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121 ダブルクの視点



「だから! 

 別にいいだろ、あいつらがいなくなったって。

 どちらも優秀な兄がいる、それももう成人になるな。

 スペアは用済みだろ」


 ああ、気分が悪い。こいつに付き合ったせいで徹夜する羽目になったことは、まあ見逃すとしよう。だが、先ほどから聞いていれば次男はいらない、スペアでしかない、そんな話ばかりを繰り返している。正直もう切り捨てたい。


「ああ、そうか。

 だが、それを言うなら私も次男なんだが?」


「はは、だったな。

 だが、スキフェンを継げる。

 運がいいことだ」


 ジルヘ。こいつの話を聞く間に身近な仲間に話を聞いたり、より確実な証拠を集めたりしたが今回のことは生育環境も根にあったのだろうとはわかった。


 領地をもたない男爵の次男にうまれたジルヘは、幼いころから何かと優秀な兄と比べられていたらしい。そして自分を冷遇する親を見返すために、必死の努力でこの視察団に入ったという話を同僚の一人がしていたらしい。普段の言動に気になる点は特になし。たまたま鳥が飛んできた方向にいた、そんな理由でなんの疑いもない団員だったらすぐに開放しただろう。


 ただ一点。その同僚が気になったことがあったのだ。そんな環境からか普段は家族等に連絡を取ることはなかったそうだ。しかし最近、というよりもこの視察が始まったくらいの時から 手紙を書くようになり不思議に思っていたのだ。そこで恋人か、とからかったところ違う、とひとこときっぱりと返された。確かに手紙を送る様子も受け取る様子もない。ならどうして書いていたのだろうな、と話していたところ、この事件を告げられた、と。同僚はひどく動揺しているようだ。

 

 そして、その手紙に使っていたという紙、インクを持ってこさせると今回手に入れた手紙と一致していた。そのことを告げると、自分はやっていない、何かの間違いだ、と丁寧に否定していた様子が一変した。そして自分が出したと自白した後、今にいたる、と。厄介な。


「それで?

 一体誰にこれをだしていた?」


「さあ?」


「さあってな!」


「この手紙、本当に誰に出しているか知らないんですよ。

 ただ、自分たちの位置をできるだけ正確に教えろと言われて実行していただけですから」


「相手もわからずにこんなことを?」


「何も知らずにぬくぬくと暮らしているお坊ちゃんたちに自分たちの立ち位置をわからせる。

 それだけで動くのに十分でしたので」


 くくく、と不気味な笑いを漏らすジルヘ。本当に思考が理解できず、話しているだけで疲労が蓄積していく。


「では、シフォベント殿下とアラミレーテ殿が目的ということだな」


「少なくとも僕はね。

 これを言ってきたやつの狙いは知らない」


 話にならない……。一体だれがこれを頼んだのか、視察団を、いやあの二人を狙う目的は何なのかはっきりさせたいが。



「だ、ダブルク様!」


 深夜に捉えたはずなのに、すでに外では昇った日が沈み始めていた。いっそいったんこのまま放置がいいのか、と考えているころ、バーン! という大きな音を立てて入ってきたものがいた。


「何事だ?」


「その、それが……。

 庭を散歩中、シフォベント殿下とアラミレーテ辺境伯子息が何者かにさらわれたようです!」


「……は? 

 護衛は何をしている?」


「くっはははは!

 こちらにかまけていてくれるもんだから、相手もやりやすかったのだろうな」


「何か、知っているのか」


「いいや?

 今まで話したことですべて、ですよ」


 話にならない。いったん部屋をでて報告に来た者の話を聞くと、夕方殿下とアラミレーテ殿は庭を散歩していたらしい。その途中、二人が何かもめたようで、というよりも話を聞いているとアラミレーテ殿がシフォベント殿下をからかいすぎたようだが、それでシフォベント殿下が急に走り出してしまった、と。そしてシフォベント殿下に護衛が追いつく前に、横から現れた何者かにさらわれた、と。そして慌ててシフォベント殿下を追うと、共にいたアラミレーテ殿の方の護衛がおろそかになり、結果、二人ともさらわれた。


「一体何をしている!?」


「も、申し訳ございません……」


 それでは護衛を付けた意味がない。何のために陛下が近衛騎士をより多くこちらの視察によこしたのか考えたとこもないのだろう。目の前でシフォベント殿下が連れ去られ、動揺するのはわかる。ここは屋敷のなかであり、安全だと、心のどこかでは油断してしまっていたのだろう。あれだけ注意したにも関わらず、だ。そしてその動揺により、もう一人の守るべき対象であったアラミレーテ殿から離れた。

 

 動揺でさらに失敗を重ねてどうする。だが、今は助け出すことが第一。説教など、彼らが無事に戻ってきた後にいくらでも時間をかけてやればいいのだ。いくらしっかりしているとはいえ、いくら魔法の才があるとはいえ、彼らは共にまだ11歳。今回のことがトラウマにならなければいいが……。なんにせよ、そのような心配も二人が見つかってからだ。


「だ、だだだダブルク様!

 私たちは、何もしておりません。

 屋敷の滞在許可を、と言われるので許可したまでです。

 どうか、どうか公平なご判断を……」


 二人がさらわれたという地点にひとまず足を運ぶことになり、すぐに行動を始める。ジルヘの監視にはキークを置いてきた。まだ仲間が潜んでいる可能性もあったからだ。そして歩き始めてすぐ、この面倒な男につかまっていた。非常事態下で、このように自分の保身しか考えぬやつに。


「何もできぬなら、せめておとなしくしておけ。

 今度私の行動を邪魔するのならば、相応の報いを受けてもらう」


 ひっと小さな声をたてた伯爵はようやくおとなしくなる。そして道を譲ってくるとすぐにまた向かい始めた。


「なにやら騒がしいときに来てしまいましたね。

 これは一体なんの騒ぎですか?」


 その途中、またもや邪魔されたと声の方向を見ると、今回の一行には見覚えのない青年がいた。誰だ……?


「これを失礼いたしました。

 カーボ辺境伯の命で参りました、ハーボン・マラべシドと申します」


 辺境伯の命?


「もしかして、あなたが辺境伯の応援、ですか?」


「はい。

 部下数名とともに参りました。

 とにかく早く着くように、とのことでしたので」


「わかった。 

 実はシフォベント殿下とアラミレーテ殿がさらわれ、現在後を追うところだ」


「……アランと、シフォベント殿下が?

 わかりました、微力ではありますが手を貸します」


「それは助かります」


 驚き、固まっていたのは一瞬。すぐに意識を切り替えたようだ。さて、カーボ辺境伯家の兵も使えるならば心強い。ここからはいかに早く彼らを見つけられるか、が問題だな。



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