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鉱山までは馬車。そして、そのあとは歩いたり背負われたりで、なんとか入り口に着く。本当にこの山険しい……。
「さあ、この布を口元に」
渡されたのは大きめの布。事前に聞いていたものだ。体調を崩す理由がはっきりとはわかっていないため、毒ガスのようなものが発生していることを想定してのことらしい。みんなが布を口元にあてて固定されたことを確認すると、全体が発掘現場へと進んでいく。発掘場所である洞窟に足を踏み入れる。途端に懐かしい感覚がした。言葉に表せるものではないが、古い記憶に似通った感覚。これって……。
「ここは変わらず心地いいですね」
「ええ、本当に」
心地よい。そうだ、そう感じるようになっていた。周りに顔を向けてみる。きっとこれが、この洞窟を構成しているものがその原因だ。
なるほど、これは確かに一般の人が長くとどまれば害を及ぼすだろう。これは逆だ。これがなにか害あるものを発しているのではない。生命力、といったものを吸われているのだ。徐々に吸われるからすぐに影響を及ぼすものではないが、長期間かけて徐々に影響が出る。
人の体はいろんなパーツが奇跡的にうまく組み合わさって、ようやく通常といわれる働きをする。その小さな歯車一つ止まるだけで大きな影響を及ぼす。生命力のようなものが減っていくと、そういう影響が出るのだ。
まあ、宝石眼といわれているような人はまた別だけれど。魔力が多ければ、減った力を魔力で補填することができるから。だから、僕たちは大丈夫だった。毎日のように祈りをささげても……。
「アラン?」
「え?
なに?」
「何って……。
いや、特に用事があるわけではないけれど、ぼーっとしているから具合でも悪いのかなって」
「ううん。
それは大丈夫」
ここで具合が悪くなるのは僕たちではないし。そう口に出すわけにもいかないから、下手なことは言いません。
「でも、恐ろしいなー、とは思っていた」
だって、白爛石という目立つ人目をひくものを用意して、目立たないもので目的を達しているってことでしょう? 捕食者っていう感じで怖い。
「恐ろしいかな?
むしろもっとぞっとするところかと思っていたけれど、心地いい場所だよね。
ここが本当にあんな恐ろしい病を起こしているのか不思議に思っちゃうほど」
いや、それが余計に恐ろしいんだって。まあ、そんなこと言えないから黙っておきます。そんな話をしながらも順調に進んでいく。僕らの会話を少し気にされていたみたいだけれど、まあ聞かれて困ることは言っていないからいいや。
「ああ、ここが今の発掘場ですね」
たどり着いた先には、確かにほのかに光るものが見える。あれ、こんなに光っているのに何で見つけるのに技術が必要なんだろう。うーん?
「今はこちらは場が安定しているため、特に崩壊の心配はされていません。
そして……」
「今度はどうしたの?」
案内の人が説明をしている間に、シントがこっそりと話しかけてくる。今度はって……。でも、ちょうどいい、シントに聞いてみよう。
「ねえ、なんであんなにわかりやすく光っているのに、白爛石を探すのにコツがいるんだと思う?」
僕の質問に一気に怪訝な顔をされる。え、僕変なこと言っていないよね?
「光っているって、何が?」
……え? いや、何を言っているの? あんなにわかりやすく光っているのに。
「え、本当に見えない?」
こくり、とはっきりうなずかれてしまった。え、なんで? でも、きっとシントのほうが正しい感覚なのだろう。うん、僕には何も見えない。見えないぞ。
「ごめん、何でもない」
「そう?
ならいいけれど……」
ふう、ほかの人に聞かなくてよかった。