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さて、馬車に乗ったはいいがこれは一体どこに向かうのだろう。僕の予想通りの事態になっているならば、このまま次の目的地に行くのも難しい気がするんだよね。でも、一向に何も言いださない。ううーん、これ僕から言い出してもいいのかな……。
「何か、気になることがありますか?」
どうしよう、とソワソワすることしばらく。急にダブルク様の方からそう問いかけられた。もういいや、聞いてしまえ!
「このまま次の目的地、タッライ伯爵領に向かうのですか?
王都に引き返したりはしないのですか?」
当り前じゃないか、という顔をしているシントは置いておく。この人は本当にわかっていないだろうから。そして本題のダブルク様はというと、わずかに驚いた顔をして固まっている。これはやっぱり考えがあっていたってことかな。
「気づいて、いたのですか?
一体いつから……」
「昨年の最後の方で、急に全員泊まれないとわかっていて宿に泊まった時点で不思議だったのです。
視察団の中では身分に差があろうとも平等であろうとしていたのに、急に、です。
そして、今回の視察が始まる前に護衛の入れ替えがありましたよね?
わずか、といえるかもしれませんが近衛騎士が増えていた。
なので、そう考えていました」
「ははっ、完全に隠せていないですね。
お二人に心配をかけるよりはと何も言っていなかったのに」
当たっていないでくれていた方がありがたかったが、だめだったか。あの、シントはここまで言っても心当たりないんですね。うん、まあ殿下だし、守られるのが仕事でもあるし、そのままでもいいんじゃないかな?
「それで、なぜそのうえでこのまま次の目的地に向かうことに?」
「そうですね、自分の身を守ってもらうためにもそろそろ説明した方がいいかもしれません」
「え、あの、先ほどから一体何の話をしているんですか?
……まさか、とは思うし、そうでないことを願うのですが、この視察団を狙う人がいるということですか?」
あ、何となくわかってはいたんだ。でも現実逃避していた、と。ひとまず、話を次に進められるみたいだ。
「そのまさか、ですね。
ただまだ狙いがはっきりしていないのです。
視察団自体かもしれませんし、特定の誰かかもしれない。
そしてなぜ狙うのかも。
上と話した結果、目的がはっきりとしないまま王都に戻るのも危険、ということになったのです」
それも一理ある、のかもしれない。かなり危険な気もするけれど。
「そして、はっきりしないということはお二人を狙っている可能性もあります。
有事の際は迷わず魔法を使ってください。
それと、アラミレーテ殿」
魔法。まだ人に使ったことがないそれを、いざというときに本当に魔法を使えるんだろうか。そんなことを考えていたら名前を呼ばれてしまった。えっと、なんだろう。
「申し訳ないのですが、しばらく眼帯を付けていてもらえませんか?
万が一、瞳の魔法が解けてしまったら何かと厄介なのです」
本当に申し訳なさそうに言うダブルク様。どうしてみんな、僕に眼帯を付けてくれというとき、そんな申し訳なさそうな顔をするんだろうか。本人はそこまで気にしていないんだけれど。まあ、もちろん両目で見れた方が楽だけれど。
「わかりました。
大丈夫です」
ということで早速荷物から眼帯を取り出す。常につけていなくてもいいから、常に持っていてくれと言われてこうして持ち運んでいるのだ。
「次のタッライ伯爵領では視察も行いますが、応援も来てくれますよ」
「応援?」
「はい。
カーボ辺境伯から兵を貸していただけることになったのです。
これで守りを固め、ぎりぎりまで探る予定です。
お二人にはこのようなことに巻き込んでしまい、大変申し訳ないと思っているのですが……」
「大丈夫ですよ。
何かあったらすぐ魔法でも使って逃げますので!」
「はい!」
すごい状況に巻き込まれた、とは思うけれどまあきっとどうにかなるでしょう。父上も力を貸してくださるみたいだし。
もっと僕らが怖がるかと思ったのか、僕らの様子を見てなんだかから笑いしている。そしてさすがですね、と口からこぼれてますよ、ダブルク様。