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「では、実際に採掘をしてみます」
そういって、案内人が持ってきた採掘道具を取り出し、採掘する場所を探り出す。音で判断しようとしているのか、ハンマーのようなものでいたるところを軽く叩いている。そして、あたりが付いたのか、ものを持ち換えて強くたたき出す。鉱山のほとんどを構成しているものがはがれていくと、そこからは白爛石がでてきた。本当に音で判断できるの? 全く違いが判らなかった。これは確かにコツがいるよ。
そして、もう一つ。やっぱり僕に見えていたものは白爛石であったらしい。うーん、これどういうことだろう? 気にはなるけれど、相談できないのがつらい。
周りが無言で見守る中、ガンガンガン、といった叩く音だけが響く。こんな状況下でも集中して採掘できるってすごい。僕はきっと視線が気になって手元が狂うよ。
「本来はこうして一人で行うことはないですよ。
何人かでチームになり、同時に打っていきます。
新人がいる場合は、古参がペアになりコツを伝えていくみたいですよ」
つまり口伝で繋いでいっているってことか。それはそれですごいな。でも、こんなに感覚的なものだったら、確かに実際にやりながら伝えていくしかないか。
「これは珍しい。
なかなかお目にかかれないくらいの大きさのものですよ、きっと」
採掘場を照らす、ほのかなろうそくの炎にすら反射する白爛石は、一度姿を現してしまえばとても見やすかった。採掘につきものの粉じんも最初に着けた布が防いでくれる。やらないよりまし、くらいの気持ちで布をつけていたが、粉じんに対しては確かに効果があるみたい。まあ、本来の目的は達していないけれど。
ガンガンガンガン
ひたすら叩く音が響く。真剣そのものの顔つきでずっと採掘ができるなんてすごい……。僕には無理だ、きっと。そんな時間がしばらく続いたころ、案内人は大きく息を吐き出した。ようやく採掘が終わったのだ。
「本当にすごい……。
こんなに大きいものは初めて見ましたよ」
そういって、早速採掘した白爛石を手のひらに乗せる。大人のこぶし大の大きさだ。確かに今まで見てきた指先ほどの白爛石と比べればはるかに大きい。
「あ、あの!
ずっと気になっていたのですが、白爛石は割るとどうなるのですか?」
ほう、と採掘されたばかりの白爛石に見入っていると、隣のシントがそんな質問をヒデシャルテ様にしていた。そういえば確かに。白爛石は中身までもがあの虹色なのだろうか。質問されたヒデシャルテ様はというと、むずかしそうな顔で首をひねっていた。
「うーん、どうでしょう。
そのようなこと気にしたことがないので……」
そして少し待っていてください、というと案内人のところまで行ってしまった。これ、質問しに行ったってことだよね? 隣のシントも慌てているということはやっぱり今聞きに行くとは思っていなかったのだろう。
でも、案内人も首をひねったということは知らないのだろう。まあ、大きければ大きいほど高く売れるのならばわざわざ割るということはしないだろうから。あ、ヒデシャルテ様が少し落ち込んで帰ってきた。
「すみません、わからないそうです」
「だ、大丈夫です!
少し気になっただけなので!」
「そうですか……?
でも、シフォベント殿下は面白い視点を持ってらっしゃるのですね」
感心したように言われて、シントが反応に困っている。まあ、その気持ちはわかる。が、頑張れ!
「何か困っていることはありますか?」
「困っていること……。
いえ、特にはございません。
この鉱山は出入りがとても厳しく管理されているので、とても安全ですし、むしろ恵まれているくらいです」
「それならば何よりです」
シントのことは一度おいといて、とダブルク様たちの会話の方に意識を向けると、そんなことを話していた。そういえば、ここに来るまで2、3回門らしきものをくぐった気がする。今日は視察団が来るということですでに開いていたけれど、いつもは一つ一つが結構厳しく規制されているらしい。
しかもここまで来るのに通れる道は少ない。そのため、不法採掘を防げるそうだ。これもヒデシャルテ様に教わったな。
「もう、アラン!
助けてよ」
「え、なんかあった?」
やっぱり、宝の山を前にしての安全って大切だよね、とか思っていたら隣から声をかけられちゃった。何かって! と文句も言われているし。まあまあ、となだめているうちに視察が無事に終わってくれたみたいです。