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危ないので、と外に出ることもいい顔をされなくなってしまい2日たち、だいぶ暇! 今まではそれでも事情を話して不安にするのは、とだいぶ気を張ってくれていたらしい。
「それにしても、こうして何もしていないとますますお荷物感ますね。
もともと子供ってことでかなりお荷物だったけどさー」
「まあね。
でも、ここで下手に動いた方がお荷物だから」
そうだけどさー、と口をとがらせるシント。本当は外に行きたいんだろう。それにラディオ羊の牧場ってここのすぐそばなんだよね。鳴き声が聞こえてくるくらい。こんなに近いんだったら少しくらい、と思わなくもない。やっぱりせっかくここまで来ているのだし、ここでしたできないことをやっていたい。
「カーボ辺境伯からの応援が到着しましたら、外に出られるかと思いますよ」
つまりいつまで部屋にいなきゃいけないかは父上次第ということか。ちなみになんでこんなにアシュート侯爵領の時と警戒度が違うのかというと、領の特色の違いらしい。アシュート侯爵領は白爛石の特色上、閉鎖的で元から外部者が入りづらくなっているらしい。タッライ伯爵領は逆に開放的なことが特徴。こういう状況下ではつまり狙いやすい。危険だけれど、今回はそれが狙いだからな。
「きっとすぐに参りますよ。
ですが、確かに少し窮屈ですね。
散歩程度で外に出られないか聞いてみましょうか」
それでもまだ不満げな顔をしていたからか、ツェベルがそう提案してくれる。確かに短時間でいいから外に出たいかも。これで自分の屋敷だったら自由に歩き回れるんだけれど、他人の屋敷ということでできることがほぼないのだ。
少しするとツェベルが返ってくる。さすがに遊びたい盛りの子供を押し込めていることが申し訳なかったのか、少しならと許可がもらえたようだ。
「部屋の窓を開けるくらいはできていたけれど、やっぱり外に出ると気持ちいいねー」
許可をもらって早速外に出るとちょうど心地いい風が吹いていた。夕方とあって日も傾いていて、いろいろちょうどいい。うーん、丁寧に整えられた花に夕日、すごくきれいだ。そしてそれにそぐわない護衛の姿。仕方ないとはいえ、なんだか堅苦しい。こういう風になると、シントって王子だし、僕も一応貴族の子息なんだなって感じる。
「部屋からも聞こえてきていたけれど、ここからだともっと羊の鳴き声がよく聞こえるね」
「そうだね。
羊……、撫でてみたいかも」
「そうだね。
早く見に行けるといいね」
「あ、そういえば今日の夕飯にラディオ羊が出てくるって言っていたような」
「え、それ今言う!?」
「あっはは!
本当にシントって思った通りの反応してくれるよね」
うんうん、こういうとむくれるのも予想通りだよ。シントのそういう素直なところ、本当に尊敬できるし好きだ。って、走り出した!?
「ちょっと待って、シント!」
とりあえず、シントに追いつかないと、と走り出す。その時だった。前にいたシントが、いきなり、消えた。
「シフォベント殿下!?」
周りにいた護衛の人たちがシントの名前を叫び、すぐに走り出す。シントが急に走り出したから、護衛の人も追いついていなかったのだ。消えた、といっても明らかに誰かに横からかっさらわれた。ど、どうしよう!?
「アラミレーテ様、部屋に戻りましょう」
「え、でも、シントが……」
早く、と必死に僕の手を引くサイガ。その体が急にぐらりと傾いた。え? と思っているうちにぐっと強い力で引っ張られた。え、え?
「よし、これで二人とも手に入れた!
早く逃げんぞ!」
「おうよ。
がはは、こんなにうまくいくとはな」
これ、あれだよね、僕もさらわれた……? あ、やばい、なんか、変なのかがされ、た……。