないからだ。……おかしくないか? なんで倒れない。じっと男の体を見つめる。そのとき、かっと目が見開いた。


「は、はは、はははは!

 面白い、魔法とはおもしろいな!」


 まだ闇がまとわりついている足を無理やり動かしてこちらに来る。どうして、どうして、動ける?


「なあ、坊ちゃん。

 こっち来いよ。

 お前の力を存分に使わせてやる」


「い、いい……。

 そんなこと、望んでいない……」


「どうだか」


 動けない僕を嗤うようにはっ、と笑う男。そして、一気に距離を詰めて首に手をかけられた。そうなって初めて男が自分に触れていることに気が付いた。


「はな、せ!」


 まず、い。意識が……。完全に飛ぶ、その直前で思い切り顔面を殴られた。そのせいでか、おかげか、意識がまたはっきりとする。そのあとも遠慮なく殴ってくる男。本当に何がしたいんだ。


攻撃がやむその一瞬の隙、足元の土で自分と男を分けるしかない。そう覚悟したとき、急に僕をつかんだ手から力が抜けていく。必死に振り切り、距離を開ける。そして男に目を向けると、スローモーションのように前のめりに倒れていった。


ああ、初めてだ。初めて、魔法を人殺しの道具に使ってしまった。


 っ、泣いている、暇はない。一刻も早くシントと合流しないと。わかってる、わかってはいる。でも、どうしてだろう。なんだか、自分の中で神聖なものを、大切にしないといけなかったものをぐちゃぐちゃに汚した、そんな気分だ。


 はぁ……、切り替えろ。ここでつかまったら逃げた意味がない。とにかく、切り替えなきゃ。シントはどこに行っただろう。山に逃げると決めたのはシントだ。ならきっと山から出ていないはず。だったら、頂上に向かうのが一番確実か。


 決めたら即行動だ。まっすぐ頂上を目指す。先ほどの魔法でだいぶ体力が持ってかれてずっと息が整わない。でも、ここに留まるのも危険だし……。仕方ない。


 だんだんと夜も明けてきている。きっと、ダブルク様が見つけてくれる。それに父上にも応援を頼んだって言っていた。うん、すこし元気が出てきた。


 頂上に向かってとにかく歩く。その途中で急に火の手が上がった。あれは、もしかしてシントの……? あんな風に目立つように炎の魔法を使うっていうことは、誰かに襲われている? きっとあのままだと山中に火が広がる。早くいかないと。

息が苦しい。でも、足を止めたらだめだ。今はとにかく足を動かすことだけ考えないと。


必死に向かった先、そこには予想通りシントの姿があった。誰かと対峙している。やっぱりほかにも敵はいたんだ。敵は先ほどの男とはちがって無口。特に何かを話すようすはない。どうして、シントはそれ以上動かない?


「どうして、僕を……」


 敵はまだこちらには気が付いていない。そこがねらい目だろう。あいつがシントだけを見ているうちにどうにか決着をつけないと。こうしている今もシントの方に近づいていっている。動揺しているのか、そのたびにシントが派手に炎を出していた。


「く、来るな!」


 それで来ない敵は居ないよ、そんな風に突っ込む。これでなんとか平静を取り戻さないと。狙うは一点。相手がシントに集中しているうちに。一瞬で氷を作り、敵がこちらを振り向いたその瞬間に急所に刺す。


「シント!

 大丈夫?」


「え、あら、ん?」


 近づきながら火を消していく。さすがにこのままはまずいものね。


「シント、その腕……!」


 真っ青な顔で抑えている腕を見ると明らかにけがをしている。すぐに助けに来てくればいいが、長く放置するとさすがに危険か。


「目をつぶって。

 今からやることを、なかったことにして」


「え、どういうこと……?」


「いいから」


本当は、ここで使うのは良くないことはわかっている。それに力加減を間違えるとまずい。でも、ここでシントを失うわけにはいかないんだ。


 


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