120 ダブルクの視点
鳥、鳥か。確かにそれならこちらの居場所を教えることも可能か。地での連絡手段は監視していたが、空は盲点だった。
「本当に、あの子たちには驚かされてばかりだ」
「何か言いましたか?」
おっと、声に出していた。隣にはこんな夜中にも関わらず駆り出されてしまったキークがいる。宝石眼をもつ彼は魔法に優れている。もちろん本人の努力の結果だということも知っているが、視察には目立ちすぎるからと新しい魔法すら作り出してしまったのには驚いたよな。
「え、なんですかその目は?」
「いや、本当に君が魔法師団に取られなくてよかったな、と思っていたんだ」
「あー、そのことは忘れていただけると助かります。
もちろんあの団長から庇っていただいた感謝は忘れませんが」
「本当に律義だな」
「もうその話はいいでしょう……。
しっかりと魔法は効いていますか?」
「ああ、大丈夫だ。
しっかりと見えているよ」
こんな夜中にキークとここにいる理由、それは鳥を飛ばして連絡を取っている人がいるのか確認し、いた場合捉えるためだ。毎日飛ばしていないかもしれないが、今日は朝に連絡した方がいいと判断するであろう情報を流しておいたのだ。そして、行動を起こしていると思われている夜にこうして見張っている。キークの夜間視力の補助魔法を使って。おかげで周りは暗闇でも周りの様子はしっかりと見えていた。
そうして見張ることしばらく、予想通りに誰かが鳥を飛ばした。闇に完全にまぎれるような真っ黒な鳥を。
「来た」
弓を構え、狙いを定めてすぐにひく。だが、思ったよりも上空を飛ばれているようで矢が届く様子はない。だめか、と飛ばした人間を探す方に思考を切り替えたとき、矢が吸い込まれるように鳥の方へ飛んで行った。
「まあ、これくらいの補助でしたら」
「はは、本当に君を視察団にのこせてよかったよ。
鳥を放った本人を探すから、鳥は頼んだ」
「ちょ、それ逆では!?」
何か言っているけど無視で。配置しておいた兵に手早く状況を告げ、鳥が飛んで行った方向にとにかく走る。相手は隠れようという意思もないのだろう。ただ、鳥をとばした方向を呆然と眺めている。あいつは、確か視察団員のジルヘ、だったか?
「そこで何をしている?」
「おや、ダブルク団長ではないですか。
夜の散歩を楽しんでいたのですが……、そのような形相でどうされましたか?」
くるり、とこちらを向いたジルヘには動揺した様子はない。不気味なほど静かだ。
「先ほど、鳥を飛ばしたのはお前か?」
「鳥……。
ああ、先ほど落ちたあれですか。
いえ、僕は何もしていませんよ」
では、と隣を通り過ぎようとするジルヘ。その腕を捕まえると、けだるげにこちらに瞳を向けた。
「なんでしょうか?
もう部屋に戻って休みたいのですが」
「まあ、待て。
少し話をしようじゃないか」
ざっと、私たちを囲うのは兵たち。先ほど事情を話したものが連れてきてくれたようだ。この状況下でもとくに動揺せずに、おおげさだなぁとジルヘはのんきに言っていた。
そのまま兵とともに屋敷内の一室に入る。ここは殿下とアラミレーテ殿から最も遠い部屋だ。まだ誰が狙いなのかわからないが、一番危ない二人をなるべく遠ざけることにしたのだ。
「あ、ダブルク様。
どうぞ」
椅子に座らせたジルヘを縛り付けたとき、タイミングよくキークが文を持ってきてくれた。その中を開くとこちらも予想通り。今朝発表したここでの滞在予定だった。さて、あとはこいつの口を割らせるだけだが……。
「それで?
どうしてこんなことをした、ジルヘ?」
「おや、僕の名前を知っていらしたんですね。
申し訳ありませんが、なんのことかわかりませんね。
その手紙、なんですか?」
「わからないと?
ではなぜこれが手紙だと思った」
「いや、それは……」
さて、どうすると一番早く口を割らせられるか。まあ、こいつはきっと下っ端だろうからろくな情報は得られないだろうが、放置する理由にもならない。まだまだ夜は続くのだ。少しくらいゆっくりしても誰も怒らない。