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「私はそなたから多くのものを奪った。

 そなたの普通の、幸せに歩めたであろう人生も家族も、そして大切な仲間も国一番の将軍としての栄誉も……。

 決して謝って許されることではないとわかっている」


 この人はこんなにも小さい存在だったろうか。考える力さえわかない頭でぼんやりとそんなことを思う。出会ったときはまだただの少年だったのに、いつの間にか彼は王となり顔にはしわが増えていった。知ってはいたが流れる時間の速度の差をはっきりと見せつけられたようで、今更ながら少し寂しくも感じる。


 ぼんやりとした目で陛下を見つめたまま答えも動きもしない僕に、それでも陛下も腹心も言葉を重ねようとはしなかった。自分たちがいかに僕に対して非道なことをしたのか自覚があるからなのだろう。それでも仕方がなかったと言い訳をせずにこうして罪を受け止める友人たちだからこそ、僕はそばにいたいと一時は願ったのだ。


 懺悔を受け取ることもしないまま、僕は出口へと向かう。もう陛下の親友でも武器でもなくなった僕にはここに居場所がないからだ。待っているのはあの子との楽しい隠居生活だ。唯一残った大切な妹との。


後ろ姿をじっと見られているのを感じながら扉へと手をかける。ああ、でも最後に一つだけやりたいことがあったんだった。

くるりと陛下を振り返るとすぐに目があった。そして大股で近づいていく。すぐに周りの人たちが動き出そうと反応した。それを陛下は視線だけでおさえる。


その状況をいいことに僕はすぐに陛下へと辿りつく。そして、自分の首にかけていたネックレスを外すと陛下の首にかけた。


驚きに目を見開く陛下の顔を視界の端にとらえながら、僕は今度こそ部屋を去って行った。


―その日、王の古くからの友人であり、国一番の将軍と呼ばれ、多くの人々の命を救った一人の男が誰にも見送られることなく王城を去っていった。城のものはまことしやかにささやく。彼は王に絶望して側を離れていったのだと―


_______________________________________________________


 意識がふわふわとする。一体自分はどうなっているのだろう。何かが、あったはずだ。


 ……、そうだ! ルベーナと二人で穏やかに暮らしていたところに、面の男たちが襲ってきて。それでそのまま気を失ったんだ。


「ルベーナ!」


『ああ、やっと目覚めたね』


 勢いよく目を開けると、すぐそばから声が聞こえた。知らない人に近づかれて僕がここまで気が付かないなんて。そちらを見ると、目に入ったのは、何だ? かろうじて人の形なのはわかる。でも、よく見えないのだ。


『警戒しないで。

 君を害することはしない』


「だれ、だ?」


 僕の言葉にそれはかすかに笑った気がした。どうしてだかわからないけど、そう感じた。


『ごめんね、まさか人間がここまで愚かな存在だと思わなかったんだ。

 本当はすぐに新たな生を与えたかったけれど、君は業にまみれすぎていた』


 業。それはそうだろう。数え切れぬほどの命を奪ってきた人生だったのだから。もう一度生まれ変わりたいだなんて、思ってはいない。


『でも、もう大丈夫!

 業はすべて濯がれた、君は生まれ変われる』


「もういいんだ。

 もう疲れてしまったから」


『でも、もう決まったことだからね。

 今度はきっと守られる人生を、君に』


 なんて勝手な。そう思っていると、すぐに目を開けていられないほどに眠くなる。一体何がおきるというのだろうか。


『じゃあね、私の愛し子』


 愛し子? 一体誰、だったん、だ……



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