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前回使ったボウルと水も用意していざ! 前回よりもだいぶこの体で扱う魔法というものになれたから、経験値の問題で成功しなかったのならもしかしたらいけるかも。そんな期待を込めて、またボウルの水に血を垂らす。今度は成功しますように。そう願いながら、唱えていく。唱え終わると、前回同様手のひらに触れる水がかすかに光る。こうなっても成功するとは限らないことはもう知っているんだ。
このままうまくいってくれ、そう願っていると光がはじけた前回と違って、今回は中央からまた別の光が広がっていく。そして新しく広がった光がとおった後にはどこかの画が映っていた。これは成功……?
「これ、懐かしい……。
成功、したってこと、だよね?」
「失敗、ではないと思う。
でもあまり成功でもない」
鮮明ではない画像。でも、そこには確かに何か、というよりも誰かが映っている。後足りないのは、血なのかなんなのか。それか距離も問題か。でも、きっとこれが僕の限界なのだろう。
音も、だいぶ荒いけれど一応入っているか。ちらりとシントのほうを見ると、あまり見ないくらいの真剣な顔でボウルの中を覗き込んでいた。それにつられて、ようやく僕もボウルに映っているものに目を向け、耳が音を拾った。
『はっ、……しょう…なかった…だな。
いい加減、……に、……な血統にその座を……せよ』
『ふん、お前の……に従うと?
皇帝……は我らの…』
『はははは、……にはまだ早かった…?
まだ……を理解でき……』
画像にかろうじて映っている若い男性二人。何やら言い争っていることが伝わってくる。場所が変わっていなければ、ここは皇帝の執務室のはず。つまり、豪華な椅子に座っている方の男性が皇帝、ということだろう。思っていた以上に若い。そして言い争いをしているのは誰だ?
「これが、今の皇帝……。
そっか……」
「シント?」
画面から目を離さないまま、つぶやく。どうしてそんなに真剣に見ているの? そんな質問をするのもためらわれた。
『それ以上……かにするな!
俺も……だ!』
『王の間に……もしないのに?』
『……お前もだろう!
そもそも……本当にあるのか……ない』
『あるよ、王の間は。
……のか知らないが、祖父は……行った』
気が付けば口論がさらに激化している。王の間? と思っている間にぷつりと映像が途切れる。これが限界だったらしい。再びちらりとシントのほうを見ると何かを考えこむようにしていた。
「あの、シント?」
「……、ありがとうアラン。
僕が知りたかったこと、少しわかったよ。
また、見せてくれないか?」
「それは、いいけど……」
本当にシントにこれを見せてよかったのか、なぜか不安になる。もう見せてしまったのだから仕方ないのだけど……。
「皇帝と、誰だったんだろう。
すごい言い争っていたけど……」
「……僕にもわからないや」
へらっとした笑い。シントはこういう笑いは基本しない。きっとシントはどういう人なのかわかったんだろう。でも、あえて何も言わなかった。なら、僕も追及する必要はないよね。